半導体製造装置「スーパーサイクル」は本物?東京エレクトロン・SCREEN絶好調の裏側

(2)AIチップの製造工程が“異常に複雑”
AI向けロジックは微細化(3nm~2nm級)と積層化が進み、1枚のウエハが装置を出入りする回数が従来比で2~3割増える。

(3)各国が半導体工場を自国内に囲い込んでいる
地政学リスクの高まりを背景に、各国が巨額の補助金で製造拠点を誘致。「世界中で一斉に工場が建つ」という異例の状況が続いている。

 装置メーカーからみれば、これ以上ない“全方位需要”が発生しているのが現在だ。

AIブームはなぜ装置を押し上げるのか

 AIモデルの進化は計算量の指数関数的増大を意味する。より高速に、より多くのデータを処理するために、GPUや専用AIチップの性能は年々跳ね上がる。

 結果として必要になるのが、最先端プロセス、多層化・チップレット化、HBM(高帯域幅メモリ)の大量供給、である。これらは全て、工程数の増加=装置需要の増加に直結する。元半導体メーカー研究員で経済コンサルタントの岩井裕介氏は次のように語る。

「最先端AI半導体は、もはや“作るのが難しすぎる半導体”と言ったほうが近い。微細化に加え、3D積層や複雑な配線構造、高密度の電源・放熱設計が絡み合うため、工程数はこれからさらに増える可能性があります。

 工程が増えるということは、露光・エッチング・成膜・洗浄・検査のすべてで装置が必要になるということです。特に歩留まりを上げるため、高度な洗浄装置や検査装置の追加導入が進みやすく、全方位的に装置需要が押し上がる構造的な追い風になっています。AIが続く限り、装置メーカーの高水準の受注は簡単には終わりません」

 研究者の視点から見ても、AIは単なる一時的需要ではなく、構造的な工程増加を引き起こしているのが特徴だ。

日本勢はなぜ強いのか

 日本企業は装置分野で世界的な高シェアを誇る。東京エレクトロン、SCREEN、アドバンテスト、ディスコが代表例だ。その強みは大きく3つある。

(1)技術の奥行き
装置開発には材料、精密制御、流体解析、光学、ソフトウェアなど複数分野の複合技術が必要。日本企業はこれらを積み重ねてきた。

(2)歩留まり改善に貢献する信頼性
装置は「壊れないこと」が極めて重要。歩留まりが1%落ちれば数億円単位の損失になる世界で、日本製装置は“止まらない”品質が評価される。

(3)半導体メーカーとの長年の共同開発
プロセス技術は装置と一体で最適化されるため、採用企業との相互依存関係が強い。日本勢は長年の実績が強みだ。

「装置開発の“本当の難しさ”は、技術よりも“実績”です。半導体メーカーは、工程の一部でもトラブルが起これば数百億円規模の損失になるため、装置を簡単に切り替えません。

 例えばエッチング装置一つとっても、装置の中でのガスの流れ、温度、電力供給、プラズマの状態などを完全に再現できなければ、同じ性能は出ません。だから、メーカーは“過去の世代で使った装置”を次の世代でも優先的に選ぶ傾向が強い。

 この“継続採用の文化”があるため、東京エレクトロンやSCREENのように実績を積み上げた企業には、長期的な受注が入り続けます。技術だけでなく、実績そのものが参入障壁です」(岩井氏)

 技術だけでなく「スイッチングコスト」こそが、日本勢の強みでもあるという指摘だ。

最大のリスクはAIバブル崩壊と中国の台頭

(1)AI投資の減速
生成AIブームの過熱感は否定できず、収益化が進まない、GPUの供給過剰、モデル効率化による計算量削減、といった理由で投資が一時的に減速する可能性がある。ただし「ゼロになる」ことは考えにくい。AIは企業業務・自治体・産業用途へ確実に広がっているため、投資のベースラインは高止まりしやすい。