グーグル、フィンランドに2.3兆円投資…ロヴィーサ原発22年契約の裏側

「クラウド大手が長期の原子力PPAに踏み込む例は、米国ではすでに複数見られたが、非稼働炉の新設ではなく既存炉の運転延長を後押しする形でリスクを取ったのは注目に値する。再エネの変動性を蓄電池だけで吸収するにはまだコストがかかりすぎる、というのが実務家の共通認識になりつつある」(エネルギー政策研究家・佐伯俊也氏)

ロシアの隣国に2.3兆円、地政学リスクを打ち消す「デジタル要塞」

 フィンランドはロシアと約1300kmにおよぶ国境を接する。地図だけを見れば、AI基幹インフラを置く場所としては違和感を覚える読者もいるだろう。しかし2023年4月、フィンランドはNATOに正式加盟し、安全保障の前提そのものが変わった。北欧随一とされるサイバー防衛体制や、国家サイバーセキュリティ指数(NCSI)で世界トップクラスの評価を得てきた実績も、データという無形資産を預ける相手として重要な判断材料になる。

 物理的な条件も揃っている。冷涼な気候はサーバー冷却コストを大きく引き下げ、地震の少ない安定した地盤は施設のリスクを下げる。バルト海を経由して欧州全域とつながる海底ケーブル網も整備済みだ。グーグルにとってフィンランドは、地図上の「係争地に近い国」ではなく、電力・気候・通信・制度が揃った「デジタル要塞」として映っている、と捉えるのが実態に近いだろう。

「地政学リスクを『国境からの物理的距離』だけで測るのは、もはや古い発想だ。制度的な安定性、同盟関係、サイバー防衛力の方が、データセンター立地においてはるかに重要な指標になっている。フィンランドはその意味で、ロシアに近いことがむしろ『NATOの最前線として守られている』という逆説的な安心材料に転化した数少ない例だ」(同)

北海道・東北が「日本のフィンランド」になれない理由

 地理的な条件だけを見れば、日本にもフィンランドに似た土地はある。冷涼な気候、広大な用地、冷却水として使える海に恵まれた北海道や東北地方は、データセンター立地として近年注目度が上がっている。実際、日本国内のハイパースケーラー投資はここ数年で急拡大しており、AWSは2027年までに152億ドル、マイクロソフトは29億ドル、オラクルは今後10年で80億ドルを投じる計画を示すなど、合計で260億ドル規模の投資が動いている。

 問題は、その電力をどう届けるかだ。日本のデータセンターの電力消費量は2024年の190億kWhから2034年には570億〜660億kWhへと急増し、ピーク時の消費電力は現在の3倍にあたる660万〜770万kWに達すると予測されている。それにもかかわらず、演算能力の約85%は依然として東京・大阪の都市圏に集中している。理由の一つは送電網にある。北海道と本州を結ぶ連系線(北本連系線)は増強を重ねて現在は90万kW規模まで拡大したが、道内で見込まれる再エネ・データセンター需要の伸びに対しては依然として細く、さらなる増強線(いわゆる「新々北本連系線」)の是非が資源エネルギー庁の審議会で議論されている段階にとどまる。一方、東京都心部では新規の電力引き込みに「5〜10年待ち」を要するケースも報告されており、地方で発電した電力を需要地まで運ぶ基幹インフラの整備が、需要の伸びに追いついていないのが実情だ。

 長期の電力調達契約という制度面の遅れも重なる。企業が10年、20年単位で電力価格と供給量を固定できるコーポレートPPAは日本でも徐々に広がりつつあるが、原子力を裏付けとする長期契約を組める環境には至っていない。折しも2026年9月には、中部電力が浜岡原発の再稼働に向けた審査申請を取り下げるという出来事があった。基準地震動データの取り扱いをめぐる問題を受けた判断で、同社トップの引責辞任にも発展している。政府は2025年2月の「エネルギー基本計画」で既設原発の最大限活用を掲げているが、個々の再稼働をめぐる不確実性が残る限り、電力会社が原子力を軸とした長期PPAに踏み切りにくい構造は当面続くとみられる。