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第12話 腐らない宝石、永遠の誓い
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城内お披露目パレード(強制抱っこ)の後、連れてこられたのは、目がくらむような煌びやかな部屋だった。
帝国の宝物庫――ではなく、商人を呼びつけて急遽作らせたという、臨時の衣装部屋だ。
「好きなだけ選べ。全部でも構わん」
ディルク様が顎で示した先には、山のように積まれたドレス、靴、そして宝石の数々があった。
特に宝石は凄まじい。
ルビー、サファイア、エメラルド。
私の国の国庫にあるよりも巨大で、美しい宝石が無造作に置かれている。
「え、えええ!? こ、こんなに高価なもの、いただけません!」
「なぜだ? 俺の女が身につけるものだ。世界最高のものでなくては困る」
彼は当然のように言うけれど、私の金銭感覚が追いつかない。
「でも、私は……国を追われた身ですし、こんな素晴らしいものを身につける価値なんて……」
つい、いつもの癖で卑下する言葉が出てしまった。
その瞬間。
部屋の空気が、ピリリと凍りついた。
「……価値がない、だと?」
ディルク様の声が低くなった。
彼は私を抱いていた腕を解き、ゆっくりと宝石の山へと歩み寄った。
控えていた商人たちが、恐怖で震え上がる。
「リリアナ。お前はまだ、自分の価値を理解していないようだな」
彼は、最も巨大で美しい、深紅のルビーの指輪を手に取った。
――ジュッ……。
嫌な音がした。
彼の指が触れた瞬間、ルビーの鮮やかな赤色がドス黒く濁り、黄金の台座が錆びついて崩れ落ちた。
数秒後には、国宝級の指輪が、ただの炭の塊になっていた。
「ひぃッ!?」
商人が悲鳴を上げて失神した。
ディルク様は炭になった指輪を無造作に捨てると、私に向き直った。
「見たか。この世のあらゆる富も、権力も、俺が触れればゴミになる」
彼は自嘲気味に笑い、両手を広げた。
「俺は世界最強の皇帝だが、俺自身は何も持っていない。美しいものを美しいまま愛でることすら許されない、哀れな怪物だ」
彼の瞳に、深い孤独の色が浮かぶ。
「だが、お前は違う」
彼は私の元へ歩み寄ると、私の両手を取った。
「お前が俺に触れてくれれば、俺は人間になれる。温かい食事を摂り、温かい湯に浸かり、安らかな眠りにつける」
彼は私の手を引き、今度は別の指輪――澄み切った青色の、ダイヤモンドの指輪へと伸ばした。
「一緒に、触れてくれ」
彼の手が、私の手を包み込むようにして、指輪を掴んだ。
腐らない。
ダイヤモンドは砕けず、その美しい輝きを放ち続けている。
「……綺麗だ」
彼は指輪を見つめ、感嘆の息を漏らした。
「お前と一緒なら、この世界はこんなにも美しい」
彼は私の手を離すと、その指輪を私の左手の薬指に嵌めた。
サイズはぴったりだった。
「リリアナ。この指輪の価値は、ダイヤモンドそのものじゃない。俺が触れても輝き続けている、という『奇跡』そのものだ」
彼は私の薬指に、誓いのキスを落とした。
「お前はゴミじゃない。俺の世界を輝かせてくれる、唯一の光だ。……だから、二度と自分を卑下するな」
それは、どんな愛の言葉よりも熱烈な、私の存在肯定だった。
今まで誰からも価値を認められなかった私が、この最強の皇帝にとってだけは、世界の全てよりも価値がある。
「……はい。ディルク様」
涙が溢れて止まらなかった。
私は彼の首に腕を回し、自分から口づけをした。
昨日よりも深く、長く。
彼が私にくれた自信が、私を大胆にさせていた。
「ん……っ」
ディルク様は一瞬驚いたようだが、すぐに主導権を奪い返し、私を食い尽くすような深いキスで応えた。
商人やメイドたちが赤面して顔を背ける中、私たちは宝石の山に囲まれて、互いの体温を確かめ合った。
「……やはり、ドレスを選ぶのは後にしよう」
唇を離したディルク様は、熱っぽい瞳で私を見つめた。
「お前が可愛すぎて、我慢の限界だ。……寝室に戻るぞ」
えっ、また!?
私の抗議の声は、彼のマントに封じ込められた。
この城に来てから、私の生活拠点は「寝室のベッドの上」になりつつある気がする……。
帝国の宝物庫――ではなく、商人を呼びつけて急遽作らせたという、臨時の衣装部屋だ。
「好きなだけ選べ。全部でも構わん」
ディルク様が顎で示した先には、山のように積まれたドレス、靴、そして宝石の数々があった。
特に宝石は凄まじい。
ルビー、サファイア、エメラルド。
私の国の国庫にあるよりも巨大で、美しい宝石が無造作に置かれている。
「え、えええ!? こ、こんなに高価なもの、いただけません!」
「なぜだ? 俺の女が身につけるものだ。世界最高のものでなくては困る」
彼は当然のように言うけれど、私の金銭感覚が追いつかない。
「でも、私は……国を追われた身ですし、こんな素晴らしいものを身につける価値なんて……」
つい、いつもの癖で卑下する言葉が出てしまった。
その瞬間。
部屋の空気が、ピリリと凍りついた。
「……価値がない、だと?」
ディルク様の声が低くなった。
彼は私を抱いていた腕を解き、ゆっくりと宝石の山へと歩み寄った。
控えていた商人たちが、恐怖で震え上がる。
「リリアナ。お前はまだ、自分の価値を理解していないようだな」
彼は、最も巨大で美しい、深紅のルビーの指輪を手に取った。
――ジュッ……。
嫌な音がした。
彼の指が触れた瞬間、ルビーの鮮やかな赤色がドス黒く濁り、黄金の台座が錆びついて崩れ落ちた。
数秒後には、国宝級の指輪が、ただの炭の塊になっていた。
「ひぃッ!?」
商人が悲鳴を上げて失神した。
ディルク様は炭になった指輪を無造作に捨てると、私に向き直った。
「見たか。この世のあらゆる富も、権力も、俺が触れればゴミになる」
彼は自嘲気味に笑い、両手を広げた。
「俺は世界最強の皇帝だが、俺自身は何も持っていない。美しいものを美しいまま愛でることすら許されない、哀れな怪物だ」
彼の瞳に、深い孤独の色が浮かぶ。
「だが、お前は違う」
彼は私の元へ歩み寄ると、私の両手を取った。
「お前が俺に触れてくれれば、俺は人間になれる。温かい食事を摂り、温かい湯に浸かり、安らかな眠りにつける」
彼は私の手を引き、今度は別の指輪――澄み切った青色の、ダイヤモンドの指輪へと伸ばした。
「一緒に、触れてくれ」
彼の手が、私の手を包み込むようにして、指輪を掴んだ。
腐らない。
ダイヤモンドは砕けず、その美しい輝きを放ち続けている。
「……綺麗だ」
彼は指輪を見つめ、感嘆の息を漏らした。
「お前と一緒なら、この世界はこんなにも美しい」
彼は私の手を離すと、その指輪を私の左手の薬指に嵌めた。
サイズはぴったりだった。
「リリアナ。この指輪の価値は、ダイヤモンドそのものじゃない。俺が触れても輝き続けている、という『奇跡』そのものだ」
彼は私の薬指に、誓いのキスを落とした。
「お前はゴミじゃない。俺の世界を輝かせてくれる、唯一の光だ。……だから、二度と自分を卑下するな」
それは、どんな愛の言葉よりも熱烈な、私の存在肯定だった。
今まで誰からも価値を認められなかった私が、この最強の皇帝にとってだけは、世界の全てよりも価値がある。
「……はい。ディルク様」
涙が溢れて止まらなかった。
私は彼の首に腕を回し、自分から口づけをした。
昨日よりも深く、長く。
彼が私にくれた自信が、私を大胆にさせていた。
「ん……っ」
ディルク様は一瞬驚いたようだが、すぐに主導権を奪い返し、私を食い尽くすような深いキスで応えた。
商人やメイドたちが赤面して顔を背ける中、私たちは宝石の山に囲まれて、互いの体温を確かめ合った。
「……やはり、ドレスを選ぶのは後にしよう」
唇を離したディルク様は、熱っぽい瞳で私を見つめた。
「お前が可愛すぎて、我慢の限界だ。……寝室に戻るぞ」
えっ、また!?
私の抗議の声は、彼のマントに封じ込められた。
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