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本編

9……リティの家族

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 ファティ・リティ……リティが目を覚ますと、何故か家から連れ出してくれたティフィが二人いた。

「何で~? 良いでしょ? ミューずる~い!」
「父上。病人ですよ。騒がないで下さい」
「ティフィ……最近、可愛くない。うにょーんの刑だ!」

 手を伸ばし頰を摘もうとするのをすり抜け、

「全く、父上! もう、良い歳でしょう! 子供じみたことは、やめて下さいませんか?」
「か、可愛くない! 琥珀ちゃんの血は何処にあるの? 誰に似たの?」
「鏡を見て下さい。私も不本意ですが、父上に似てしまいました」
「ムキ~! 琥珀ちゃん! ティフィリエルが虐める~!」
「あら、良かったわね? 最近遊んでくれないって、拗ねてたものね。遊んじゃいなさいな」

こちらは、ベッドから離れたソファに腰を下ろした女性5人。
 何かを熱心に見入っているらしく、返事も半分以上そっけない。

「酷いっ! わーん、ミュー、デュアン。息子が冷たいよ~!」
「いい加減、子離れしろ。兄貴」
「あ、ラディエル、お菓子食べる?」
「うん! デュアンお兄ちゃん、ありがとう」

 ミューゼリックとデュアンリール、そして10歳位だろうか、男の子がいる。
 クッキーを渡していたデュアンリールは、リティに目をやり微笑む。

「あ、騒々しくてごめんね? 伯父上の家族が来てて、伯父上とティフィがいつものようにやんちゃ始めてね」
「ガーン! デュアンリールにまで、お子さま扱いされた~!」
「父上が子供なんです。全く」

 ティフィリエルはため息を吐くと、

「ごめんね? 本当はレディの寝ている部屋に、許可なく侵入は良くないと分かっているけれど、母と妹達がドレスと装飾のデザインなどを決める為に、急いで持っていかなくてはって言うものだから……」
「デザインを決めておく?」
「あれ? 兄さん言ってなかったの?」
「安静第一。どうせ僕よりも姉様やマシェリナ、ミシェリアにナディアラの方が解るでしょ?」
「まぁ、そうだけど。起きて大丈夫?」

 ティフィリエルの問いかけに、リナとレナに手を貸して貰い身を起こしたリティは頷く。

「は、はい。大分調子が良くなりました。ティフィリエルさま、そして陛下。妃殿下。ありがとうございます」
「はいはーい。リティ。私のことは昔はお兄ちゃんって呼んでたけれど、伯父さんって呼んでね? リティのパパのミューは私の弟だからね? で、ティフィリエルのことはお兄ちゃん。琥珀ちゃんのことはお姉ちゃん……になると、マシェリナ、ミシェリア、ナディアラは……うーん」

 ラディエルを抱っこして近づいて来た兄のデュアンリールが、微笑む。

「あ、知らないかもしれないけど、ママと姉様……ティアラーティア妃殿下は、叔母姪なの。ママのお姉さんが姉様のお母さん。伯父上とパパは兄弟だけど、ママと姉様が叔母と姪だから、私は姉様って呼んでるんだ」
「そ、そうだったのですか。知りませんでした。でも、ママは金髪で、ティアラーティアさまは深紅の髪ですね?」
「ママは、貴方のおばあさまに似たのよ。元々私の実家は『紅』の髪なの。父も兄も姉も見事な紅の髪だったわ」
「『紅の狼』のお話を、おじいちゃんに聞いたことがあります。誇り高く、家族思いの狼。シェールドにはドラゴンがいるけれど、この国には『紅の狼』がいるって」
「滅ぼされた家ですけどね。ママの実家よ」

 目を丸くする。

「……父親だった人が自慢していました。早くに亡くなったおばあちゃんがその血を継いでいるって」
「分家というか、先祖が嫁いだ先にごく稀に先祖返りするようなものだ。血は薄い。その程度で自慢とは、程度が知れているな。あ、それと、リティ。リティのパパは私だから。父親だった男のことは忘れるといい」

 ミューゼリックはこんこんと言い聞かせる。

「そして、一応ちゃんと紹介するな? こっちがこれでもパパの長兄のリスティル。で、少しだけ目が大きい以外に見分けがつかない、遺伝子の恐ろしさを持つのが、兄の長男のティフィリエル。これでも、リー兄貴は俺より10歳上。ティフィリエルは、デュアンリールの7歳下だから、ちょうど30歳だ」

 娘を抱き上げ歩いていく。

「で、デュアンと遊んでいるのは、兄貴の末っ子のラディエル、8歳。ラディエルは母親に似ているんだ」
「お姉ちゃん。こんにちは」
「ラディエルさま、よろしくお願いします」
「リティ。従兄弟にさまづけはなし。基本年上には敬語やお兄ちゃん、お姉ちゃんだが、ラディエルは従兄弟だからラディで良い」
「は、はい」
「で、こちらがママにママの姪で、兄貴の嫁のティアラーティア。ティアラと呼んでいる。で、兄貴とティアラの長女のマシェリナ……シェリナと、次女のミシェリア……ミシェル。三女のナディアラ……ナディアは先月結婚したばかりだよ」

 空いていた一人がけのソファに、娘を抱いたまま腰を下ろす。
 大柄なミューゼリックの膝にちょこんと座る形のリティを見て、3人……国王夫妻の嫁いだ娘達が色めき立つ。

「まぁぁ! 叔父さま。リティちゃんってなんて可愛いの」
「本当! 羨ましいわ」
「どうしましょう! こんなに小柄で可憐で可愛いなんて、想像も出来なかったわ。お母さま! 叔母さま! もっとドレスを選びませんこと?」
「ドレス? えと、パパ。デビュタントのドレス……」
「いや、それだけじゃなく、まだデビュタントが最大のイベントだが、今年はデビュタントと2、3の大きなパーティと王室の森で、女性は散策にピクニック。男は馬の競争や談笑をするのと、レディを馬の前に乗せて歩くんだ。これだけは最低でも出なくてはならない。それ以外は兄貴の許可を貰っているから出席を控えるが、来年からはもっと出て貰わないといけない。それに、騎乗用の服も何着か揃えないとな。馬を御する為にはドレスは慣れないと大変だ」

 リティは唖然とする。

「パパ。もしかして横座りですか? 私の馬は……」
「あぁ、男装して乗っていたのだろう? その為の服も当然揃えるとも。公ではドレスでデュアンやティフィリエルの前で、横座りになる。大丈夫だ。二人共ナムグにも馬にも乗り慣れているから」
「でも、良いのですか?」

 おずおずと父と兄、従兄を見る。

「パパ。お兄様やティフィお兄様は、同伴される方が……」
「あ、僕は家族以外ダメなんだよ。と言うか、婚約してるからね」
「婚約……聞いたことがないです」

 それに筆頭公爵の嫡男の結婚なら、話題に上る筈である。

「あ、僕の婚約者はシェールドの国王陛下の姪で、今年7歳です。デビュタントの後に向こうに行く予定なんだよ。その時に会えるよ」
「そうそう。前々から決まっていて、二月程滞在することになっているんだ。あ、アリアもリティも一緒だぞ?」
「えっ! シェールドに行けるんですか? もう一度?」

 ミューゼリックを振り返り、目を輝かせる。
 その嬉しそうな……周囲から見ると破壊的なまでの愛らしい笑顔に、デレっとなり、

「あぁ。私たちにはほぼ決められたことなんだ。私たちは公式に赴くから、向こうから竜が迎えに来てくれる。兄貴とデュアンリールも行かなきゃならないが、パパやデュアンは外交官として、それにシェールドの王家の姫の婚約者としてでもあるから、でも、兄貴たちまでいなくなったら大騒ぎだ。兄貴は別の方法で行くことになる」
「パパ! お母さん、挨拶出来る? お会いできる?」
「あぁ、リティのことを心配していた。時間を見つけて会いに行こう」
「パパ! ありがとう!」

ミューゼリックの胸に抱きつき、嬉しそうに笑う娘に、

「リティは本当に可愛いなぁ。よーし、じゃぁ、パパが何かを買ってあげるぞ! 何が欲しい?」

その言葉に考え込んだリティは、恐る恐る答える。

「パパ。やっぱりちゃんとお勉強したいです。私、本当はレディ教育も、勉強もろくにしていなくて……計算だけが得意で、言葉遣いもなっていないです。デビュタントに間に合う筈がないと思います」
「うーん。勉強は長期に学べば良い。それにデュアンや、ティフィがエスコートするから、最低限のマナーで大丈夫だ」
「でも、肌が黒くて、日に焼けてて、不細工です」
「それは健康的……はぁぁ? 不細工って」

 ミューゼリックは叫ぶ。
 膝にちょこんと座っている、可愛い娘の口から聞こえたのは……。

「わ、私です。あの、ママやお兄ちゃんや、伯父上方はとってもお綺麗で、でも……やっぱり、お兄ちゃんやティフィお兄様にご迷惑で……」
「それはないよ」

 デュアンリールは妹に近づき、頬を撫でる。

「お兄ちゃんは、リティのエスコート絶対したいもの。お兄ちゃんは基本一緒にいるけど、お仕事関係でいない時は絶対、ティフィの側に居てね?」
「ご迷惑じゃ……」
「いや。逆に、私の方が迷惑をかけるかもしれない」
「ティフィお兄様?」
「私は言われ慣れているし、父もそれにシェールドの国王陛下方を見慣れているから気にしないけれど、私のことで色々言われるかもしれない」

 リティは考え込み、ポンっと手を叩く。

「あ、ティフィお兄様がかっこいいから、私みたいな不細工が一緒にいるなとかですか?」
「え~と、リティ。自分を不細工と言うのはやめよう。リティは私から見ても、従姉妹とかのひいき目抜きで、お人形のように可愛いから」
「えぇぇ? パパ! ティフィお兄様が!」
「パパもそう思うぞ。リティは本当に可愛い。パパの自慢の娘だ。不細工じゃない。そんな悲しいことをもう絶対言わないでくれ……な?」
「は、はい。もう言いません」

 頷く。

 リティは基本真面目で、素直で言われたことを鵜呑みにする。
 ミューゼリックが思うに、小さい頃から言われ続け、鵜呑みにした節がある。
 そのフィルターも取っ払う為にも、リティには最高のドレスと装飾で、デビュタントを迎えさせてやりたいと家族は思ったのであった。
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