ただし、温泉法上の扱いには注意が必要だ。熱水をくみ上げない方式を温泉法の対象外と整理できるかどうかは、関係省庁がいまも議論している。規制が自動的に外れるわけではない。
技術面の課題もはっきりしている。
「クローズドループは、管の壁を通した熱伝導だけで熱を集めます。岩盤の中で熱が伝わる速さには物理的な上限があるので、1本の井戸から取れる熱量はどうしても限られる。長く運転すると管の周りの岩盤が冷えて、出力が落ちていくことも考えておかなければなりません。商用化の分かれ目は、掘削コストをどこまで下げられるか、そして複数の井戸をどう組み合わせるかでしょう」(エネルギー政策研究家・佐伯俊也氏)
大成建設は2021〜25年度の5年間、地熱技術開発(GERD)と組んで、JOGMEC(エネルギー・金属鉱物資源機構)の研究事業として基礎研究を進めてきた。高温の地層にCO2を圧入し、地下で超臨界状態になったCO2を循環させて熱を回収する仕組みだ。超臨界CO2は粘り気が小さく、岩盤の細かい亀裂に入り込みやすい。そのため、効率よく熱交換できると考えられている。圧入したCO2の一部は貯留層の中で炭酸塩鉱物などとして固定されるため、採熱とCO2の固定を同時に狙える。
大成建設は、CCS(CO2回収・貯留)でCO2が地下でどう動くかを数値解析する技術を長年手がけてきた。地下の流体挙動を読む力は、まさにゼネコンが得意とする分野だ。2025年12月にJOGMECのFSに採択され、今後は技術課題の整理、発電コストの試算、事業化までのロードマップづくりを進める。日本経済新聞は、事業化の目安を2040年以降と報じている。
「CO2を熱媒体として使うには、CO2をどこから安定して調達するかという問題が避けられません。CCSの輸送網や貯留の制度と一体で考える必要があります。加えて、人工的に貯留層をつくる過程では誘発地震のリスクを管理しなければならず、漏れがないかを長期にわたって監視する体制も欠かせない。技術的な意義は大きい一方で、社会実装には時間がかかる性質の技術です」(同)
項目 三井不動産ほか
熱媒体 水(密閉管の中を循環)
地下の熱水 使わない
現在の段階 掘削完了、27〜28年度に実証
主な強み 構造が単純で、地下環境への影響が小さい
主な課題 1本あたりの出力が小さく、熱の減衰もある
項目 大成建設
熱媒体 超臨界CO2(地層に圧入して循環)
地下の熱水 使わない(熱水量が足りない高温サイトが対象)
現在の段階 FSに着手、事業化は40年以降が目安
主な強み 採熱効率に期待でき、CO2の固定も狙える
主な課題 CO2の調達、誘発地震の管理、漏出の監視
この比較からわかるのは、両者は同じ土俵で勝ち負けを競っているわけではないということだ。三井不動産の方式は、商用化に近い位置から「熱水がなくても地熱を使える」ことを示す役割を担う。大成建設の方式は、より長い時間軸で、地熱とCO2の削減を結びつける可能性を探っている。段階も役割も違う。
地熱の最大の価値は、天候や時間帯に左右されずに発電できることにある。太陽光や風力は出力が変動するため、大量に導入するほど蓄電池や調整用の電源が必要になる。一方で地熱は、最初の掘削にかかる費用が重く、屋根に太陽光パネルを載せるような手軽さはない。どちらが優れているかではなく、互いに補い合う関係にある。