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「持参金の話は、後にしよう」
その一言が出る瞬間、私は幕の裏で鏡を一寸だけ内へ向ける。灯りが揺れて令息の顔に影が落ちる。影があれば、人は何かを隠しているように見える。実際に隠しているのだから、手伝ってやるだけだ。
五年前、私は王宮の夜会で婚約者に断罪された。毒殺未遂の濡れ衣で家は爵位を失い、私は下町で照明と装飾の請負屋になった。表の仕事は夜会の飾りつけ。裏の仕事は、令嬢たちの婚約破棄を成立させる「断罪の演出」。
証拠は相手の口から出させる。観客を先に味方にする。逃げ道を一つだけ残す。三つの原則で今夜も依頼人の恨みを舞台にかける私のもとへ、灯りの本数を数えていた警備隊の副隊長が近づいてくる。
断罪される側だった女が、断罪を設計する側に回って、自分を断罪した筋書きの主に辿り着くまで。
文字数 24,295
最終更新日 2026.09.26
登録日 2026.09.06
「私は、神だ――」
胸に銀の剣を立てられ、四人の勝者に囲まれた白髪の少女は、最後の魔法で魂だけを別の世界へ逃がした。
落ちた先は、千五百年前に人類が機械に敗れた地球。雨の降り続く廃墟の街で目を覚ました少女には、名前も記憶もない。残っているのは、砕かれる瞬間に誓った「必ず戻る」という言葉と、胸の奥で塔の方角を指す一本の糸だけ。
マザーシステムのドローンに追われる中、義眼と金属の脚を持つ青年リオに拾われ、地下拠点ターミナル0へ辿り着く。散らばった魂の欠片――青い光――を一つ拾うたび、身体の輪郭は少しずつ濃くなり、失った名前と力が戻ってくる。
エアラ。それが、私の名前。
勝者たちへの清算と、元の世界への帰還。砕かれた女神の再構築が始まる。
文字数 28,805
最終更新日 2026.09.26
登録日 2026.09.05
気がつけば、落ちていた。
白い髪、左右で色の違う瞳。名前も記憶もない少女が目を覚ましたのは、機械が支配する千五百年後の廃墟都市だった。
胸の奥に空洞がある。心臓より深い場所に空いた、底の見えない穴。何かが——大切な何かが、つい先ほどまでそこにあった。
マザーシステムのドローンに追われる中、義眼と金属の脚を持つ青年リオに拾われ、地下集落ターミナルゼロに辿り着く。
そこで知らされた事実。胸の空洞はコア——魂のエネルギー源が砕けた痕。欠片は地上に散らばり、黒い塔の方角から引力のように呼んでいる。
名前を取り戻すため、記憶を取り戻すため、廃墟の地上へ踏み出す。
だが欠片を追っているのは、少女だけではなかった。
文字数 24,119
最終更新日 2026.03.31
登録日 2026.03.28
後宮の末席に配された毒見役・翠蘭は、ある秘密を抱えていた。
彼女の身体には、毒がまったく効かない。
紫陽花の茶に仕込まれた砒霜も、饅頭に忍ばせた断腸草も、翠蘭の前では無力だった。
そのせいで、後宮内で繰り返される暗殺計画は、すべて彼女のもとで止まる。
「また毒ですか。最近、多いですね」
淡々と毒を見抜き、平然と食べ続ける翠蘭。
困惑する妃たち、焦る暗殺者、そして彼女の存在に気づき始めた皇帝──。
後宮の闇を「食べて」暴く、毒見役の物語。
文字数 18,315
最終更新日 2026.03.24
登録日 2026.03.15
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