上 下
2 / 14

第2部分 人間の、鬼より優れている力

しおりを挟む
 静止も間に合わず、触れられたそれは“人”の持つエネルギーに反応して爆発を起こした。

 一般的に、鬼の方が超力を持つと言われているが、人間は人間で鬼より優れている力がある。

 それは──精神力──

 目に見えるものではなく数値化も難しいが、それは確かに鬼のそれを遥かに上回る。

 ここは鬼しかいない研究所で、必然的に機材も鬼専用。
 様々な研究がなされている場所ではあるが、中には精神力を動力としている機材もあり、鬼の少ない精神力で動かせる物ばかりが置かれている。

 そんな繊細な機材に、膨大なエネルギーの塊である人間が触れれば……結果は想像に難くないだろう。

 これまでやってきた監査の人間は機材に一切触れる事はなかったし、今回も事前に通達したんだがなぁ……なんでだよクソが……!

 人間が機材に手を伸ばした瞬間に、理解した気がした。自分の生はここで終わるのか、と。

 もう愛しい彼女に触れることも出来なくなるのだ、と──

 だが、轟音に包まれ視界を失い、壁に叩きつけられるかと身構えていたのに、俺はどこか広い空間に吹き飛ばされたようだった。

「ぐあっ──‼︎」

 うつ伏せに倒れ込んですぐに気づいたのは、むせかえるほどの草の匂い。そこに混じる土の匂いがそこは外なのだと気づかせてくれる。

 目を開けたつもりが何も見えない……目をやられたか……?

 爆風の衝撃を受けた体は痛みに軋む。だがそれ以外に違和感は感じず、これくらいなら力を封じられている今でもすぐに回復するだろうか……こうなってくると、本当にこの制御用バングルが憎い。

「う……」

 そう思いながら、草に顔を押し付けているのが嫌で、なんとか仰向けになると、目は見えていることがわかって少しホッとする。けれど──

「ヒビの入った大きな…………月……?」

 違う。メガネにヒビが入ったのか、少し見えにくい。

「って言うかちょっと待て。どこだ、ここは……⁉︎」

 星月の輝く夜空。周りには鬱蒼とした樹木に下草が広がっていて、どう考えても研究所のあった場所ではない。研究所の庭は実験がしやすいように短い手入れされた芝が広がるだけだから。

 軋む体をなんとか操り起き上がると、そこは深そうな森の中らしいということしかわからなかった。






しおりを挟む

処理中です...