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第11話 深紅の薔薇、嫉妬する独占欲
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翌朝。
小鳥のさえずりではなく、ディルク様の熱い視線で私は目を覚ました。
「……おはよう、リリアナ」
「お、おはようございます……」
目の前に、絶世の美男子の顔がある。
しかも、昨晩の「マーキング」のせいで、彼の機嫌はすこぶる良い。
肌艶も良く、目の下の隈も消えている。
逆に私は、首筋や鎖骨がジンジンと熱くて、少し寝不足気味だった。
「気分はどうだ? 鏡を見てみろ」
彼に促され、私はベッドサイドの大きな鏡を覗き込んだ。
「ひっ!?」
悲鳴が出た。
鏡の中の私の首筋には、まるで赤いネックレスをしたかのように、鮮やかなキスマークが点々と咲き乱れていたのだ。
鎖骨までびっしりと。隙間がない。
「や、やりすぎです! これじゃあ、病気みたいじゃないですか!」
「病気? 違うな」
ディルク様は背後から私を抱きしめ、鏡越しに自分の「作品」を満足げに眺めた。
「『愛されすぎた証』だ。……美しい。どこの誰が見ても、お前が俺の女だと一目でわかる」
「ううぅ……こんな体で外に出られません……」
私が顔を覆って恥ずかしがっていると、コンコン、と扉がノックされた。
「陛下、リリアナ様。お着替えの準備が整っております」
昨日のメイドたちが、大量のドレスを抱えて入ってきた。
彼女たちは、ベッドの上で密着する私たちを見て頬を赤らめ、次に私の首筋を見て――息を飲んだ。
「まあっ……!」
「なんて激しい……」
「あんなに白い肌が、真っ赤に……」
メイドたちの視線が、私の首筋に釘付けになる。
そこにあるのは「ふしだら」という軽蔑ではなく、「皇帝陛下にこれほど愛されるなんて」という圧倒的な畏敬と、少しの羨望だった。
「見ろ、リリアナ。彼女たちも祝福しているぞ」
「絶対に違います! 面白がってるだけです!」
私が抗議するも、ディルク様は聞く耳を持たない。
彼はメイドたちに顎で指示を出した。
「最高級のドレスを用意しろ。ただし、布面積には気をつけろ」
「かしこまりました」
メイドたちがテキパキと私をベッドから降ろし(もちろん、ディルク様の手が離れた瞬間に私が寒くないよう、すぐにガウンを着せかけられた)、着替えが始まる。
用意されたのは、帝国の伝統的な刺繍が施された、深青色のドレスだった。
北国の王族らしい、気品と重厚感のあるデザイン。
私が袖を通し、コルセットを締めると、鏡の前には「無能な捨て子」ではなく、立派な貴婦人の姿があった。
「……綺麗です、リリアナ様」
「まるで、雪の精霊みたい……」
メイドたちがうっとりと溜息を漏らす。
しかし、ディルク様だけは、眉間に皺を寄せて私を凝視していた。
「……気に入らん」
「えっ? 似合いませんか?」
「似合いすぎている。問題はそこじゃない」
彼はスタスタと歩み寄ると、私のドレスの襟元を指先で弾いた。
このドレスは、デコルテが大きく開いたデザインになっており、昨晩のキスマークがバッチリと露出していたのだ。
「丸見えだ」
「だから言ったじゃないですか! もっと首の詰まったドレスに……」
「隠すなと言ったのは俺だ」
彼は理不尽なことを言いながら、今度は私の肩を指差した。
「だが、ここだ。マークのない白い肌まで露出している。……他の男の目に触れさせるわけにはいかん」
「えええ……」
「キスマークは見せつけたいが、お前の肌は見せたくない。……葛藤するな」
最強の皇帝陛下が、ドレス一着相手に本気で悩んでいる。
その独占欲が、少し嬉しくて、呆れるほど重い。
「じゃあ、髪を下ろしましょうか?」
「だめだ。うなじが見えなくなる」
「じゃあ、ショールを羽織ります」
「だめだ。ラインが見えなくなる」
結局、彼は「これなら許容範囲だ」と言って、自分の漆黒のマントを私に羽織らせた。
軍服の上から羽織るような、重厚なマントだ。
ドレスの上に皇帝のマント。
それは、「この女は皇帝の庇護下にある」という、ドレス以上の強烈なアピールになってしまった。
「よし、完璧だ」
彼は満足げに頷くと、またしても私を抱き上げた。
「では行くぞ、リリアナ。朝食の後は、城内の散歩だ」
「あ、歩きます! 自分の足で!」
「ならん。城の男どもが、お前の足首を見ただけで死刑にしたくなる」
「理不尽すぎます!」
こうして私は、皇帝のマントに包まれ、皇帝の腕に抱かれたまま、城中の視線を集めるパレードへと連れ出されることになった。
すれ違う兵士たちが、私の首のマークを見てギョッとし、次にディルク様の幸せそうな顔を見て、慌てて最敬礼をする。
「見ろ、リリアナ。世界が俺たちを祝福している」
勘違いも甚だしいけれど。
彼の腕の中が世界で一番安全で、温かい場所であることだけは、疑いようのない事実だった。
小鳥のさえずりではなく、ディルク様の熱い視線で私は目を覚ました。
「……おはよう、リリアナ」
「お、おはようございます……」
目の前に、絶世の美男子の顔がある。
しかも、昨晩の「マーキング」のせいで、彼の機嫌はすこぶる良い。
肌艶も良く、目の下の隈も消えている。
逆に私は、首筋や鎖骨がジンジンと熱くて、少し寝不足気味だった。
「気分はどうだ? 鏡を見てみろ」
彼に促され、私はベッドサイドの大きな鏡を覗き込んだ。
「ひっ!?」
悲鳴が出た。
鏡の中の私の首筋には、まるで赤いネックレスをしたかのように、鮮やかなキスマークが点々と咲き乱れていたのだ。
鎖骨までびっしりと。隙間がない。
「や、やりすぎです! これじゃあ、病気みたいじゃないですか!」
「病気? 違うな」
ディルク様は背後から私を抱きしめ、鏡越しに自分の「作品」を満足げに眺めた。
「『愛されすぎた証』だ。……美しい。どこの誰が見ても、お前が俺の女だと一目でわかる」
「ううぅ……こんな体で外に出られません……」
私が顔を覆って恥ずかしがっていると、コンコン、と扉がノックされた。
「陛下、リリアナ様。お着替えの準備が整っております」
昨日のメイドたちが、大量のドレスを抱えて入ってきた。
彼女たちは、ベッドの上で密着する私たちを見て頬を赤らめ、次に私の首筋を見て――息を飲んだ。
「まあっ……!」
「なんて激しい……」
「あんなに白い肌が、真っ赤に……」
メイドたちの視線が、私の首筋に釘付けになる。
そこにあるのは「ふしだら」という軽蔑ではなく、「皇帝陛下にこれほど愛されるなんて」という圧倒的な畏敬と、少しの羨望だった。
「見ろ、リリアナ。彼女たちも祝福しているぞ」
「絶対に違います! 面白がってるだけです!」
私が抗議するも、ディルク様は聞く耳を持たない。
彼はメイドたちに顎で指示を出した。
「最高級のドレスを用意しろ。ただし、布面積には気をつけろ」
「かしこまりました」
メイドたちがテキパキと私をベッドから降ろし(もちろん、ディルク様の手が離れた瞬間に私が寒くないよう、すぐにガウンを着せかけられた)、着替えが始まる。
用意されたのは、帝国の伝統的な刺繍が施された、深青色のドレスだった。
北国の王族らしい、気品と重厚感のあるデザイン。
私が袖を通し、コルセットを締めると、鏡の前には「無能な捨て子」ではなく、立派な貴婦人の姿があった。
「……綺麗です、リリアナ様」
「まるで、雪の精霊みたい……」
メイドたちがうっとりと溜息を漏らす。
しかし、ディルク様だけは、眉間に皺を寄せて私を凝視していた。
「……気に入らん」
「えっ? 似合いませんか?」
「似合いすぎている。問題はそこじゃない」
彼はスタスタと歩み寄ると、私のドレスの襟元を指先で弾いた。
このドレスは、デコルテが大きく開いたデザインになっており、昨晩のキスマークがバッチリと露出していたのだ。
「丸見えだ」
「だから言ったじゃないですか! もっと首の詰まったドレスに……」
「隠すなと言ったのは俺だ」
彼は理不尽なことを言いながら、今度は私の肩を指差した。
「だが、ここだ。マークのない白い肌まで露出している。……他の男の目に触れさせるわけにはいかん」
「えええ……」
「キスマークは見せつけたいが、お前の肌は見せたくない。……葛藤するな」
最強の皇帝陛下が、ドレス一着相手に本気で悩んでいる。
その独占欲が、少し嬉しくて、呆れるほど重い。
「じゃあ、髪を下ろしましょうか?」
「だめだ。うなじが見えなくなる」
「じゃあ、ショールを羽織ります」
「だめだ。ラインが見えなくなる」
結局、彼は「これなら許容範囲だ」と言って、自分の漆黒のマントを私に羽織らせた。
軍服の上から羽織るような、重厚なマントだ。
ドレスの上に皇帝のマント。
それは、「この女は皇帝の庇護下にある」という、ドレス以上の強烈なアピールになってしまった。
「よし、完璧だ」
彼は満足げに頷くと、またしても私を抱き上げた。
「では行くぞ、リリアナ。朝食の後は、城内の散歩だ」
「あ、歩きます! 自分の足で!」
「ならん。城の男どもが、お前の足首を見ただけで死刑にしたくなる」
「理不尽すぎます!」
こうして私は、皇帝のマントに包まれ、皇帝の腕に抱かれたまま、城中の視線を集めるパレードへと連れ出されることになった。
すれ違う兵士たちが、私の首のマークを見てギョッとし、次にディルク様の幸せそうな顔を見て、慌てて最敬礼をする。
「見ろ、リリアナ。世界が俺たちを祝福している」
勘違いも甚だしいけれど。
彼の腕の中が世界で一番安全で、温かい場所であることだけは、疑いようのない事実だった。
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