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**会社では「替えが利く」。国家級ダンジョンでは、彼しかいない。**
四十代の会社員・佐藤誠司は、十七年勤めた会社で突然、基本給を二割カットされた。
住宅ローン、子どもの給食費、日に日に苦しくなる家計。
家族にこれ以上我慢をさせたくない。その一心で見つけたのは、時給2800円、23時から翌5時、都内地下施設での「深夜データ入力」だった。
仕事は、端末に表示された異常値を指定範囲へ戻すだけ。
そう思っていた。
だが、彼が直していた「数字」の向こうには、国家級ダンジョンで命を懸ける探索者たちがいた。
退避経路を開き、危険区画を安定させ、一人でも多く家へ帰す。
会社で十七年間、誰にも評価されなかった「数字の違和感に気づく力」と「地味な調整力」は、ここでは人の命を救う力だった。
昼は、上司に「替えが利く」と切り捨てられる平社員。
夜は、誰にも知られず国家級ダンジョンを支える管理者。
やがて政府も探索者も、佐藤誠司という男を無視できなくなっていく。
これは、家族を守るために深夜バイトを始めただけの四十代の父親が、積み重ねてきた“地味な仕事”で、国に必要とされていく物語。
文字数 75,792
最終更新日 2026.08.26
登録日 2026.08.22
「三枝澪さん。あなたが横領した金額は、三百七十二万円で間違いありませんね」
地味な病院事務として、目立たず、誰かの役に立つことだけを考えて生きてきた三枝澪。
ある夜、彼女は突然、三百七十二万円を横領した“犯罪者”にされた。
証拠は、澪のIDで申請された不正送金の記録。
目の前には病院幹部と義母。そして夫の隣には、妊娠を告げる不倫相手が立っていた。
差し出されたのは、離婚届と横領を認める自白書。
誰もが思っていた。
地味で、逆らったことのない澪なら、今回も黙って署名する、と。
けれど、ひとつだけおかしい。
不正送金が行われたのは、午後八時十七分。
その時、澪は母のそばにいた。
ならば。
その時刻に、澪の名前を使ったのは誰なのか。
澪は怒鳴らない。泣き叫ばない。復讐を口にもしない。
ただ、時刻を確かめる。
場所を確かめる。
金の流れを追う。
彼らが口にした言葉を覚えておく。
そして、相手が勝ったと思った瞬間に、一枚の記録を差し出す。
一人の嘘が崩れる。
次の嘘が見つかる。
その先から、さらに大きな嘘が顔を出す。
やがて、ただの不倫と横領の濡れ衣だと思っていた事件は、病院そのものを覆う不正と、亡き父の過去へとつながっていく。
これは、捨てられた妻が怒りに任せて復讐する物語ではない。
奪われた名前を。
父の名誉を。
そして、自分自身の人生を。
一人の地味な女が、事実だけで静かに取り戻していく物語。
文字数 26,620
最終更新日 2026.08.26
登録日 2026.08.23
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