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25話:力学と波力のボレロ(中編)

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 梓馬が持ってきた弁当はとても高級で美味しいものだった。そんな美味しい弁当に見向きもせず欅はパソコンと向き合っていた。

「欅は飯食わないのか?流石に食べないと午後は酸性雨を想定した選抜が始まるぞ!」
「ごめんなさい梓馬先生。すぐに食べます」

 梓馬が用意した弁当は勝利する意味でのトンカツ弁当でとても予約が取れないお店のもので、その値段は1つ2000円を超えるとか…。

「にしてもこのトンカツ美味しい。脂がさっぱりしてるのにこの満足感なんだろう」
「それな!めっちゃ美味しいよね。演舞の時に差し入れして欲しかった…。この大会終わってオフ会ここにしようよ」

 喬林と鶴居はその視線を部長の石角に集まった。熱視線を感じたのか、すぐに振り向いて2人を見つめた。

「ど…どうしたの?何かすごい目で俺を見るけど、なんか付いてる?」
「そんなわけじゃないけど…ね、喬林さん」
「そうだね鶴居さん…」

 2人の考えに察せない石角だった。午後は酸性雨を想定した耐久度で、今大会初の項目だ。

「60本からどこまでやられるのか、こりゃ見ものだな。酸性雨って言っても…ピラニア酸じゃないから大丈夫だろう…いやちょっと待てよ…ん?酸性雨?」

 石角は引っかかった。この時にピラニア酸をぶん回すのだと予測した。

「欅!どこまでパソコンのハックは進んだ?この酸性雨でピラニア酸をばら撒く可能性がある。いけるか?」
「いつでも大丈夫。堀田のパソコン全て操作できないようにハックして初期化した。あとはこの量をどうにか…」

 欅は堀田のパソコン内の情報やアカウント全てをハッキングした。しかし、様子がおかしかった。管らしきものは何かポタポタと落ちていた。

「これ、溶けてる…。川原はどこにいるの?確か気絶した後、どうしたのかな…」
「あ、早朝見たら逃げたらしい。どうやら予備が作動してるのかも…」

 万事休すかと覚悟を決めた2人だが、ポタポタと落ちてきたピラニア酸らしきものはすぐに止まった。すぐに真上を見て止まっている事を確認した後、見覚えのある人が近づいてきた。

「昨日の話盗み聞きしておいたけど、やばそうだったなぁ。しかしすぐに突き止めれたからハッキングできたよ。なぁ、朝葉」
「だな、前山。僕のパソコン技術は誰よりも負けないよ。勿論欅君も流石だわ」
「君たち…何故このことを…?」

 欅と石角の前に現れたのは、同級生の朝葉と前山だった。すぐに事情を話した。

「まぁ、僕は趣味のストーキングをしてた時に君らの声が聞こえていてその内容を偶然朝葉と一緒に聞いてたってわけさ。いやはや、とりあえず間に合ってよかった」
「お前の趣味悪すぎやろ」

 欅以上の異常人がいた事に欅は驚いていた。何より、パソコンの腕が物理部1の欅の速度を超えた朝葉は常人の域を超えていた。

「さ、大会が今やってるのだろ?優勝してこい!石角柊太部長!」
「ありがとうな、朝葉と前山。優勝してやるから待っとけよ」

 2人はそのまま学生の溜まり場の食事処へと移動した。大会に参加しているタワーも酸性雨の嵐に1つ、また1つと脱落した。石角たちのタワーは溶けることもなく王者の余裕を見せつけた。脱落した他校の後輩らしき人はビデオを撮るほどの人気ぶりだった。

「酸性雨って言ってもそんな強くないね。まだピラニア酸出た方がマシだったかな」
「そんなこと言ったら本当に降るかもよ…」

 冗談混じりに欅が話した時、審査員側から悲鳴が聞こえた。よく見ると配管から液体のようなものがポタポタと頭に落ちており、その頭部が溶けていた。近くにいた人は救急車を呼ぶなり、頭を洗ったりなどとしていた。それを見た参加者は出口へ急いでいた。

「まずい…逃げるぞ」
「だな、今会場内にいる物理部を出入り口に呼んですぐに避難だ」

 2人は寺野、下原、鶴居、喬林、富林、加賀木、左右田、湯田を探した。すぐに5人は確認できたものも下原と寺野の確認ができなかった。その間、下原と寺野はとある制御室へと迷い込んでいた。

「ここどこだろ…。トイレに行こうとしたけど迷っちゃったな。タービンのようなものが回ってるからここって発電機とかかな」
「多分…。あ、良いこと思いついた。ここの責任者梓馬だからメチャクチャにしようぜ。なんかピラニア酸とかいう液体が仕込まれてるらしいし、阻止するにはちょうど良くね?」

 下原のバカな発言に寺野は笑いながらその考えに乗った。フットクラッシャーの寺野は、その足でタービンの回転を止めて心臓部を壊した。下原は持っていたミネラルウォーターを用いて繊細な機械基盤と精密機械にぶっかけてショートを狙った。

「よっしゃーヒットぉ!」
「お前やばいな。梓馬に殺されるぞ(笑)」

 下原の異名にマシンキラーが入った瞬間だった。配管に仕込まれていたピラニア酸は制御を失った機械を前に溢れ出ていた。緊急用につけられた配管に流れるように作られていたので、ピラニア酸は排水処理施設へと流れた。その違和感に石角は気づいた。

「あれ…流れてこない…?あのポタポタ具合見た時すぐに破れるはずなのに…」
「安全の確認ができたら入ろう」

 2人除く物理部員は再度会場入りした。審議中のタワー40本と変わるものはなかった。左右田は、1つの違いに気づいた。

「おい、よく見ろよ。自販機の電源が切れてる。この会場内にあるタービンが壊れたに違いない。壊れたから安全装置が作動してピラニア酸とやらは排水処理施設へと流れたに違いない」

 会場内の物理部はすぐに納得した。大会の再開前に、話を聞いた富林はそのタービンがある部屋へ向かった。そこには、一仕事終えた下原と寺野がいた。

「お前らが壊したの?」
「そうだよ!フットクラッシャーの名にかけてタービンぶっ壊した」
「ヤバすぎて草しか生えん」

 富林は寺野の発言と下原のやり切った顔を見てただ笑うことしかできなかった。
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