住友金属鉱山、国内初のEV電池リサイクル工場を稼働…年間1万トン処理の勝算は

 規模で見れば、住友鉱山はまだ小さい。愛媛の新プラントの処理能力は年1万トン相当で、格林美が掲げる8万トンや、レッドウッドのEV数十万台分規模と単純比較すれば見劣りするのは否めない。ただ、住友鉱山が狙っているのは規模そのものの競争ではなさそうだ。同社の立ち位置は、単なる「リサイクル専業事業者」でも「電池メーカー」でもなく、「資源調達から製錬、正極材製造までを一気通貫で手がける素材メーカー」という、世界でも数少ない領域にある。車載用電池は安全性の要求水準が極めて高く、不純物の混入が事故につながりかねないため、精錬の精度と品質保証の実績がものを言う世界でもある。100年以上にわたり非鉄金属の製錬を手がけてきた蓄積が、ここで生きる余地があるというのが業界内の見立てだ。

「規模のスピード勝負なら中国勢に分がありますが、車載電池は品質保証の要求が厳しく、コモディティ的な競争だけでは決まりません。精錬技術の裏付けと顧客からの信頼をどう積み上げるかが、日本勢の生きる道になるはずです」(同)

どこまで拡大するのか

 EV電池リサイクルの市場規模は、2020年代後半から2030年代にかけて拡大が見込まれている。前述の推計のとおり世界全体では2030年時点で百数十億ドル規模とされるが、これはあくまで現時点の試算であり、各国の規制強化や電池の技術世代交代のペース次第で上振れ・下振れの幅は小さくない。将来的に、新規採掘由来の原料よりリサイクル由来の原料の流通量が上回る「完全循環型」のモデルが実現するかどうかは、現時点で見通しにくい部分も多い。少なくとも短中期では、リサイクル原料は新規採掘を補完する位置づけにとどまるとの見方が業界内でも根強い。

 住友鉱山自身、需要の先行きを楽観一辺倒で見ているわけではなさそうだ。同社は過去にEV電池材料の増産に向けて数千億円規模の投資計画を打ち出してきたが、EV需要の伸び鈍化を受け、一部の増産投資については実行を見送る判断も下している。今回のリサイクル事業への投資は、そうした需要変動リスクをならしながら、資源循環という長期テーマに足場を築く狙いがあるとみることもできる。

 今後の課題としては、まず国内での電池回収網の整備が挙げられる。自動車メーカーや解体業者、リース会社など多様なプレーヤーとの連携が欠かせず、プラント稼働にあわせて9社との協力体制を構築したのも、その布石とみられる。その先には技術ライセンスの供与や海外拠点の展開といった選択肢も視野に入ってくるはずだが、これは競合の動向や各国の規制設計次第で戦略が変わりうる部分であり、現時点で確たることは言いにくい。

技術と事業構造が生み出す新たな成長エンジン

 住友鉱山によるEV電池リサイクル事業への参入は、しばしば語られるような「環境対応のための守りの一手」というより、非鉄金属メーカーとしての事業構造そのものを、数十年単位で組み替えていく取り組みと捉えた方が実態に近いのではないか。天然資源の争奪戦とは別の土俵で、都市に蓄積した金属資源をいかに効率よく、安全に、そして経済合理性を保ちながら取り出せるか。その技術と体制を持つ企業が、次世代のEVサプライチェーンで存在感を発揮していくことになるだろう。

 もちろん、規模で先行する米中勢との差は小さくなく、規制の詳細設計や需要動向次第で事業環境は変わりうる。それでも、伝統的な素材メーカーが自社の強みを生かしながら「動脈」から「静脈」へと軸足を広げていく今回の動きは、日本の製造業が資源制約とどう向き合っていくかを考えるうえで、一つの参照点になりそうだ。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=佐伯俊也/エネルギー政策研究家)