高さ250mなのに「通り抜け」歓迎…トフロム八重洲タワーが選んだ“外向き”設計の狙い

 対する八重洲は、小さな敷地に規模も業種も異なる店が路地に面して並ぶ街として発展してきた。洗練された丸の内・大手町に比べ、雑多で地味な印象を持たれてきたことは業界紙も指摘している。

 トフロムは、その「雑多さ」を消さずに超高層ビルへ取り込もうとした。低層部の外壁に凹凸や隙間を設けて箱を積み上げたような意匠にし、小さな建物が連なる街並みを立体的に再現している。一方で、地下では八重洲地下街を介して東京駅と直結し、地下には高速バスターミナルも入る。つまり丸の内型の「シームレスな地下動線」と、八重洲らしい「地上の寄り道」の両方を、1棟の中で受け止める構造だ。

「丸の内は中核となる大きな地権者がいて、街区単位でまとまった計画を立てやすかった。八重洲は地権者が細かく分かれ、その分だけ店の個性も多様だった。再開発でそれを均質にしてしまうと、わざわざ八重洲を選ぶ理由が薄れる。路地の性格を残せるかどうかが、この街の再開発の勝負どころです」(同)

これからの都市開発を測る3つの物差し

 トフロムの試みを一つの事例で終わらせず、今後の開発を見るときの物差しに置き換えてみる。

(1)「点」ではなく「面」への貢献度

 高さや容積率を競う時代が終わったわけではない。ただ東京の都心では、都市再生特別地区などの制度のもと、歩行者空間やバスターミナルといった公共貢献を評価して容積率を緩和する仕組みが定着している。国も2020年の都市再生特別措置法改正で「居心地が良く歩きたくなるまちなか」づくりを打ち出した。周辺にどれだけ人の流れを返せるか。それがビル単体の評価にも跳ね返ってくる構図は、今後さらに強まるはずだ。

(2)「出社したくなる」理由は、ビルの外にもある

 オフィス市況は逼迫している。三鬼商事の調べでは、都心5区の空室率は2022年8月の6.49%から、2026年8月には1.87%まで下がった。出社回帰が進むなかで、企業がオフィスに求めるものも変わりつつある。トフロムも13階にワーカー向けの食堂やラウンジを備えたフロア、41階に東京湾を望むラウンジを設けたが、昼に歩いて行ける店の選択肢や、帰りに寄り道できる街の厚みも、同じくらい効いてくる。

「社員に出社してもらう理由を、会社はいま必死に探しています。デスク周りの快適さは各社とも横並びになりつつある。差がつくのはむしろ、ビルを一歩出たときの街の体験です。採用の場面で、勤務地の街の魅力を語る企業は確実に増えています」(同)

(3)民間がつくる歩行者インフラ

 ビル内の通路は私有地でありながら、公共の道に近い役割を担う。民間が街のインフラを生み出せる半面、開放時間や維持管理費の負担、イベント利用のルールなど、「私有地の公共性」をどう運用するかという課題も同時に抱える。この運用の巧拙が、エリア全体の価値を左右する。

「自社を目的地にしない」という発想

 八重洲口の再開発は、これで終わりではない。2022年に開業した東京ミッドタウン八重洲に続き、2029年には隣接地で「YAESU CORE」が完成する予定で、約1300席の劇場が入ると報じられている。トフロムの約800席の劇場とは競合にもなり得るし、補完関係にもなり得る。東京駅の日本橋口側では、東京建物が進める呉服橋の再開発で地下通路が延び、2029年には10駅を結ぶ地下ネットワークが完成する見通しだ。八重洲は「通過点」から、複数の開発が人の流れを受け渡し合う結節点へと変わろうとしている。

 この構図は、不動産業界に限った話ではない。自社のサービスや店舗を「わざわざ来てもらう目的地」として磨き込むだけでなく、利用者の日常の動線にどう自然に入り込むか。その視点は、ウェブサービスでも小売でも共通する問いになっている。囲い込みを手放すのは勇気がいる。だが、人の流れが細る場所に、長く人は集まらない。

 トフロム八重洲タワーが示したのは、ビルを街から切り離して完結させるのではなく、街の一部として振る舞わせるという選択肢だ。その成果が数字で確かめられるのは、まだ先である。ただ、全国で駅前再開発が続くなかで、「ビルと街の関係」を考え直す一つの材料になることは間違いない。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=秋田智樹/不動産ジャーナリスト)

【主な参照データ・出典】
東京建物 ニュースリリース(2026年7月15日)
ニュースイッチ(2026年9月25日)
健美家(2025年)
共同通信(熊本日日新聞掲載、2026年9月24日)
国土交通省 資料