AI短劇の台頭は、中国発ショートドラマアプリの海外展開を一気に加速させた。米調査会社BigGoによると、中国発の短劇アプリは2025年に世界で2億7000万回以上ダウンロードされ、アプリ内課金収益は約7億ドルと前年の4倍近くに達した。モバイルデータ分析大手センサータワーの最新レポートでも、2026年第1四半期の短劇アプリ市場は世界で8億5000万件超のダウンロード(前年同期比140%増)、課金収入は約7億5000万ドル(同20%増)を記録し、東南アジアが全ダウンロードの32%、中南米が23%、インドが22%を占めた。
なかでもReelShortは、市場調査会社Media Partners Asiaの分析を米Varietyが報じたところによると、2026年に年間売上10億5000万ドルに達し、初めて黒字化する見通しだという。DramaBoxとともに四半期ごとに1億4000万ドル弱の売上を計上する二強状態が続く。
海外展開が急拡大した要因の一つが、AIによる「言語・人種の壁の消失」だ。従来のローカライズは翻訳・吹き替えに加え、現地俳優によるリメイク撮影が必要なケースも多く、参入障壁になっていた。AIモデルなら同一シナリオの顔立ちや言語を一括で作り替え、各国向けにほぼ同時展開できる。中国メディア36氪の報道では、2026年5月の海外ショートドラマ市場の課金収入は2億2900万ドル(前月比13%増)に達し、AI生成・漫画調コンテンツが「補完的なジャンルから中核の投資・配信領域へ」と位置づけを変えつつあるという。地域別では米国が売上の33%で首位、日本も7%を占めた。
内容面でも特徴がある。ハリウッド的な映像美よりも「愛憎」「復讐」「逆転」といった普遍的で強烈な感情を短時間で揺さぶる王道の展開が、国や言語を問わずヒットしやすい。象徴的なのが、雲南省出身の元ウエディングフォトグラファーが3000元(6万円強)で作った3分間のSF短編が海外で数千万回再生され、公開から72時間で50万ドル以上の課金を生んだ事例だ。BigGoによれば投資回収率は1000倍を超え、ハリウッドのプロデューサーが本人に接触する騒ぎにもなったという。
「AI短劇が示すのは、映像制作が『職人の手仕事』から『データドリブンな高速検証』へ軸足を移しつつあるという事実です。台本の巧拙よりも、最初の数秒で指を止められるかが勝負を決める。広告クリエイティブで起きた変化が、映像コンテンツ全体に広がってきたと捉えるべきでしょう」(ITジャーナリスト・小平貴裕氏)
急拡大の裏で、伝統的な映像制作の現場は縮小を強いられている。TechNewsが伝えた業界データによれば、短劇産業の中心地として知られる浙江省・横店では、実写作品の「開機(クランクイン)」件数が前年同期比で75%減少。上位の短劇俳優45人についても、主演作品数が前年同期比で約25%減った。カメラマンや照明技師、衣装・ヘアメイクといった、スタジオでカメラを回すことを前提とした職種が、急速に仕事を失いつつある。
もっとも、これを「AIが役者の仕事を一方的に奪った」と単純化するのは早計との指摘もある。中国のテック動向に詳しいライター・吉川真人氏はnoteで、実写ショートドラマはAI普及以前から、売上の8割超が広告・トラフィック獲得コストに流れ、制作側の取り分が1割に満たないケースも珍しくない厳しい採算構造を抱えていたと指摘。AIは「原因というより、先に壊れかけていた構造を一気に可視化した加速装置」だったと分析する。業界全体の赤字率はAI普及以前から9割超に達していたとも言われ、供給過多で疲弊していた市場に、圧倒的な低コストで量産できるAIが流れ込んだ、というのが実態に近いようだ。