住友金属鉱山、国内初のEV電池リサイクル工場を稼働…年間1万トン処理の勝算は

湿式・乾式ハイブリッド製錬という武器

 電池リサイクルが長らく「割に合わない事業」とされてきたのには理由がある。使用済み電池を解体・破砕して「ブラックマス」と呼ばれる黒色の粉状原料にする工程まではさほど難しくないが、そこから不純物を取り除き、電池材料として再利用できる水準までニッケル・コバルト・リチウムを高純度で取り出す工程には、相応のコストと技術が要る。とりわけリチウムは化学的な扱いが難しく、従来は回収を断念して用途の異なる製品に回すか、廃棄するケースも少なくなかった。

 住友鉱山が愛媛で築いたのは、乾式製錬(高温で溶融し不純物を分離する東予工場)と湿式製錬(薬品を使い溶液中で金属を分離するニッケル工場)を組み合わせ、さらに関東電化工業の技術を活用した高純度リチウム回収プロセスを組み込んだハイブリッド方式である。不純物の多い使用済み電池でも効率的に処理できる点が特徴とされ、同社が非鉄金属製錬で積み上げてきたノウハウを、電池リサイクルの湿式工程に転用した形といえる。

 もう一つの強みは、川下との一体化にある。住友鉱山はもともと電池正極材の大手メーカーでもあり、リサイクルで回収した金属を自社の正極材製造にそのまま供給できる立場にある。原料調達から製錬、正極材製造までを垂直統合できる企業は世界的にも珍しく、中間業者を挟まない分、コストや物流面での優位性を主張しやすい。同社はトヨタ自動車と全固体電池向け正極材の量産に向けた協業も進めており、リサイクル原料を将来世代の電池にも回していく、いわゆる「バッテリー・トゥ・バッテリー」の構想を描く。

 天然鉱山の開発には探鉱から生産開始まで10年以上を要し、環境負荷や現地調整のコストも大きい。対して使用済み電池は、すでに都市部にある程度の濃度で存在する資源だとも言える。もっとも、これは楽観できる話ばかりではない。電池の回収網構築や、劣化・破損した電池の安全な解体・輸送には別種のコストがかかり、「街に鉱石が転がっている」というより「回収と分別に手間のかかる資源」だとする見方も業界内には根強い。

「非鉄金属の製錬というのは、突き詰めれば『いかに不純物を制御するか』の勝負です。鉱石を相手にしてきた技術は、組成がばらつく使用済み電池を相手にするうえでも生きる部分があります。ただし量産段階でのコスト管理は別問題で、実際の採算がどう出るかはこれからの数年で見えてくるはずです」(同)

米中の巨大資本、欧州の老舗との違い

 この分野で先行するのは、米国のレッドウッド・マテリアルズだ。テスラの共同創業者でCTOを務めたJB・ストローベル氏が2017年に設立し、株式調達だけで約20億ドル、米エネルギー省からの融資枠20億ドルを別途取り付け、2026年1月のシリーズE完了時点で企業価値は60億ドルを超えたとされる。2024年には20ギガワット時超、EV約25万台分に相当する電池を処理したとされ、2030年には年間500ギガワット時規模まで処理能力を拡大する計画を掲げる。

 中国勢の存在感も大きい。世界最大の電池メーカーCATL傘下の邦普循環(Brunp)は、電池材料のリサイクルで96%を超える回収率を達成したと公表し、業界標準づくりにも関与している。格林美(GEM)は2025年に前年比46%増となる約5万2600トンの車載用電池を処理し、中国全体の廃棄電池量の1割超を占めたとされる。2026年には8万トンの処理を目標に掲げるなど、圧倒的な国内EV市場の廃棄量を背景に規模を拡大し続けている。欧州では、ベルギーのユミコアが超高温溶融技術を用いたホーボーケン拠点を軸に、電池メーカー向けの「クローズドループ」型リサイクルサービスを長年手がけてきた。