ソフトバンクGがフランスに14兆円を投じた理由…電力不足の米ビッグテック、周回遅れの日本

日本の「計算基盤」はどこへ向かうか

 今回SBGがフランスを選んだことは、逆説的に日本の構造課題を照らし出している。

電力コストと電源構成の制約

 日本の産業用電力料金は国際比較で依然として高水準にある。電力広域的運営推進機関(OCCTO)の需要想定によれば、2034年度にデータセンターの電力需要は44TWhに達し、産業部門全体の約14%を占める見通しだ。しかし、原発再稼働は社会合意形成に時間がかかり、再エネは適地不足と出力変動という課題を抱える。日本国内で単一のデータセンターに5GW規模の安定電力を供給することは、現状では物理的にも政治的にも極めて困難だ。

国策の現実

 経済産業省は「GX戦略地域」の公募を開始し、脱炭素電源を100%使うデータセンターへの投資を最大50%補助する制度(2026年度から5年で2,100億円)を整備している。さくらインターネットなどへの国産AIインフラ支援も続く。SBG自身もシャープの旧堺工場跡地に約1兆円を投じた国内データセンター建設を進めており、日本市場を完全に見切ったわけではない。

 ただし率直に言えば、こうした施策の規模感はフランスへの14兆円投資と比べると桁が異なる。日本が誇る製造現場のプロセスデータを活用した「フィジカルAI」領域での競争力構築など、独自の強みを活かした戦略が求められる局面だ。

「国産インフラ整備は安全保障の観点から重要だが、電力制約という根本問題を解決しない限り、スケールでの競争は難しい。日本が勝負すべきは、データの質と産業との連携深度ではないのでしょうか」(佐伯氏)

「電力を握る者がAIを制する」という現実

 孫正義氏がフランスに14兆円を投じた判断の核心は、AIをめぐる競争が「アルゴリズムの優劣」から「物理インフラの争奪」へと構造変化しているという認識にある。電力という最も根源的なリソースを確保した者が、次世代AIの供給者として君臨する——それがグローバル市場の現実だ。

 この構図は、日本のビジネスパーソンにとっても他人事ではない。AI活用の競争力は、モデルの高度化だけでなく、どこのインフラで、どれだけのコストで推論・学習を行えるかに直結している。国産インフラ整備は着実に進んでいるものの、電力制約という構造問題が解消されない限り、日本企業は海外の計算基盤に依存し続けるリスクを抱える。

「インフラを構築する国々が、テクノロジー、産業、社会の未来を形作る」——孫氏がフランス発表時に語ったこの言葉は、SBGの投資論理を超え、国家と産業のあり方を問う問いとして重く響く。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=佐伯俊也/エネルギー政策研究家)