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第3章 出逢い

出逢いⅣ

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 何が始まるのだろう。
 緊張感を持ちながら、席を立つ。その時、窓から眩い閃光が走った。続けて爆発音が鳴り響く。

「ミユ、早く」

「うん」

 若干クラウに急かされ、二人で窓辺へと駆け寄った。それと同時に、牡丹のような緑色の花火が花開く。

「コレもフレアの魔法だ」

「……凄い」

「だろ?」

 アレクと会話をしている間にも、大輪の花火は咲き続ける。
 左隣に居るフレアは間隔を僅かに開け、指を鳴らす。それを合図に一発ずつ花火が上がる仕組みのようだ。

「私、この世界に来た時、ホントに怖かった。これから先、どうなっちゃうんだろうって」

 何故だろう、胸がほんわりと温かくなる。この人たちは、本当に心の底から私の事を歓迎してくれているように感じるのだ。だから、胸に秘めた思いまで零れてしまった。

「元の世界に帰りたい気持ちは変わらないよ。でも、ちょっとなら、この世界に居ても……良いかな」

 それに、何処か懐かしい気持ちにまでなっている。まるで、この人たちと昔から知り合いだったような、そんな気持ちに。
 三人は小さく笑う。
 枝垂れ柳のような煌めく花火に、菊のような鮮やかな花火、ハート形の花火まで、色々な花火が打ち上がる。花火に夢中になってしまった。
 スターマインが上がり、花火は終焉を迎える。儚く尾を引く花火を見詰め、「ほぅ」っと息を吐いた。

「あれ?」

 右隣に居るクラウの声が聞こえた気がした。

「アレクとフレアが居ない」

「えっ?」

 振り返り、キョロキョロと周囲を確認してみる。クラウの言う通り、アレクとフレアの姿は何処にも無い。
 尚もきょろきょろとしていると、不意にクラウと目が合った。
 何だか気まずくて、視線を落とす。

「え、えっと……」

 更にスカートまで握り締める。

「今日はミユに会えて良かった。今日はゆっくり休んで」

「う、うん」

 いきなり知り合ったばかりの男性と二人きりにされるなんて、嫌でも緊張してしまう。
 何か話題は無いだろうか。そんな事を考えていると、扉が開く蝶番の音が鳴り響いた。

「ミユ様」

 やってきたのはアリアだ。此方に走り寄り、にっこりと微笑む。
 その手にはあの氷の花束が抱えられており、そっと手渡された。

「そろそろエメラルドに帰りましょう」

「エメラルド?」

「はい。ミユ様のお家です」

 きっと、従うしかないのだろう。と言うか、この状況は居心地が悪い。
 頷いてみせると、アリアも大きく頷いた。

「では、エメラルドの部屋を思い浮かべてみて下さい。帰りたいと願えばワープ出来る筈ですから」

「うん」

 そっと瞼を閉じ、あの部屋を思い浮かべてみる。

「帰りたい」

 小さく呟くと、辺りが淡く光り始めた。

「ミユ、また三日後に」

 クラウの優しい声が聞こえたと思うと、光は一段と強くなる。
 その光が消え去ると、景色は一変する。白い部屋に、緑色の調度品――この世界に来てからと言うもの、私が過ごしていたあの部屋だ。
 知らない人たちに囲まれていたせいか、どっと疲れが押し寄せる。
 現れた光を気にしながらも、花束をテーブルに置いて早速ベッドへ向かった。

「ミユ様、私は会場の片付けがありますので。今日はこの部屋でご自由にお過ごし下さい」

「分かった~」

 返事をするや否や、編み上げブーツを脱ぎ捨ててベッドに飛び込んだ。雲の上のようなふかふかな感覚が酷く心地良い。
 今日会った三人は魔導師と言う事だから、これからもずっとお世話になる人たちなのだろうか。仲良くなりたいな、と思っているうちに、瞼は段々と重たくなってくる。

「おやすみ」

 誰かに聞こえるか聞こえないかの声量で呟き、瞼を閉じた。

――――――――

 真っ白な花畑で、黒色の矢が空を突き抜け、何本も降ってくる。怖い。どうしようもなく怖い。
 息は既に上がっている。それでも足を止めるわけにはいかなかった。
 繋いだ手を必死に握り締める。強く握り返してくれる手の持ち主は、金髪の男性だ。その人はちらりと振り返り、私の手を強引に引っ張った。

「……ごめん!」

「えっ……?」

 一瞬、何が起きたのか理解が追い付かなかった。
 身体は倒れ、地面と衝突する。そんな私の身体に覆い被さるように、男性も倒れ込む。
 何をしようとしているのかが分かると同時に、血の気が引いていく。
 そんな事をすれば私ではなく、この人が死んでしまう。

「駄目だよ! 止めて!」

 覆い被さるこの人の胸板を叩いたり、服を引っ張ったりしてみるけれど、止めてくれる気配は無い。
 もう逃げきれないと思ったのだろう。この人は私を庇ったのだ。
 そうしている間も矢の雨は降り止まず、私たちの擦れ擦れを掠める。
 そして――

「……あ……ッ……!」

「どうし……て……!?」

 腹部に信じられない程の激痛が走った。まるで、焼けた金属を腹部に押し込められたかのような感覚だ。
 恐る恐る視線を腹部へとずらしてみると、そこは真っ赤に染まっていた。そして、じわりじわりと赤い染みは広がっていく。
 遂に矢の一つが私の腹部を貫いたのだ。
 何度呼吸をしても空気が足りない。苦しい。目が霞む。

「カノン! しっかりして!」

 どことなく、声もくぐもって聞こえる。
 視界には男性の顔が映った。その瞳は海のように深い青色だ。
 直後に頬に何かが当たった。これは――涙だろうか。

「大丈夫だから! 直ぐに連れて帰るから!」

 身体が大きく揺れる。きっと私の身体を抱き上げようとしているのだろう。
 帰るまで命が持つとは思えない。何とか首を横に振ってみせた。

「そんな事言わないで! 俺が……何も出来なかったせいで……!」

 何故、この人が謝る必要があるのだろう。必死に私を守ろうとしてくれたのに。
 最期の別れが謝罪なんて悲し過ぎる。

「あり、が……と……」

 目だって、口だって上手くは笑えていない。それでも、笑顔を向けずにはいられないかった。

「そんな、最期みたいな事……! 何で……!」

 悲しい別れは嫌だから。
 何とか返事をしてあげたいけれど、声が出てくれない。涙が零れ落ちる――

 ごめんなさい。今日までずっと黙っていて。淡い期待を抱かせてしまって。
 こんな事を言える立場ではない事は分かっている。それでも伝えたかった。貴方に出会えたから、私は幸せでした、と。
 もし、生まれ変わる事が出来るなら、その時はまた貴方を――
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