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第一部
30.罰
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「はぁ~っ」
ルキウスに流されて、私も愛していると言ってしまった。
嗚呼、私は何とチョロイのか……。
最初はマルクスにそっくりだから、ついつい流されてしまっていた。まあ、拒んでも抵抗にすらならなかったというのもあるが……。
それなのに……最近は何やら変だ。私の中でルキウスへの想いが変化していっている気がする。何故だ? 何故、あのような暴力男に惚れるのだ……。
いやいや、惚れていない。惚れてなどいない。
「ル、ルイーザ様?」
「え?」
「まだいらしたのですか?」
ベッドの中でうだうだしていたら、部屋を整えるために入ってきた女官が驚いた顔をしている。
私は首を傾げ、今、何時だと思い、時計を見ると、本来起きなければならない時間を大幅に過ぎていた。このままでは正妃教育を遅刻して、また鞭で打たれ、殴られてしまう。
そう思った私は魔法で己の体を手早く清め、ドレスも魔法で着た。
「わぁ! とても素晴らしいですね」
「だから、ルイーザ様にはあまりお手伝いがいらないのですね」
「ええ。ですが、これからは朝、起こしに来て下さると嬉しいのです……大変申し訳ないのですけれど……」
「畏まりました。そうですよね、殿下と熱い夜を過ごされた後は、ついつい寝坊しちゃいますよね」
女官の変な納得を笑って誤魔化し、正妃教育に急いで行かないといけないからと伝え、私は部屋から逃げた。
嗚呼、失敗した。殺される。次、遅刻したら絶対殺される。
転移できれば一瞬なのに、この宮殿は広いのだ。嗚呼、なんと迷惑な。
私がドレスの裾を抱え、全力疾走していたら、突然何者かに足を引っ掛けられ、顔から思いっきり転ぶ事になってしまった。
「痛っ、っう」
「ルイーザ、大丈夫か?」
ルキウスのわざとらしい声が耳に入り、足を引っ掛けたのは、此奴だという事を悟った私は、駆け寄ってきて起こしてくれたルキウスを睨んだ。
「何を走っている? はしたない。殴られたいのか?」
「ち、違っ……これは正妃教育に遅れそうで、慌てていて……昨夜、中々其方が寝かせてくれなかったから寝坊をしてしまったのだ」
誰にも聞こえないように、耳元で殴る発言され、私は慌てて言い訳をした。けれど、ルキウスの目は冷たいままだ。
昨夜、愛していると言った男と同一人物とは思えぬ。この二重人格め。
「ならば、急げ。また遅れたら、鞭打ち100回だと心得よ」
「ひゃっ、100回!? そ、そんな……」
私がまた走ろうとすると、ルキウスに走るなと言われたので、私はお淑やかに、でも早足で何とか歩いたが、やはり遅刻をしてしまった。
「ルイーザ様、5分の遅刻ですぞ」
「も、申し訳ありません。ですが、殿下には内緒にしておいて下さい。お願い致します」
殺される。殺されてしまう。鞭で100回など、絶対死ぬ。
「それは出来ません。それこそ、一挙一動すら全て事細やかに報告しろとのご命令ですので」
「え?」
は? 怖っ!
あやつは私の何だ? ああ、婚約者のつもりか……。いやいや、そこまで私を監視して、どうするつもりだ? 執着の仕方がおかしい。普通に怖いのだが……。
そんなにも暴力を振るう口実が欲しいのか?
……ふんっ、それはないな。あやつは、何かがなくとも苛々していたら、普通に私の背中を邪魔だと言って蹴ったりしてくるような理不尽な奴だ。
はぁ、性格破綻者め。
そして案の定……私は夜に部屋に戻ってきたルキウスにより鞭打ちを受けるはめになった。
「ま、待ってくれ。遅れたと言っても、たったの5分だ。それくらい許す寛大な心を持ってくれ、頼むから!」
否、まだ受けてはいない。だが、じりじり詰め寄るルキウスに後ずさりながら、何とか許して貰えないかと交渉中である。
「大体、ルキウスがちゃんと寝かせてくれないからだ! だから、寝坊してしまうのだ!」
「言いたい事はそれだけか?」
「愛しているなら暴力を振るうな! こんな事続けられたら、本当に逃げるぞ! 鞭で、私を打ったら、次こそ絶対逃げてやるからな!」
「暴力ではない。これは躾だ」
……躾って、家畜じゃあるまいし。失礼な男だな。
「口で言え!」
「其方には体に教え込んだ方が早い」
「そ、そんな事はないぞ! 私は馬鹿だが、聞き分けは良い方だ、多分っ、痛っ、鞭を振り回すなっ!」
「遅刻を二度もしておきながら、よくそのような事が言えるな」
いや、でも人には失敗の一度や二度や三度くらい……。私が背を向けないまま、何とか退路を確保しようとしても、ルキウスはそれを許してくれそうにない。
今、背中を向けて逃げてはいけない。絶対に鞭か剣でやられる……ふむ、どうする? どうやって、この場から逃げようか……。
「ルドヴィカ、さっさと終わらせてしまった方が楽だぞ」
「でも、痛いのは嫌だ! 其方は一体何なのだ!? ルイーザの方が私より大切なのだろう! だから、ルイーザにはしない暴力を私には振るうのだ! 私を愛しているなど嘘だ! 本当は嫌いだから、私を殴るのだ! 鞭を振るうのだ!」
私が叫びたいだけ叫び、ゼーハーと荒い息を繰り返していると、ルキウスが私の頬に触れた。
いつのまに、距離を詰められたのだと思った頃には遅かった。ルキウスは私を殴り、着ているものを剥ぎ取り、背中を向けさせ、素肌のまま鞭で打った。
私が何度もう遅刻しないからやめてくれと願っても、泣いて喚いても、きっちり宣言通り100回打った。
「うう……鬼……最低だ……やっぱり嫌いだ、い゛っ! あ゛あ゛あ゛、やめっ、い゛っ」
鞭打ちを受け、肉が裂けた私の背中に、ルキウスは容赦なく爪を立て、引っ掻いた。私が泣き叫んでも、お構いなしだ。
「絶対……逃げて、やる……も、嫌だっ」
「クッ、逃しはせぬ。愛していると言っただろう」
「嘘つき。詐欺師。鬼。暴君。性格破綻者。クズ。さいてっ、ぐっ」
私が思いつく限りの悪態を吐くと、ルキウスは私の傷ついた背中を踏み、嘘ではないと言った。
「嘘だ! 愛している者への態度かどうか、今一度、己を見つめ直してみろ!」
「クッ、ルドヴィカがいけないのだ」
は? 私?
何だ? 遅刻するからか? いちいち逆らうからか?
「ルドヴィカの痛みに喘ぎ泣いている表情を見ると、次はその表情を快感に染めてやりたくなる。其方の泣き顔は私の情欲を煽るのだ」
「へ、へ、変態っ!」
私がルキウスの背中から這い出ようとしても、思いっきり踏まれているので、動けない。寧ろ、今動いたら、背中の肉がもげそうだ。
というか、痛い。もの凄く痛い。頼むから踏まないで欲しい。だが、此奴に痛いと言うと喜ばせてしまいそうなので、私は痛みに耐えながら、背中に手を伸ばし、回復しようとした。
「いっ!」
「今宵はまだ回復する事は許さぬ」
背中に伸ばそうとした手を踏まれ、私は情けなさでどうにかなりそうだった。
駄目だ、此奴。狂ってる。破綻しているなんてものではない。狂ってる。それに救いようのない変態だ。変態。
「ルキウスは服従を誓えば、私に心地良く優しく愛してくれると言った! あれは嘘か? 仮にも両思いになったのに! 何故、痛い事をするのだ!」
何故だ? 服従を誓ってないからか?
だが、私たちは婚約者だろう? ならば対等ではないのか?
「私だとて、ルドヴィカが遅れずにやるべき事をまっとうしていれば、このような事はせぬ」
「5分の遅刻くらい許す寛大さを持ってくれ! 頼むから! 今のままでは全然心地良くないぞ」
私の叫びにルキウスは、私を踏むのはやめて抱き上げてくれた。だが、その抱き上げる手や腕が当たるだけで、痛くて堪らないのだが……寧ろ、回復させてくれるまで、痛くて死にそうだ。
「んっ、んんっ……」
すると、ルキウスは私に回復薬を口移しで飲ませて来たので、私はルキウスに抱きかかえられながら、それを飲んでしまった。
「ルキ、ウス……ッ?」
ルキウスは私をうつ伏せにベッドに寝かせ、背中をツーっと指でなぞったので、思わず体をしならせてしまった。くそっ、恥ずかしい……。
「っ、あっ!」
「ふっ、この前より回復しているな。上出来だ」
その言葉と共に、己がまた回復薬の実験台に使われたのだという事を、私は気付いてしまった。
ルキウスの愛しているは、いつになれば真実になるのだろうか。
本気で私を愛した時、今までの所業を詫びて後悔したって許してやらないんだからなっ! ふんっ!
ルキウスに流されて、私も愛していると言ってしまった。
嗚呼、私は何とチョロイのか……。
最初はマルクスにそっくりだから、ついつい流されてしまっていた。まあ、拒んでも抵抗にすらならなかったというのもあるが……。
それなのに……最近は何やら変だ。私の中でルキウスへの想いが変化していっている気がする。何故だ? 何故、あのような暴力男に惚れるのだ……。
いやいや、惚れていない。惚れてなどいない。
「ル、ルイーザ様?」
「え?」
「まだいらしたのですか?」
ベッドの中でうだうだしていたら、部屋を整えるために入ってきた女官が驚いた顔をしている。
私は首を傾げ、今、何時だと思い、時計を見ると、本来起きなければならない時間を大幅に過ぎていた。このままでは正妃教育を遅刻して、また鞭で打たれ、殴られてしまう。
そう思った私は魔法で己の体を手早く清め、ドレスも魔法で着た。
「わぁ! とても素晴らしいですね」
「だから、ルイーザ様にはあまりお手伝いがいらないのですね」
「ええ。ですが、これからは朝、起こしに来て下さると嬉しいのです……大変申し訳ないのですけれど……」
「畏まりました。そうですよね、殿下と熱い夜を過ごされた後は、ついつい寝坊しちゃいますよね」
女官の変な納得を笑って誤魔化し、正妃教育に急いで行かないといけないからと伝え、私は部屋から逃げた。
嗚呼、失敗した。殺される。次、遅刻したら絶対殺される。
転移できれば一瞬なのに、この宮殿は広いのだ。嗚呼、なんと迷惑な。
私がドレスの裾を抱え、全力疾走していたら、突然何者かに足を引っ掛けられ、顔から思いっきり転ぶ事になってしまった。
「痛っ、っう」
「ルイーザ、大丈夫か?」
ルキウスのわざとらしい声が耳に入り、足を引っ掛けたのは、此奴だという事を悟った私は、駆け寄ってきて起こしてくれたルキウスを睨んだ。
「何を走っている? はしたない。殴られたいのか?」
「ち、違っ……これは正妃教育に遅れそうで、慌てていて……昨夜、中々其方が寝かせてくれなかったから寝坊をしてしまったのだ」
誰にも聞こえないように、耳元で殴る発言され、私は慌てて言い訳をした。けれど、ルキウスの目は冷たいままだ。
昨夜、愛していると言った男と同一人物とは思えぬ。この二重人格め。
「ならば、急げ。また遅れたら、鞭打ち100回だと心得よ」
「ひゃっ、100回!? そ、そんな……」
私がまた走ろうとすると、ルキウスに走るなと言われたので、私はお淑やかに、でも早足で何とか歩いたが、やはり遅刻をしてしまった。
「ルイーザ様、5分の遅刻ですぞ」
「も、申し訳ありません。ですが、殿下には内緒にしておいて下さい。お願い致します」
殺される。殺されてしまう。鞭で100回など、絶対死ぬ。
「それは出来ません。それこそ、一挙一動すら全て事細やかに報告しろとのご命令ですので」
「え?」
は? 怖っ!
あやつは私の何だ? ああ、婚約者のつもりか……。いやいや、そこまで私を監視して、どうするつもりだ? 執着の仕方がおかしい。普通に怖いのだが……。
そんなにも暴力を振るう口実が欲しいのか?
……ふんっ、それはないな。あやつは、何かがなくとも苛々していたら、普通に私の背中を邪魔だと言って蹴ったりしてくるような理不尽な奴だ。
はぁ、性格破綻者め。
そして案の定……私は夜に部屋に戻ってきたルキウスにより鞭打ちを受けるはめになった。
「ま、待ってくれ。遅れたと言っても、たったの5分だ。それくらい許す寛大な心を持ってくれ、頼むから!」
否、まだ受けてはいない。だが、じりじり詰め寄るルキウスに後ずさりながら、何とか許して貰えないかと交渉中である。
「大体、ルキウスがちゃんと寝かせてくれないからだ! だから、寝坊してしまうのだ!」
「言いたい事はそれだけか?」
「愛しているなら暴力を振るうな! こんな事続けられたら、本当に逃げるぞ! 鞭で、私を打ったら、次こそ絶対逃げてやるからな!」
「暴力ではない。これは躾だ」
……躾って、家畜じゃあるまいし。失礼な男だな。
「口で言え!」
「其方には体に教え込んだ方が早い」
「そ、そんな事はないぞ! 私は馬鹿だが、聞き分けは良い方だ、多分っ、痛っ、鞭を振り回すなっ!」
「遅刻を二度もしておきながら、よくそのような事が言えるな」
いや、でも人には失敗の一度や二度や三度くらい……。私が背を向けないまま、何とか退路を確保しようとしても、ルキウスはそれを許してくれそうにない。
今、背中を向けて逃げてはいけない。絶対に鞭か剣でやられる……ふむ、どうする? どうやって、この場から逃げようか……。
「ルドヴィカ、さっさと終わらせてしまった方が楽だぞ」
「でも、痛いのは嫌だ! 其方は一体何なのだ!? ルイーザの方が私より大切なのだろう! だから、ルイーザにはしない暴力を私には振るうのだ! 私を愛しているなど嘘だ! 本当は嫌いだから、私を殴るのだ! 鞭を振るうのだ!」
私が叫びたいだけ叫び、ゼーハーと荒い息を繰り返していると、ルキウスが私の頬に触れた。
いつのまに、距離を詰められたのだと思った頃には遅かった。ルキウスは私を殴り、着ているものを剥ぎ取り、背中を向けさせ、素肌のまま鞭で打った。
私が何度もう遅刻しないからやめてくれと願っても、泣いて喚いても、きっちり宣言通り100回打った。
「うう……鬼……最低だ……やっぱり嫌いだ、い゛っ! あ゛あ゛あ゛、やめっ、い゛っ」
鞭打ちを受け、肉が裂けた私の背中に、ルキウスは容赦なく爪を立て、引っ掻いた。私が泣き叫んでも、お構いなしだ。
「絶対……逃げて、やる……も、嫌だっ」
「クッ、逃しはせぬ。愛していると言っただろう」
「嘘つき。詐欺師。鬼。暴君。性格破綻者。クズ。さいてっ、ぐっ」
私が思いつく限りの悪態を吐くと、ルキウスは私の傷ついた背中を踏み、嘘ではないと言った。
「嘘だ! 愛している者への態度かどうか、今一度、己を見つめ直してみろ!」
「クッ、ルドヴィカがいけないのだ」
は? 私?
何だ? 遅刻するからか? いちいち逆らうからか?
「ルドヴィカの痛みに喘ぎ泣いている表情を見ると、次はその表情を快感に染めてやりたくなる。其方の泣き顔は私の情欲を煽るのだ」
「へ、へ、変態っ!」
私がルキウスの背中から這い出ようとしても、思いっきり踏まれているので、動けない。寧ろ、今動いたら、背中の肉がもげそうだ。
というか、痛い。もの凄く痛い。頼むから踏まないで欲しい。だが、此奴に痛いと言うと喜ばせてしまいそうなので、私は痛みに耐えながら、背中に手を伸ばし、回復しようとした。
「いっ!」
「今宵はまだ回復する事は許さぬ」
背中に伸ばそうとした手を踏まれ、私は情けなさでどうにかなりそうだった。
駄目だ、此奴。狂ってる。破綻しているなんてものではない。狂ってる。それに救いようのない変態だ。変態。
「ルキウスは服従を誓えば、私に心地良く優しく愛してくれると言った! あれは嘘か? 仮にも両思いになったのに! 何故、痛い事をするのだ!」
何故だ? 服従を誓ってないからか?
だが、私たちは婚約者だろう? ならば対等ではないのか?
「私だとて、ルドヴィカが遅れずにやるべき事をまっとうしていれば、このような事はせぬ」
「5分の遅刻くらい許す寛大さを持ってくれ! 頼むから! 今のままでは全然心地良くないぞ」
私の叫びにルキウスは、私を踏むのはやめて抱き上げてくれた。だが、その抱き上げる手や腕が当たるだけで、痛くて堪らないのだが……寧ろ、回復させてくれるまで、痛くて死にそうだ。
「んっ、んんっ……」
すると、ルキウスは私に回復薬を口移しで飲ませて来たので、私はルキウスに抱きかかえられながら、それを飲んでしまった。
「ルキ、ウス……ッ?」
ルキウスは私をうつ伏せにベッドに寝かせ、背中をツーっと指でなぞったので、思わず体をしならせてしまった。くそっ、恥ずかしい……。
「っ、あっ!」
「ふっ、この前より回復しているな。上出来だ」
その言葉と共に、己がまた回復薬の実験台に使われたのだという事を、私は気付いてしまった。
ルキウスの愛しているは、いつになれば真実になるのだろうか。
本気で私を愛した時、今までの所業を詫びて後悔したって許してやらないんだからなっ! ふんっ!
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