JR東日本の事例や他業界の動きから、日本企業が不動産戦略を見直す際に参考にできる視点は大きく三つに整理できる。
第一に、「所有」から「利用・最適配置」へのマインドチェンジである。すべての不動産を自社単独で保有し続けるのではなく、デベロッパーや不動産ファンドといった外部パートナーとの協業、あるいはリート化も選択肢に入れることで、リスクとノウハウを分散しながら資産の価値を最大化できる。
第二に、「単なる売却」で終わらせず、地域や社会にとっての意味を持たせた再開発へとつなげる視点である。売却益を一時的に計上するだけでなく、環境配慮や地域貢献、職住近接といった要素を組み込んだ再開発は、企業のブランド価値や対外的な評価の向上にも寄与しうる。
第三に、福利厚生そのものの再定義である。物理的な社宅を手放す代わりに、借上げ社宅の活用や住宅取得支援、住宅手当の充実といった、多様な働き方やライフスタイルに合わせたソフト面の支援へとリソースを振り向けることが重要になる。ハード(保有資産)からソフト(制度設計)への転換をセットで進めなければ、社宅廃止は単なるコストカットという受け止め方をされかねない。
JR東日本による社宅全廃の決断は、高度経済成長期に形成された「福利厚生としての社宅」というモデルからの脱却であると同時に、企業が保有する不動産を「過去からの遺産」としてではなく「次の成長を支える原資」として捉え直す動きの象徴といえる。
もちろん、再開発による投資回収には時間を要し、社員の生活への影響にも丁寧な配慮が必要になる。だからこそ、単純な資産売却の是非だけでなく、売却で得た資金をどの分野に再投資し、手放した福利厚生をどう別の形で補うのかという「その先の設計」までを含めて評価することが、この種の経営判断を読み解く上で欠かせない視点になるだろう。保有不動産を成長の原資へと転換できるかどうかは、今後の日本企業の競争力を左右する重要な論点であり続けるはずだ。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=田辺晃成/経営コンサルタント)