福島から「宇宙版LCC」を目指す…AstroX、“空中発射ロケット”で民間初の宇宙到達へ

 そんな同社だが、拠点はなぜ東京ではなく、福島県南相馬市なのか。

 小田氏は創業時、全国で候補地を探したという。実験に使える広大な土地、技術開発への行政の予算、そして意思決定の速さ。南相馬はその全てが揃っていた。行政との連携スピードは、ベンチャーにとって死活問題だ。その点でも、南相馬の動きは「一緒のスピード感でやっていただける」と感じさせるものだったという。

 しかし、小田氏がこの地への思いを語るとき、合理的な理由を超えた何かがにじみ出てくる。

「2024年の打ち上げ実験の際、県内外から400人ぐらいの方が見学に来てくださって。その中に、15年前の震災を経験した地元の方がいらっしゃいました。ロケットが上がるのを見て、その方がこうおっしゃったんです。『15年前に全てがなくなって、みんなが下を向いていたあの場所で、みんなが上を見るとは思わなかった』と」

 ロケットが空に向かうとき、人は物理的に上を見る。それだけのことかもしれない。しかし15年間、下を向き続けた場所でその瞬間が訪れたとき、それはもう「物理」の話ではなかった。

「勝手に日本を背負ってやっているつもりなんですけども、それ以外にも南相馬のいろんな方の思いを背負って応援してもらっているなという思いがあります。福島から宇宙産業、新しい産業ができて技術力を証明するというのが、日本だけじゃなくて世界にもすごいインパクトがあると思っています」

 同社が掲げる「ジャパン・アズ・ナンバーワンを取り戻す」というビジョンは、華やかなスローガンではない。ITの世界で「勝てない構造」に歯を食いしばった経験と、震災を経た土地でロケットを見上げた人々の表情が、その言葉の中に詰まっている。

商用化まで「まだ30%」――それでも前に進む理由

 2026年度中のサブオービタル到達(高度100km)、2029年のオービタルロケット成功、2030年代からの衛星打上げ事業の商用化――。ロードマップは明確だ。しかし、ゴールまでの道のりはまだ長い。

 商用化を100%とした場合、今どのあたりにいるのか。この問いに、小田氏は迷いなく数字を口にした。

「20〜30%というところだと思います。サブオービタルミッションが成功できるかどうかが、まだこれから控えている大きな関門ですので」

 この率直さが、AstroXという会社の誠実さを物語っている。数字を盛らない。過大な期待を煽らない。それでいて、諦めていない。

 累計調達額は23.2億円(シリーズA含む)。みずほ銀行、三井住友銀行からのデット調達も受けており、財務基盤は一定の厚みを持つ。次のラウンドはサブオービタルミッション終了後を見据えており、上場については「資金調達の一手段として視野に入れているが、目標ではない」と明言した。

 宇宙ロケットの開発は、世界でも「お金が溶ける」事業として知られる。それでも創業4年で現在のマイルストーンに到達できたのは、Rockoonという方式が持つ本質的な合理性と、南相馬という土地が与えてくれた開発環境、そして何より「勝てない構造を変えたい」という創業者の執念があったからだ。

 記者会見を終え、囲み取材の場で小田氏はこう語った。ITの世界でGAFAMの支配に「溺れている人が多い」と感じてきたからこそ、この宇宙という産業に日本の未来を見ている、と。

 技術は着実に積み上がっている。南相馬の空に、ロケットが向かう日が近づいている。その瞬間、また誰かが上を向く。それだけで、この挑戦には十分な意味がある。

(取材・文=昼間たかし)