福島から「宇宙版LCC」を目指す…AstroX、“空中発射ロケット”で民間初の宇宙到達へ

 しかし、民間企業がこの方式で実際に宇宙空間到達を成功させた例は、世界にまだ一つもない。

 ロケット開発において、最も難しく、最もコストがかかる部分はどこか。それは打ち上げ直後、地上から高度10〜15キロまでの大気圏を突破する瞬間だ。空気抵抗が最大になるこの「最大動圧点」を越えるために、従来のロケットは膨大なエネルギーと頑丈な機体構造を必要とする。開発費が跳ね上がるのも、失敗リスクが高いのも、突き詰めればここに原因がある。

 Rockoonは、その最難関をまるごとカットする。気球でロケットを成層圏まで運び、空気がほとんど存在しない場所から発射する。エネルギー効率が格段に上がり、機体にかかる負荷も激減する。

「成層圏発射により空気抵抗をほぼゼロにした状態で点火できるため、エネルギー効率が格段に上がります。1打ち上げ約5億円という価格での提供を想定しています」

 さらに、地上の開けた場所であればどこからでも放球できる。発射場の確保に悩む日本の宇宙開発において、この自由度は革命的だ。衛星事業者が求める場所・時期に応じられる柔軟性は、他のロケットにはない武器となる。

 今回のミッションで使用するFOX2ロケットは、2024年に南相馬から地上発射した「FOX1」をベースに、成層圏での発射環境に対応するよう改良を重ねた単段式ハイブリッドロケットだ。全長5メートル、推力約12キロニュートン。すでに高知工科大学との輸送契約が結ばれており、「第1号ロケットから顧客がいる状態で打ち上げる」という点も、開発段階のスタートアップとしては異例の強さだ。

 世界市場に目を向ければ、宇宙の活用規模は2035年に269兆円に達すると予測されている。小型衛星の需要は急拡大しているが、打ち上げ能力の供給はまったく追いついていない。スペースXでも2〜3年待ちという状況が続くなか、日本からの低コスト・高頻度打ち上げというAstroXのビジョンは、単なる技術開発の話ではなく、産業インフラの話だ。

逆境が証明した姿勢制御技術

 Rockoon技術の心臓部は、姿勢制御装置にある。成層圏という足場のない空中で、ロケットを正確に狙った方向へ向け、安定した飛翔を維持し続ける。これを実現するCTOの和田豊氏は、千葉工業大学教授として長年この技術の研究を続けてきた研究者だ。CMG(コントロールモーメントジャイロ)を用いた独自システムの実用化に成功し、AstroX創業の技術的な柱となっている。

 今年2月、その姿勢制御装置の実証実験として、ロケットを吊り下げた状態での発射試験が行われた。しかし、使用した燃料棒が点火直後に破損。ロケットは正常な飛翔に至らなかった。

 この「失敗」について、記者会見の質疑で問われた和田氏は、経緯を包み隠さず話した。その上で、思わぬ言葉を続けた。

「使用した燃料棒は既製品で、以前から不具合の報告はありました。ただ、破損したことで横方向にも推力が発生するという、通常では起きない状況になりました。そのイレギュラーな力を、姿勢制御装置が自動的に抑え込んだデータが取れたんです。結果的に、非常に安定性の高い仕組みを開発できていることを実証できました」

 予定外の失敗が、予定外の証明になった。宇宙開発の現場には、こういう逆転がある。想定外の事態に直面したとき、技術は本当の強さを見せる。和田氏の言葉には、その確信が滲んでいた。

 4年間、コンポーネントごとの試験を積み上げてきたAstroXが、今回初めて「全てを統合して成層圏で打つ」段階に到達した。技術の積み上げは、派手ではない。しかし確実だ。

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