日本人は使えないのに、なぜ日本へ?会員2千万人、楽天も出資した14億ドル企業

「日本上陸」と聞けばコンシューマー向けアプリの展開を想像しがちだが、実態は逆だ。ShopBackは日本で、日本の企業に売り込みに来ていた。

ポイントじゃない、現金だ――日本型経済圏との根本的な違い

 日本はポイント大国だ。楽天ポイント、PayPayポイント、dポイント、Vポイント、Pontaポイント……6大経済圏が激しく競合し、消費者は財布の中に複数のポイントカードを持つ。いずれも「自社エコシステム内に消費者を囲い込む」モデルだ。

 ShopBackが提唱するのは、その対極にある「オープン・リワード」だ。特定の経済圏に縛られず、2万店以上の加盟店を横断して現金でキャッシュバックする。ポイントではなく、現金。囲い込みではなく、開放。

「日本のポイントシステムは、私たちがShopBackを作る上で大きな参考になりました。日本は10年以上前から、このビジネスモデルが成功することを証明してくれていたんです」

 その言葉は、敬意であり同時に宣戦布告でもある。チャン氏は「学んだ」と語るが、ShopBackが持ち込もうとしているものは、日本の消費者が慣れ親しんだポイント経済圏とは構造からして異なる。楽天・クレディセゾン・ソフトバンクがShopBackに投資しているのは偶然ではない。彼らはその違いを、7〜8年前から見抜いていた。

42歳、子供2人――購買データが暴く「知らなかった自分」

 チャン氏はプレゼンテーションの途中で、スマートフォンの画面を取り出した。

 そこに映っていたのは、あるユーザーのプロフィールだった。年齢は35〜45歳。男性。子供が2人いて、年齢は3〜8歳。よく飛行機に乗り、テクノロジー製品を好む。健康意識が高い。

「このユーザーは私自身です。でも私はShopBackに、自分が42歳だと教えたことはありません。子供が4歳と6歳だとも、一度も話していません。3ヶ月間の購買履歴だけで、AIがここまで導き出すんです」

 アマゾンも楽天も、自社プラットフォーム内の購買データは持っている。しかしShopBackの強みは、2万店以上の加盟店を横断したクロスプラットフォームデータだ。オンラインだけでなく、店舗でのレシートスキャン(ShopBackSNAP)によるオフライン購買データも加わる。

「アマゾンは、あなたがアマゾンで買ったものしか知りません。しかし私たちは、あなたがどこで買ったものでも知っています」

 このデータ基盤の上に、AIショッピングアシスタント「ShopWhiz」が乗る。ユーザーが椅子の写真を撮れば、2万店を横断して最安値と最良の選択肢を提示する。TikTokが「見るほど最適化される」ように、ShopBackは「買うほど最適化される」プラットフォームを目指している。

「勝つのは三者一緒でなければならない」――収奪しないプラットフォームの論理

 取材の中で、こんな問いをぶつけた。

「アメリカのテック企業と比べ、ユーザーから取るのではなくユーザーに還元しようという思想が強く見える。なぜか」

 チャン氏は、他社についてのコメントを静かに断った。そして自社についてだけ、こう語った。

「私たちがやること全てに、ユーザーの時間とお金を節約することが必須です。そしてブランドの成長を支援することも必須です。ユーザーが勝ち、加盟店が勝ち、ShopBackが勝つ——三者が一緒に成長できる形でなければ、成立しません」

 他社に言及しなかったことが、むしろ雄弁だった。クリックや表示ごとに課金するのではなく、購買が成立した時だけ課金する完全成果報酬型モデル。有料ソーシャル広告の約12分の1というコスト効率は、この設計思想から生まれている。加盟店が売上を出さない限り、ShopBackも収益を得ない。