鬼畜皇子と建国の魔女

Adria

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第二部

34.無茶苦茶な提案

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 さて、実は私は死んではいない。
 だって、ルキウスの側から離れていないからな。


 ふふん、魔法で姿と気配を消して、実は近くにいたりするのだ。



 まあ、ルキウスは血相を変えて、私を探しているがな。見つけられぬだろう。


 今まで、侍女や下女、はたまた蜘蛛にまで変化したが、全てバレたのは気配故だろう。ルキウスは気配を読むのが巧みなのでな。
 故に、魔法の力で気配と姿を丸ごと消したのだ。これでは見つけられまい。


 まあ、最初の方に何故これをしなかったかと言われると、それは簡単な話だ。

 忘れていたに決まっているだろう!


 まあ、そのうちルキウスが気になって離れられなくなったのだがな……。今も……。



 今もそうだ……死が怖いのではなくルキウスが気になって仕方がない故に離れられぬ。
 もし、ルキウスが心から悔いて、悪かった。愛していると言ってくれたら戻るつもりだ。



 ま、まあ……そのような事を言う奴ではないだろうが……。



「殿下、まだ遠くには行っていない筈です。現在、領内を隈なく探させておりますので、程なくして見つかるでしょう」
「……だと良いが」



 私は、ぼんやりとルキウスと辺境伯の間に立ちながら、2人の話を聞いていた。
 はんっ、痴話喧嘩で婚約者が飛び出して行方不明とはなんとも滑稽な話だな。ざまあみろだ。



 ルキウスの顔から焦りが消えぬ。いつも涼しい顔をしている奴が珍しいものだ。
 今、私に従属の焼印を押していた事を後悔しているのだろうか? それによって、私が死んでしまったと思っているのだろうな。


 ルキウス、己の手駒を失う気分はどうだ? 暫く、後悔し続けると良い、ふん。








 どうやら丸一日かけて、領内を探したが私が見つからなかったので、王都へと帰らねばならなくなったようだ。
 転移魔法がないので、此処から王都に戻るには数日かかるからな……私如きの為に長く王都をあける訳にはいかぬのだろう。




 ルキウスは引き続き、領内を調べると共に、帝国全土への捜索を命じた。
 馬車の中で、書類と睨めっこをしているルキウスの機嫌が最悪なのは、誰が見ても明らかだった。


 馬車の中で、ルキウスの様子を伺っていると、ルキウスが深い溜息を吐いた。


「ルドヴィカ……」
「っ!」


 突然、名を呼ばれてビクッとしてしまったが、どうやら気付いたのではなさそうだ。ルキウスは頭を抱えながら、また深い溜息を吐き、もう一度私の名を呼んだ。



 ルキウス……。


「帰ってきたら覚えていろよ」



 ………………。



 一瞬、絆されそうになった私は、その言葉で我に返り、己の頬を叩き、己を律する事にした。


 ふぅ……危ない危ない……。
 ルキウスが謝るまで許してなどやらぬのだ。



 王都までの道中、何かしら書類ばかりを見ているが、ふとした時に私の名を呼ぶ日々だった。


 それは城に帰ってからも同じだった。


 観察していると、1日の殆どを執務室で政務をしながら過ごし、臣下の者たちの声にもちゃんと耳を傾け、国を良くする為に色々と考えている事が良く分かった。
 そして、女官や侍女たちの失敗に対しても感情的にならず、対処をしている。と言うより、寧ろ、興味がなさそうだ。



 ただ、稀に……いや頻繁に容赦なく殺める時があるが、それはルキウスに対して敵と認定された者だけだった。まあ、疑わしいので仕方がないと思う。



 見れば見るほど、性格破綻者の暴君ではなかった。ならば何故、私にはあのように短気で感情的なのだろうか……。


 実は……私の事がきら……いやいや、そんな……だったら、どうしよう……。



「ルドヴィカ……」



 ああ、まただ。ルキウスは1人になると、私の名を切なそうに呼ぶ。返事をしたくなるではないか……。
 だが、私がいなくなってからというもの、ルキウスは己の部屋に戻る事が、ほぼなくなった。執務室に入り浸りだ。眠る時も、執務室の椅子に腰掛けたまま、うたた寝するか、執務室のソファーで1時間ほど仮眠するかだ。


 それでも、熟睡なんてしていないだろう。元々、熟睡なんてする奴ではなかったが、今まで以上に休めていないように感じる。
 そして、時間が出来れば私の捜索に関しての指示を出して、己も城の中や王都内を探している……。




 実は此奴……私の事を途轍もなく好きなのでは?
 そう思う時と、私にだけ振るう暴力に実は嫌われているのでは? と凹んだりもする日々が数ヶ月程経った。




「ルイーザ様、何処ですか? そろそろ隠れんぼはやめましょうよ」
「馬鹿! 猫じゃあるまいし、そんなところにいる訳ないでしょ!」



 女官たちがテーブルの下や棚の下を覗き込みながら、ほぼ半泣きで探している。とても良い者たちだと思う。
 数ヶ月経った今でも毎日探してくれているのだから……まあ、探すところがおかしいが……。



 最近では、ルキウスが私の名を呼ぶ事も減ってきたように思う。
 ただ抱え込む仕事量が更に増えた気がするが……。



「このままでは殿下が過労死します!」
「ルイーザ様!」



 何故、彼女らは城の中をいつも探しているのだろうか? 女の勘というやつなのか……ただ闇雲なだけなのか……。




 ふむ、最近は私も限界と言えば限界なのだ。
 話し相手がいないまま、ジッとルキウスを観察しているのも飽きてきた頃だ。
 そろそろ、私自身がルキウスが恋しくて触れたくて仕方がなくなっている……このままでは根負けしそうだ。



 なので、私は女官たちの前に姿を現す事にしてみた。


 取り敢えず、叫ばれても大丈夫なように盗聴防止用の結界を張って、姿を現すと、案の定、女官たちは叫んだ。


「きゃああ!!」
「ああー!」
「殿下ぁ! ルイーザ様が!」
「待って! 待って下さい! 殿下には秘密にして下さい」



 私はルキウスと喧嘩した事を話した。私の愛を疑われて悲しかった事や、溜まりたまった鬱憤を吐き出した。



「でも、数ヶ月は流石に長過ぎます」
「ルイーザ様、その間お食事はどうされていたのですか?」
「湯浴みやお着替えは?」
「それは清めの魔法と変化の魔法を使って……」



 私が侍女や下女に姿を変えると女官たちが凄い凄いとキャッキャっし始めた。このように騒がしければ、速攻でバレそうだ。結界を張っておいて良かった。



「殿下に謝って欲しいなら、姿を見せないと難しくありませんか?」
「ですが……」
「この数ヶ月、聞けなかったのでしょう?」
「うっ……」
「まあ、いない相手に謝るなんて、中々難しいと思います」


 女官たちの言葉に、私はぐうの音も出なかった。私が項垂れていると、女官の1人がニヤニヤし出した。



「殿下は、何処からどう見てもルイーザ様がお好きですよ」
「まさか……」
「いえいえ、本当です!」


 他の女官も激しく同意し始めたので、私はだって……と服の裾を掴んだ。



「まあ、単純に甘えているだけだと思います。どんな事をしても、どんな事を言っても離れない、好きでいてくれるって信じているんだと思いますよ」
「でも、殿下は信じられないって……」
「それはアレですよ。素直になれないだけです」



 そういうものなのか?
 私が首を傾げていると、では他の何かに姿を変えて観察してみれば良いと、提案してきた。



「他の何か……ですか?」
「ええ、ルイーザ様の面影を感じる事が出来れば自然と本音が口をつくのでは?」
「まさか……そんな……」
「ねぇねぇ、猫とかどうかしら? ルイーザ様と同じ髪の色で、雰囲気も似ているちょっと吊り目の猫」


 私を置いてけぼりにして、女官たちはどんどん話を進めていった。



「ですが、気配でバレませんか?」
「でも、誰が行方不明のルイーザ様が猫になっていると思うのですか? 気配が似ているなら余計本音も吐露しやすくなるのでは?」



 本当にそうだろうか?
 無茶苦茶過ぎないか? 逆に無茶苦茶過ぎて、ルキウスをたばかれるのだろうか?



「心配しなくても、猫のルイーザ様のお世話は、私たちでしてあげますから任せて下さい!」
「は、はい……お願い致します」


 別にそのような事は心配していない。
 だが、駄目元で乗ってみるか……。
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