第三に、経済安全保障推進法の基幹インフラ制度だ。電力や金融、通信など指定された事業者は、重要設備の導入時に国への事前届出が求められる。調達の自由度は、業種によってそもそも違う。
「日本の外為法だけでなく、米国規制の域外適用も意識しなければなりません。海外子会社や委託先のデータセンターで何が動いているのか、把握できていない企業は意外に多いものです」(同)
世界は「米国主導の高コスト圏」と「中国主導の低コスト圏」に割れるのか。現時点ではそう単純ではない。Huaweiは中東や東南アジアへの輸出を探っているが、提示しているのは旧世代の910Bを数千個規模にとどまると報じられた。一方で湾岸諸国は、NVIDIAやAMDのチップを複数年で100万個超調達する契約を結んでいる。ハードの調達網は分断が進む一方、オープンなモデルやソフトは国境をまたいで使われ続ける。分断は「二極化」というより「層ごとに分かれていく」形で進むと見るのが妥当だろう。日本企業にとっては、アジアの取引先や委託先がどの技術基盤の上で動いているかが、今後の確認事項に加わることになる。
1. ワークロードを棚卸しし、インフラを使い分ける 大規模な学習や高度な推論と、定型的な推論や社内検索とでは、必要な計算資源がまるで違う。処理ごとに必要な性能とコストを洗い出し、小型モデルや別系統のチップで足りるものは切り分ける。最初の一歩はここだ。
2. 「いつでも移れる」設計にしておく CUDAに直接依存するコードを増やさず、PyTorchなどの標準的な層や推論エンジン、カーネル記述言語を介した構成を基本にする。モデルも差し替え可能にしておく。仮にNVIDIA環境を使い続けるとしても、移行できる状態にあること自体がクラウド事業者との価格交渉力になる。
3. 地政学リスクを調達基準に組み込む コストと性能に加え、チップの出自、輸出管理上の位置づけ、データの保存場所を調達の評価項目に入れる。IT部門だけで判断せず、法務や経済安全保障の担当と組む体制をつくり、規制の変化に合わせて定期的に見直す。
「NVIDIA独占の終焉」と言い切るには、まだ材料が足りない。今回変わったのは、ハードの選択肢を広げるソフトの層が厚みを増したことだ。日本企業に問われているのは「どのチップを買うか」より、「いつでも乗り換えられる設計になっているか」だろう。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=岩井裕介/半導体アナリスト・経済コンサルタント)
【主な参照データ・出典】
DeepSeek公式発表(2026年9月30日)/IT之家、華爾街見聞の報道
Reuters「DeepSeek partners with Huawei to develop chip programming tools」(2026年9月30日)
Reuters「China’s DeepSeek developing its own AI chip, sources say」(2026年7月7日)
NVIDIA 2027年度第2四半期決算発表(2026年8月26日、SEC提出資料)
TechNode「Huawei NPO-based Ascend 960 supernode」(HUAWEI CONNECT 2026、2026年9月17日)
PwC「第29回 世界CEO意識調査」(2026年1月19日)
CIO.com「AI predictions for 2026」(デロイト予測の引用)
米商務省BIS ガイダンス(2025年5月13日)/O’Melveny解説
個人情報保護委員会「DeepSeekに関する情報提供」(2025年2月3日)、デジタル庁 注意喚起(2025年2月6日)
Bloomberg「Huawei Seeks AI Chip Clients in Middle East, Southeast Asia」(2025年7月10日)