「家族」というチームのつくり方

昔と違って今は「幼稚園・小学校受験するのが普通」 受験戦争に親はどう向き合うべきか

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子どものお受験、親の目的はどうすべきか

そもそも受験の目的はなんでしょうか? そして、その目的は夫婦で一致しているでしょうか?

いろいろな本や記事を見ても、この目的が定まっていなかったり、ズレていたりすることが、最初の関門だと感じます。
「周りがみんな受験しているから」「なんとなくやっておいた方が良さそうだから」といったあいまいな目的意識で臨むと非常に危険だと多くの専門家が指摘しています。

受験の目的を明確にする必要があります。そして、それを夫婦で統一しておく必要があります。そうしないと、次々と訪れる壁(経済の壁、体力の壁、子どものモチベーションの壁)につぶされてしまいます。

「なんで受験しないといけないの?」「もう受験辞めたい!」「もう塾に行きたくない!」「もう勉強したくない!」、そう泣いて子どもに聞かれたら、なんと答えるのか。受験に落ちた子どもに、親はなんと声をかけるべきなのか。
これらは、受験の目的がはっきりしていないと、家族に大きな傷を残すことにもなりかねません。まさに戦争です。

そしてその目的が夫婦で一致していないと、今度は夫婦の間で戦争が始まってしまいます。
「なぜあなたはこれをやってくれないのか」「どうしてそんなことをするんだ」、お互いの目的意識の違いが日々の衝突を生み、関係性を徹底的に壊してしまうこともありえます。

では、具体的にどういう目的にするべきなのでしょうか。
多くの親の究極の目的は、「子どもが幸せで、元気で明るく生きてほしい」ということなのだと思います。私もそうです。ですがこれは、受験戦争においては平和ボケした親のたわ言にすぎないと、いわざるをえません。

受験戦争は、勝ち負けがあります。
そしてその勝ち負けのゴールは、最終的には「大学の学歴」ということに置かれているのが基本です。多くの親や受験指導者が掲げている目的の行き着くところは、「学歴の高い学校に入れること」に置かれています。
いい大学に入れれば勝ち、入れなければ負けです。
ですので、そもそもいい大学に入れたいかどうか、というのが、夫婦で話し合うべきスタート地点なのです。

言うまでもないことですが、世の中には学歴が関係ない仕事もたくさんあります。そこで活躍する人生が悪いわけがありません。
一方で、学歴が高くないとできない仕事もたくさんあります。医者や弁護士はその代表例だと思いますが、大手メーカー、総合商社、銀行などは、ある程度の学歴がないと入ることができません。
テレビ局や出版社などのマスコミ大手はもちろんのこと、最近では吉本興業のようなお笑いの会社のマネージャーも高学歴になってきているそうです。

これら、入るときには学歴が必要な会社でも、入ってみるとまったく関係がない、という会社もたくさんあります。
事実、私が新卒で入ったコンサルティング会社も、学生人気が高い会社でしたので、学歴はある程度見られていましたが、入ったあとは学歴派閥などもなく、実力主義でした。
また、学歴バリバリの大手企業のサラリーマンよりも、学歴がまったく関係ない中小企業の経営者の方がはるかに稼いでいることが多いのも知っているので、学歴が何よりも大事、とまでは思わないのですが、学歴があるのとないのとでは、職業の選択肢の幅が大きく異なるというのは、まぎれもない事実です。

これは、大手企業の採用マーケットが関係しています。
人気企業になればなるほど応募が殺到します。すると、その応募者すべてと面接をし、吟味することはできません。また、面接で判断できることも限られています。
結果として多くの場合、大学のランクによって足切りをしてしまう、ということが起きます。これは、受験戦争を勝ち抜いてきた人のほうが地頭が良く、素直に吸収して成長してきている人が多いためです。つまり、学歴がないと面接にすら至らないのです。

もちろん、新卒採用のマーケットにハマらない場合もあります。アルバイトや派遣から始めてそこから大手企業のトップまで登り詰めた人もいますし、学歴がなくとも本当の能力や実力があれば、いくらでも生きていく道はあります。
しかしそれでも、将来の選択肢が学歴によって狭まってしまうということは事実です。

つまり、多くの親は、「子どもの選択肢を狭めたくない」という想いから受験戦争に踏み出しているわけです。
これを、必要と思うかどうか。
大手企業、人気企業に入ることだけが幸せではありません。子どもの選択肢をどう用意してあげられるか。ここがまず最初に向き合うべき問いです。

受験はしたほうがいいの? しないほうがいいの?

次に向き合うべき問いは、受験は子どもにとっていいことなのかどうか、です。皆さんはどう考えていますか?
大学受験をした方が子どもにとっていいのでしょうか。それとも、大学受験がない付属校の学校に入って、受験を経験しないほうがいいのでしょうか。

受験の本や記事を読んでいると、大学受験をさせたくないと言う親がとても多いと感じます。大学付属の高校に通わせて大学受験をさせないほうがのびのびと育つとか、社会性が育まれるといったデータもあるそうです。
私の通った大学でも付属高校から上がってきた人たちがいたのですが、世の中を知っているというか、視野が広く、人間関係を作るのも上手い人が多かったと感じていました。
ですので、大学受験をさせたくない、戦争に巻き込みたくない、という気持ちもよくわかります。

そう思う一方で、私自身は、高校受験と大学受験を経験したことがすごく良かったと思っています。

中学時代の夏休み、苦手だった英語を最初から学び直し、それまで40台だった偏差値が、一気に60台まで上がりました。『ニューコース』という参考書が私には合っていて、1つのテーマを4ページで扱っており、1ページ目が解説、2ページ目でプチテスト、3、4ページで小テストがあり、この4ページをやると1つのテーマがばっちり理解できるという構成で、それまでちんぷんかんぷんだった英語が「そういうことか!」「そうなっていたのか!」と、学ぶのが面白くなり、英語が好きになりました。これは、高校受験がなかったら得られなかった経験でしょう。

大学受験では、予備校の人気講師の講義をまとめた『出口の現代文 実況中継』(著・出口汪/語学春秋社)という参考書があまりに面白すぎて、そこで出てきた森鴎外の解説が、人生でも有数の感動を与えてくれました。
問題文を読んでも難解で理解すら難しい文章を、時代背景や解説を踏まえて読み進めていくと、その深い意味や意義が感じられ、今風に言えば「文章が味変」してまったく見え方が違くなるという体験をしました。
数学の面白さをしったのも、大学受験があったからです。

これらの経験がなければ、コンサルティング会社に就職することもなく、組織づくりで会社を立ち上げることもなく、いまこうして本を書くこともなかったのではないかと思います。
そういう経験を踏まえて、私は、「受験はすると良い。でもできるだけ、楽しめる受験にしてほしい」と考えています。
これは、下手をすると、平和ボケした親のたわ言と紙一重だと思うのですが――このコンセプトが、多くの親を救うのではないかとも思っています。

受験戦争を楽しむ
そして勝つ
子どもの選択肢を最大化する

それには、組織論が必要です。次回、受験戦争を楽しんで勝つ、そのための組織論をお伝えします。

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プロフィール

高野俊一
高野俊一

組織開発コンサルタント。
1978年生まれ。日本最大規模のコンサルティング会社にて組織開発に13年関わり、300名を超えるコンサルタントの中で最優秀者に贈られる「コンサルタント・オブ・ザ・イヤー」を獲得。これまでに年200回、トータル2000社を超える企業の組織開発研修の企画・講師を経験。
指導してきたビジネスリーダーは累計2万人を超える。
2012年、組織開発専門のコンサルティング会社「株式会社チームD」を設立、現代表。
2020年よりYouTubeチャンネル『タカ社長のチームD大学』を開設。2023年6月現在、チャンネル登録者約3万5000人、総再生回数380万回。
2021年より、アルファポリスサイト上にてビジネス連載「上司1年目は“仕組み”を使え!」をスタート。改題・改稿を経て、このたび出版化。
著書に『その仕事、部下に任せなさい。』(アルファポリス)がある。

著書

チームづくりの教科書

高野俊一 /
成績が振るわない。メンバーが互いに無関心で、いっさい協力し合わない。仕事を...

その仕事、部下に任せなさい。

高野俊一 /
通算100万PVオーバーを記録した、アルファポリス・ビジネスのビジネスWeb連載の...
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