第二に、紅海迂回ルートによる物流コストの二重化。 フーシ派による紅海・スエズルートへの攻撃を避けてアフリカ・喜望峰を迂回するルートへの切り替えが常態化し、欧州やインドからの輸送日数は1〜2カ月単位で増加している。輸送コスト増は資材価格にそのまま転嫁されるため、価格面と納期面の双方でダブルパンチとなった。
住設メーカーの受注制限は、住宅建設現場に連鎖反応を引き起こしている。
5月1日出荷分を境に、建設・建材分野で30社を超える一斉値上げが実施された。値上げ幅は品目によって大きく異なり、住設建材20%以上、断熱材40%、ルーフィング(防水下地材)40〜50%、シンナー50〜80%、塗料20〜70%という水準は、施主にとって数十万〜百万円単位のコスト増要因となる。
工務店や設備業者が直面しているのは、単なるコスト増だけではない。
「屋根ルーフィングが届かなければ上棟後に施工を進めることができない。断熱材が入らなければ内装工事に着手できない。一部材の欠落が全工程をストップさせる」——現場の実務者からはこうした声が相次いでいる。引き渡し直前の段階で「一部の設備が納品されない」「外壁塗料が届かない」という事態が発生し、最終引き渡しが数カ月単位でずれ込む案件が出始めているのが現状だ。
中堅工務店の経営者はこう語る。
「うちの規模では、引き渡しが3カ月ズレると資金繰りに直接響いてきます。建設業の入金構造は、工事の完成・引き渡し時点で大きな金額が入る仕組みです。工事は進んでいるのに入金が来ない状態が続けば、売上の帳簿上の数字とは無関係に手元の現金が枯渇する。いわゆる黒字倒産のリスクです。大手と違って中小には体力がないので、かなり苦しい」
引き渡し遅延は、法的・商業的な問題も引き起こしている。
新築マンションの売買契約書の多くには「天災地変、経済情勢の急変、行政指導その他やむを得ない事情による遅延は補償対象外」との条項が設けられている。
「複数の物件担当者が『引き渡しが遅延しても原則補償はしない方針』としながら、『他社動向を鑑みながら検討を進めている』と述べており、デベロッパー各社の対応は足並みが揃っていない状況です」(伊藤氏)
こうした状況を受け、国土交通省は住宅設備が未設置のまま建物が完成した場合でも、完了検査や住宅ローン実行を可能とする特例的な運用を開始した。行政側も「正常な状態」の前提が崩れた現場に対し、柔軟な対応を余儀なくされている。
また、資材高騰分の費用負担を巡る「スライド条項(価格変更条項)」の適用については、請負契約書への盛り込みが普及しきっていない中小工務店では特にトラブルの温床となりやすく、施主と施工側の双方にとって契約内容の再確認が不可欠な局面となっている。
2021年の木材不足(ウッドショック)では、「待てば値段が下がる」という予測がある程度機能した。しかし今回の局面では、それは通用しないとみられている。
ホルムズ海峡の緊張緩和が明確になるまでは、石油化学原料の供給回復を楽観視することは難しい。住設大手の受注はいったん再開されたものの、塗料・断熱材・防水材など建材の値上げは5月以降も継続中であり、先行きの不透明感は続く。
「今後の住宅市場では、『どのメーカーのどのグレードにするか』という選択の前に、『そもそも指定のメーカーの商品が入手できるかどうか』という前段の問いが生まれます。施主にとって『こだわりを持って選ぶ』フェーズから、『いま確保できるものを素早く確定させる』フェーズへの転換が求められる。これは消費者心理にも大きな変化をもたらすでしょう。完成済みの物件を求める志向が高まるのは、ある意味で合理的な反応です」(同)