●この記事のポイント
・仙台駅前の一等地で進んでいた旧さくら野百貨店跡地の再開発計画をPPIHが断念。解体まで進んだ大規模プロジェクトの停止は異例で、背景には建設費高騰や人手不足など全国的に広がる構造問題がある。
・近年は中野サンプラザや新宿西南口地区など、都市中心部の再開発中止が相次いでいる。建設費の異常な高騰、職人不足、需要の変化が重なり、駅前一等地でも採算が取れない状況が進行している。
・巨大空地化の拡大は衰退ではなく、無理な再開発を選別する“正常化”の過程ともいえる。建設業界は2030年頃にかけて需給が安定するとみられ、仙台駅前もより現実的な計画へ仕切り直される可能性が高い。
宮城県仙台市。東北唯一の100万人都市であり、都市機能の中枢が集まる仙台駅前。その一等地に、いま「巨大な空き地」が生まれている。かつて東北有数の規模を誇った「さくら野百貨店仙台店」の跡地である。2017年の運営会社破産によって閉店したのちは、ドン・キホーテ運営会社であるパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)が土地を取得し、地上150m級の複合高層ビルの再開発計画が報道されていた。実際、2024年には解体作業も始まっていたため、地元では「いよいよ再開発が始まる」と期待が高まっていた。
ところが2025年、PPIHは突然この再開発計画の断念を発表した。土地を取得し、建物を解体し、計画も進めていたにもかかわらず、である。「仙台駅前」という都市の顔とも言える立地で、なぜ再開発が成立しなかったのか。この疑問は、仙台だけの特殊事情ではない。近年、全国でも大型再開発の中止・凍結が相次ぎ、都市の中心部に巨大な空白が生まれる現象が広がりつつある。
本稿では、建設業界関係者の視点から、この「大型再開発の停止ドミノ」がなぜ起きているのかを解き明かす。全国の事例、建設市場の構造変化、そして2030年までの業界見通しを通じて、仙台駅前でいま起きている“都市空洞化”の本質を探る。
●目次
旧さくら野百貨店仙台店の閉店後、PPIHは2018年に隣接地へドン・キホーテ仙台駅前店をオープンし、2020年には百貨店跡地の大半を取得した。仙台駅前という価値の高さを考えれば、再開発計画はごく自然な流れに見えた。報道では150メートル級の高層ビル構想まで出ており、テナント誘致を含めた都市機能の刷新が期待されていた。
しかしその後、再開発は動き出さないまま空白期間が続いた。2024年に解体が始まったことで「ついに着工か」と見られたが、解体後の更地を前に、PPIHは計画を断念した。通常、企業がここまで進めて計画を中止するのは異例だ。土地取得・解体費用・事業計画策定など、投入した資金は決して小さくない。それでも撤退する道を選んだ背景には、PPIHだけではなく、日本の都市開発全体を覆う構造的な問題が横たわっている。
「仙台駅前だけを見ていると、特殊な事情があるのではないかと考えがちだ。しかし実際には、全国の大都市圏で“再開発の頓挫”が連鎖している。今年に入り東京だけでも、中野サンプラザ、新宿駅西南口地区、練馬区立美術館、目黒区民センターなど、老朽化した建物の建て替えが延期・中止される例が続出した。いずれも都市の中心部に位置し、本来であれば再開発が最も進みやすい立地であるはずだ。