●この記事のポイント
・イーロン・マスクのxAIが公開した「Grokipedia」は“反Wikipedia”を掲げるAI主導の百科事典。表向きは中立を標榜するが、実際にはWikipedia依存や思想的偏りも指摘される。
・Grokipediaの狙いは、GrokとXを連携させたxAI独自の「知識インフラ」構築。AIが生成し人が修正、再学習する自己強化ループで知識主権を確立しようとしている。
・AIによる知識統治には誤情報やバイアスのリスクも。GrokipediaとWikipedia、どちらも完璧ではなく、鍵を握るのは誤り修正の透明性とガバナンスの質である。
10月27日、イーロン・マスク氏率いるxAIが新たに公開したAI主導のウェブ百科事典「Grokipedia」が、世界的な議論を呼んでいる。
マスク氏は「左派的バイアスに満ちたWikipediaに代わる、真に中立的な知識体系をつくる」と語ったが、実際のGrokipediaはWikipediaに酷似し、しかもその一部を改変・流用していることが判明した。
この“反Wikipedia”の裏にある本当の狙いとは何か。AI・データビジネスの視点から紐解くと、それはxAIの「知識主権」戦略、すなわち自社LLMのための独自知識インフラ構築であることが浮かび上がる。
●目次
米国時間10月27日、xAIは自社のAIチャットボット「Grok」に連動した新サービス「Grokipedia」を発表した。サイト上には「Grokipedia v0.1」と記されたシンプルなデザイン。検索バーを設け、記事件数はすでに88万件を超える。各ページの冒頭には「Grokによって執筆・ファクトチェックされた」との一文が添えられている。
マスク氏はX(旧Twitter)上で「Wikipediaは“woke bias”(左派的バイアス)に満ちている」と投稿し、「真実を求める百科事典」としてGrokipediaを位置付けた。Wikipediaへの対抗を明確に打ち出した格好だ。
しかし、The VergeやZDNET Japanなど複数のメディアが検証したところ、Grokipediaの多くの記事はWikipediaからの改変であり、ページ下部に小さく「Creative Commons Attribution-ShareAlike 4.0ライセンスの下で提供」との注記がある。つまり、「反Wikipedia」を掲げながらも、実際にはその知識体系に依存しているという構造的な矛盾を抱える。
「Grokipediaの特徴は、AIが執筆・編集を担い、ユーザーが『誤り報告』ボタンで修正提案できる点にあります。この仕組みは、Xの『コミュニティノート』と類似しており、群衆によるファクトチェックを模しています」(ITジャーナリスト・小平貴裕氏)
だが現時点では、どのように修正が反映されるのかは不透明だ。ZDNETによる取材に対し、xAIは「フィードバックの反映プロセスは非公開」と回答を避けている。
さらにINTERNET Watchによると、出生率や移民、ジェンダーなど、政治的トピックでマスク氏の持論と一致する内容が多く見られるという。AP通信も同様に、「Grokipediaは中立を掲げながらも、結果的に創設者の思想を反映している」と評している。