オラクルは“AIバブル崩壊”の引き金を引くのか…巨額投資が招く信用収縮リスク

 この指摘が示すように、市場は「AI投資」そのものではなく、“調達コストのレジームチェンジ”を恐れている。

(2)収益構造の悪化(Margin Compression)

 オラクルの利益率は、今後数年間にわたり構造的に下押しされる可能性が高い。

■ 減価償却という「時間差の時限爆弾」
 巨額のデータセンター投資は、今後数年にわたり減価償却費としてのしかかる。これが営業利益率(Operating Margin)を圧迫し続ける。

■ 事業ポートフォリオの変化
 IaaS(クラウドインフラ)は、従来のソフトウェアライセンスと比べて圧倒的に利益率が低い。

 IaaS比率が上昇すれば、利益率の希薄化は避けられない。

「オラクルが“作れば売れる”状態にあるのは事実です。しかし、IaaSは高コスト構造で、収益率はソフトウェア比べて数段落ちます。売上の成長が利益成長につながらない“豊作貧乏”リスクが現実味を帯びています」(同)

(3)投資と回収の“時間差”(Timing Gap)

 データセンター建設には18~36か月の時間が必要だ。投資は先に行われるが、リターンが出るのは後である。

 ここに市場が恐れる2つの不確実性がある。

 1.稼働開始までのキャッシュ流出が長期化するリスク
 2.完成時にAI需要が現在の熱狂を維持している保証はない

 AI価格競争が激化すれば、完成した施設が“稼働率の低い資産”になる懸念もある。

なぜマイクロソフトやグーグルは評価が下がらないのか

 市場がオラクルに厳しいのは、単に投資額が大きいからではない。“スタート地点のバランスシートが脆弱”だからだ。

■ GAFAMの特徴
・マイクロソフトおよびグーグル:巨額のネットキャッシュ
・メタ:広告収益の高いキャッシュ創出力
・投資をすべて内部資金で賄える規模感

■ オラクルの不利な構造
・ネットデットでのスタート
・財務のクッションが少ない
・追加投資=追加借入になりがち

「GAFAMは『多少の失敗は吸収できる構造』ですが、オラクルは違います。財務の柔軟性を欠いたままAWSやAzureと真っ向勝負するのは、持続可能性の面で疑問が残ります」(大手機関投資家)

投資家が注目すべき“財務規律”の行方

 本稿では、今後を左右する2つのシナリオを提示する。

■ 強気シナリオ(Bull Case)──「勝負が成功」する場合

 ・需要が長期化し、データセンターがフル稼働
 ・売上高が年率50%前後で成長
 ・FCFが早期に黒字復帰し、負債返済が進む
 ・格付け懸念が解消し株価回復

 市場では、“第3のクラウド覇者として台頭”という見方も依然として残る。

■ 弱気シナリオ(Bear Case)──「債務の罠」にはまる場合

・建設遅延やAI価格競争で稼働率が伸び悩む
・FCF赤字が長期化
・追加の社債発行が不可避
・格付けがBB格へ格下げ → 調達コスト急騰
・配当停止や自社株買い縮小の可能性

 この場合、“借金で成長を買うモデルの限界”が露呈するリスクがある。

オラクルは「AI相場の主役」から「財務注視銘柄」へ

 今回の決算イベントは、オラクルが「高収益ソフトウェア企業 → 資本集約型クラウド企業」へと、ビジネスモデルを根本的に変えた転換点となった。

 投資家が次に注目すべき指標は、もはや売上高成長率ではない。

・FCF赤字幅は縮小しているか
・Net Debt / EBITDA は改善しているか
・格付け機関は見通しを維持するか

 これらの“財務規律(Financial Discipline)”こそが、オラクルが危機を乗り越え、AI覇権争いに残り続けられるかの試金石となる。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)