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1 企業勤めを目指そう!(アットホームな職場)

どっちもどっちだったり

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  マサヨシは腕を抱えながら道を歩いている。頭をコクンコクンと傾けながら、奇策が出ないかと試してみる。

「出ないよなぁ。」

  テレサはバルタを退職し、その功績を認められこの絶対不可侵領域「エデン」を献上されている。つまるとここのスラムの中だけ、バルタ傘下の勢力を受けないと言う。
  逆に言えばこの領域を出ると、あの権力を行使されてミイラ侍に襲われると言うことだ。

「どうしたもんか。」
「どうする必要もないんじゃないかな?」

  背後から声が聞こえ、振り向きざまに拳が左頬に届いた。分厚く硬い皮膚と筋肉を締めこんだ、汗臭い拳。それはここで出会った誰の物でもない。

「グッ____」

  体勢が悪すぎる。凄まじい瞬発力に突き飛ばされて地面を何度も打ち付けた。

「噂に聞いた解放者が、たいした事ねぇな。」

  まるで車に跳ねられたような痛み。それを無視して首を上げると、健康そうなテカテカな上裸を晒して短パンを履く、ボディビルダーのような男がいた。

「てめぇ...」
「おいおいおい。怒るな。子供が見てるんだぞ。」

男のセリフでマサヨシには、周りのボロ小屋に隠れている子供達の顔が見えた。それは暗に意味して人質なのだ。

「俺に言えた事かよ露出魔。」
「ハァ?!チャンピオンは裸一貫、恥ずかしいと考えるやつの脳みその方が_____」

  大袈裟に身振り手振りで話す男の懐に入るのはマサヨシにとって簡単だった。踏みしめる足を立てるように伸ばし、折り曲げた腕を顎に目掛けて打ち上げる。するとどうだ。上から拳が降りてきた。所謂カウンター。
  男のカウンターには自身の体重と劇力に、マサヨシの上に行こうとする加速度が乗った強烈な一撃だった。

  骨が軋む音が響いて、鼻の骨が割れたような鈍い痛みが走る。マサヨシの意識は接続の悪いテレビみたいに切れては着いてを繰り返す。

「スケベな奴だからだぁぁああああ!!!」
「ウベェッ!!!」

  モロに入った一撃のまま、頭は地面にめり込んだ。絶対的な力の差。覆せない程の力の差を、文字通りの意味でこの身に叩き込まれた。

  男は地面にめり込んだままのマサヨシを見下ろして、腕組みしながら口上を並べる。

「俺はマルセル。バイオレンスジャケットのリーダーをやってるもんだ。」
「てめぇ...バルタ傘下だろ。なんで不可侵領域犯して___グッ!!!」

  マサヨシの脳天に蹴りが降る。頭骨が足と地面に挟まれて尚、地中にめり込む。
  だがマサヨシは抗う。頭に足が乗ったままでも、手のひらを地表に着けて、全身に力を込めて立ち上がろうとする。それをさせまいと脚にも力が入っている。

「うっ...ぐぐぐぐ、人を物みてぇに扱いやがって....」
「物?お前と物に、なんの違いがあんだ?」

  侮蔑の言葉だ。

「俺以外の人間なんざ、俺をよりよく生活させるための物なんだよ。お前もだ。お前も。」

  マサヨシの中で思考がスイッチした。前に勤めていた上司達がかけてきた言葉と、マルセルが吐き垂れる汚物のような考えに違いはない。

「_____考えるの辞めた。」
「あん?」

  魔法は指向性が生命だと定義される。見て、聞いて、触れて、脳が思考出来る中でイメージに魔力を通し具現化させる。
だがマサヨシのスキルは違う。初級言語理解によって頭部の場所、後頭部に乗った足から算出される敵の位置を既に割り出していた。後は応用だった。
瞬間転移は自分が視覚しない瞬間があるため、[何が]「どこへ」さえ分かってしまえ後は簡単である。

「強がっ_____」

  だから見ずとも、足と頭を転移させる事など造作もない。右脚を無くしてバランスを崩し、地面に倒れた。

「ざまぁねぇよ筋肉ダル____」
  
  身体を起こして、遺体を見る。だが血が出ていなかった。首から吹き出す血の噴水が上がっている筈なのに地面はいつものままだ。
疑念を孕んで吟味していると、遺体になったマルセルの腹が歪に膨らんだ。この時マサヨシの頭の中でクジラが出てきた。

「くそ!まずい!」

  痛む体をねじって走る。その瞬間には遺体が爆発した。死んだクジラがガスによって爆発するみたいに、臓物が発酵して生まれた吐き気を催す匂いを吐き出して。
  そして赤い煙も遺体から吹き出したようで、辺りの光景を赤で埋めてしまった。

「ハッハッハぁー!!俺のスキルは分身魔法。加えて発酵魔法でこのような事も出来た_____おっと。」

  赤い霧からマサヨシが飛び出してきた。転移ではなく、忍び寄り、コンバットする為に。
  だがマルセルもこの街を暴力で生き抜いた人間。殺意だけを勘づいて、飛び出してきた拳を避ける。

 「体さばきから見るに軍属経験あり。素人よりはやるようだな。解放者。」
「うるせぇ!!!お前と喧嘩するために来てる訳じゃねぇ!!!死ね!!!」

  掌を向けて、魔力を出す。だがマルセルは上手い具合に身体を避けて射程範囲の外に出ていく。

「くそが____」

  射程の外を縫うように、マルセルは素早い動きでマサヨシの左側まで逃げ込んだ。

(いつも殺ってきた人間とは違う!恐れも慢心も奢りもない!獲物を狩る獣とでも戦ってるみたいだ!)

するとマサヨシの視界いっぱいに広がった、極太な腕が現れた。

「てめぇのスキルはやっぱり射程がありやがるな。さっきは火事場のクソ力ってとこだろ。普段はそうやって、掌から銃みたいに転移させた。そんなところだろうーっ.....なッ!!!」
  
   腕が喉に飛び込んできた。ラリアット。強大な腕力を受けて、首の骨が歪みながら体の構造を無視して後ろに下がる。

「うぐッ_____」
「俺は元プロレスラーだ!!受けろクロスぅ!!!!」

  考える間も、呼吸する暇もなく、後ろから同じようにラリアットが飛んできた。ダブルラリアットとでも言うのか、まるで鉄にプレスされたような衝撃。マサヨシの意識が飛びかけ、脱力のまま地面に倒れ込んだ。

「うぉえ...」

  喉を熱いものが上がってくれば、口から吐きでる赤い血液。マサヨシはもう立ち上がる力すら残っていなかった。

「ハァ...たいした事ねぇなぁ解放者。」
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