●この記事のポイント
・株価6割減に沈むコアウィーブだが、OpenAIやメタは数兆円規模の契約を拡大している。なぜAI巨人は自前のデータセンターを持ちながら、同社に依存せざるを得ないのか。その構造を解き明かす。
・コアウィーブの急成長を支えるのは、GPUを担保に借金で設備投資を回す高レバレッジ経営だ。転換社債発行が続く財務体質は、持続可能な成長なのか、市場の疑念が強まっている。
・同社の動向はNVIDIA決算やAI市場全体に波及する可能性がある。コアウィーブはAI産業の「心臓」であると同時に、資金循環が止まれば市場を揺るがす時限爆弾となり得る。
2025年3月、米国NASDAQに鳴り物入りで上場したAI向けクラウド企業「CoreWeave(コアウィーブ)」。上場直後、株価は一時187ドルまで急騰し、「生成AIバブルの象徴」として投資家の熱狂を一身に集めた。
しかし、その熱狂は長く続かなかった。2025年末時点で株価は70ドル台まで下落し、ピークから6割以上の急落となっている。AI需要そのものは拡大を続けているにもかかわらず、市場の評価は一転して冷ややかだ。
ところが、株価とは裏腹に、コアウィーブを取り巻く現実は異様な様相を呈している。メタは最大142億ドル(約2.1兆円)、OpenAIは累計224億ドル(約3.4兆円)という巨額契約を、株価低迷後も積み増しているのだ。
なぜ株価は暴落したのか。なぜビッグテックは自前のデータセンターを持ちながら、コアウィーブに依存し続けるのか。そして、22.5億ドル規模の転換社債発行を繰り返す同社の“借金経営”は、AI市場全体のリスクとなり得るのか。本稿では、AI産業の裏側で進行する資本の歪みを可視化する。
●目次
コアウィーブの最大の特徴は、契約規模の異常さにある。OpenAIとの累計契約額は224億ドルに達し、事実上、同社の成長ストーリーを支配する存在だ。2025年10月に報じられたメタとの契約も最大142億ドル規模で、2032年まで続く長期囲い込み契約となっている。
IPO時の開示資料によれば、売上の約6割はマイクロソフト関連が占めており、コアウィーブは「独立系クラウド」というより、ビッグテックのAI演算需要を肩代わりする準インフラ企業として機能している。
選ばれる理由は明快だ。「時間を金で買える」──これに尽きる。最大の武器は、NVIDIAとの極めて密接な関係である。NVIDIAはコアウィーブの株主であり、最新GPU「H100」や次世代「Blackwell」を、AWSやGoogle Cloudよりも早く、かつ大量に供給できる“優先レーン”を持つ。
元半導体メーカー研究員で経済コンサルタントの岩井裕介氏はこう語る。
「AIモデルの競争力は、半年の遅れが致命傷になる。GPUが今すぐ使えるかどうかで、数兆円規模の価値差が生まれる」
自社データセンターの建設には数年単位の時間がかかる。コアウィーブは、その“空白期間”を埋める存在として、ビッグテックにとって不可欠な存在となっている。
一方で、株価急落は市場からの明確な警告でもある。投資家が懸念しているのは、AI需要の減速ではなく、コアウィーブの財務モデルそのものの持続性だ。
同社の成長は、極端なレバレッジに支えられている。購入したGPUを担保に金融機関から資金を借り、その資金でさらにGPUを購入する──いわば「GPU担保型の自転車操業」である。