ソフトバンクGがフランスに14兆円を投じた理由…電力不足の米ビッグテック、周回遅れの日本

 今回SBGが整備する5GWという規模は、日本の原発約5基分の出力に相当し、通常のハイパースケールデータセンター(50〜100MW規模)の数十〜百倍に上る桁違いのインフラだ。これほどの電力を安価かつクリーンに、かつ即応性のある形で供給できる環境は、欧州ではフランスが唯一に近い。

「Choose France」政策との連動

 フランス政府は2025年2月、AIインフラ整備に1,090億ユーロを投じる計画を発表済みで、EDFはデータセンター誘致向けに発電所跡地の自社保有地を提供し系統工事期間を数年短縮できる仕組みを整備している。SBGはシュナイダーエレクトリックと提携し、ダンケルク港に産業クラスターを開発することで、製造・エネルギー・インフラを一体化したサプライチェーン構築も図る。

 EUのGDPRやAI規制法はテック企業にとって運用コストとなるが、SBGにとっては「フランス政府を事実上の共同推進者にすることで政策リスクを内側から管理する」という構造を取っている点が重要だ。マクロン大統領はこの投資を「AIのバリューチェーン全体にわたる主要投資先としてのフランスを位置付ける取り組みの成果」と評価した。

Arm、OpenAI、5GWインフラ…SBGの「AI垂直統合」戦略

 今回のフランス投資を、SBGの経営全体と切り離して論じることはできない。

 孫氏はAI革命を「ドットコムブームの50倍の規模」と語り(2026年6月、CNBCインタビュー)、SBGは近年「投資会社」から「AIバリューチェーンを垂直統合するインフラ企業」への変貌を加速させている。その構図は次のように整理できる。

・チップ設計(演算基盤):SBG保有比率87%超のArm Holdingsが省電力AIチップの設計で圧倒的なシェアを握る。ArmのIP(知的財産)はNvidiaをはじめAIサーバー市場の根幹を支え、SBGの純資産価値の50%超を占める。
・AIモデル(知能):SBGはOpenAIに累計600億ドル超を投資し、持分約11%を保有。2026年3月期にはOpenAI投資による含み益は450億ドルに上り、同期の純利益は日本企業史上最高の5兆円超を記録した。
・計算基盤(インフラ):米国では「Stargate Project」(OpenAI・Oracle共同)で最大5,000億ドル・10GWのAIインフラ建設を牽引。欧州では今回のフランス5GWがその軸となる。

 つまり、チップ設計からAIモデル、計算インフラまでを一気通貫でコントロールするエコシステムの構築が、孫氏の現在の戦略の核心だ。

財務リスクの点検も欠かせない

 14兆円という投資規模について、冷静な目で検証する必要がある。まず「最大750億ユーロ」は段階的な上限値であり、第1フェーズの実行額は450億ユーロ(約8.3兆円)だ。SBGはこれをSBエナジーなど戦略パートナーとの共同投資スキームで分担する方針を示しており、全額を単独で拠出するわけではない。

 しかし、過去にウィーワーク(WeWork)への巨額投資が経営危機を招いた前例があるように、大型インフラ投資には市場変動リスクが伴う。今回のデータセンターが収益化するためには、主要顧客となるクラウドサービス企業やAI開発企業からの大規模なコロケーション・計算需要が前提条件となる。SBGの2026年3月期純利益が史上最高を記録した一方、有利子負債水準は引き続き高水準であり、投資家の視点からはレバレッジリスクの継続的な監視が求められる。

「インフラの大型投資が収益化するには長い時間軸が必要。ただ、電力確保と立地選定という”変えられない条件”を先に押さえるという手法は、事業戦略の観点からは合理性があります」(戦略コンサルタント・高野輝氏)