鬼畜皇子と建国の魔女

Adria

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第二部

42.ルキウスの扱い方

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「では、あとひとつ教えてくれ!」
「………………」
「婚儀の内容だ! どうやって執り行なったのかくらい教えてくれても良いだろう?」


 私がルキウスの両肩を掴んで、そう言うと、ルキウスは面倒くさそうに、私の手を払いのけた。



「簡単だ。其方を私が抱き上げたまま、婚儀を行なったのだ。その時に着せたドレスは、ルイーザの部屋に飾ってある。後で確認しておけ」
「抱き上げたまま?」


 ルキウスの話によると、この国の婚礼の儀式は、婚姻する男女が共に、神殿内の聖なる泉で身を清め、その後神殿へと移動し、最高神に贄を捧げるのだそうだ。



「贄?」
「獅子を数頭捧げるのが慣例だ」


 そして皇族の場合、他国からの参列者、国中の貴族などが集り、祝詞を述べ、誓いの儀式を行なった後、披露目の宴会が行なわれるらしい。



 眠っている間に、他国の者や国中の貴族を集め、そのような大それた事をしていたとは……それはやり直しなど出来ぬな……。


 そして男は白の衣装に白のマント、女は色ものの衣装を着用し、顔にヴェールをかけるのだそうだ。



「ドレスはどんな感じなのだ?」
「……では、見に行くか」



 私がワクワクしながら尋ねるとルキウスが、そう言って立ち上がったので、私は慌てて魔法で寝衣を着て、己の身を清めてついて行った。



「おおっ! 凄い豪華なドレスだな」


 青・赤・緑などの色とりどりの絹やベルベットの布地に、金や銀の糸で刺繍を施した、とても豪奢なドレスであった。



「花嫁のドレスは、その家の権威を示す為のものだ。だからこそ、質素なドレスなど出せぬ。まあ、出させはしないが……」
「という事は、このドレスは公爵家が……ルイーザの養い親が用意したのか?」
「ああ」



 素晴らしい出来だな。私はドレスは嫌いだが、特別な日は違う。私だとて、ドキドキワクワクするのだ。




「ルキウス……着てみても良いか?」
「好きにしろ」



 ルキウスは興味がなさそうなので、放っておこうと思う。私はドキドキしながらドレスを持って、ルキウスの部屋へと戻ろうとした。




「此処で着れば良いだろう? わざわざ面倒な動きをするな」
「だが、このような豪奢なドレスを1人で着るのは大変だ。魔法を使って来たいのだ」



 このルイーザの部屋は制限が多い。魔法を使うなら、ルキウスの部屋に戻った方が良いに決まっている。
 何故か機嫌が悪そうなルキウスに、私はドレスを取り上げられるのではないかと思い、ドレスをギュッと抱き締めた。



「ならば、昼間……女官に着せてもらえ」
「……? 何故だ? 部屋を移動すれば、容易く着れるのに、何故そのような事を言うのだ?」
「気分だ」



 私はルキウスの言葉に唖然とした。そんなくだらぬ気分で、私のワクワクした気持ちを害さないで欲しいものだ。



「其方の気分など知らぬ。私は着ると言ったら着るのだ」



 ルキウスに舌を出し、私はドレスを抱き締め、隠し通路からルキウスの部屋へと戻った。
 そして、魔法でパパッとドレスを着ると、私は感動した。とても綺麗なドレスだ。薄絹が用いられている部分が、私が動く度、美しく揺れる。



「嗚呼! 素晴らしいな! ルイーザの養い親には感謝だな!」
「それは良かった……」
「ルキウス?」


 私は、その後機嫌が悪くなったルキウスにドレスを着たまま犯されてしまった。先程、何度もしたくせに、何故少しでも気に入らぬ事があれば、私で鬱憤を晴らそうとするのだ?


 私が何度も、ドレスを汚したくないから脱ぎたいと言っているのに、ルキウスは容赦なくドレスに剣を突き立て、破った。
 私が頭にきて、ルキウスに攻撃魔法をぶっ放そうとしても、剣で斬りかかろうとしても、力づくでおさえ込まれている為、私は何も出来なかった。



「くそっ、離せ! ルキウスなんて最低だ! 嫌い! もう嫌いだ!」



 何度泣き喚いても、暴力的な凌辱はやまなかった。


 何故だ? 何がいけなかったのだ?
 ドレスを着ても良いと言ったではないか……ルイーザの部屋から出て、ドレスを着た事が何故それ程までに機嫌を損ねるのだ?



 もう嫌だ。最悪だ。ただでさえ、婚儀の記憶すらないのに、折角私のために作ってもらったドレスさえ、ボロボロに踏み躙られて、私はどうしたら良いか分からなかった。


 気の済んだルキウスがベッドで眠っている横で、私はボロボロになったドレスをギュッと抱き締め、状態回復の魔法をかけ、ドレスを元に戻した。



 ……元通り綺麗になっても、ルキウスが私にした事は消えぬ。
 心を交わしても、何ひとつ変わらぬ……近づいた気がしても、またすぐ遠くなる……一体何を考えているのかも分からぬ……。



 私が、その後泣きながらベッドに入ると、ルキウスが抱き寄せてきたので、私はビックリしてしまった。



 あ……寝ているのか……。
 普段なら、無意識に抱き締められて嬉しいと思うのかもしれぬが、今はそうは思えぬ。



 ルキウス……何を考えているのだ?
 其方にとって、私は何だ? 気分ひとつで踏み躙っても良い存在なのか?


 愛している……其方にとって、この感情は一体どういうものだ?



 私はグチャグチャした感情を抱えながら、ルキウスの隣で眠った。





 朝、目が覚めるとルキウスは既にいなかった。そして、女官に起こされ支度をして貰いながら、婚儀の事について聞いてみた。




「本当に目覚めて下さって、良かったです! 殿下は絶対に大丈夫だと仰いましたけれど、愛の成せる技ですね!」
「婚儀は、それはもう美しくとても素晴らしいものでしたよ」
「まるで、宝物のように大切にルイーザ様を抱き上げ、婚儀を行なわれたのです」




 宝物? はんっ、そんなわけあるか……。
 ルキウスからすれば、私なんてただの駒だ、駒。



「宝物? そうでしょうか?」
「ルイーザ様? あ、眠っておられる内に全てが終わった事を怒っているのですか?」
「ですが、殿下のルイーザ様を見る優しく慈しむ目は、まるで宝物を見るような目でしたよ」
「そうかしら? 取り繕うのが上手いだけでは?」



 私が嘲笑混じりに、そう言うと女官たちが目をパチクリさせている。
 まあ、また喧嘩したと思っているのだろうが……。



「何故、それ程までに怒っているのですか?」
「それは……」
「何か理由があるのでしょう? 話してみて下さい。少しは気持ちが楽になるかもしれませんよ」
「…………実は」



 私は婚儀のドレスをルキウスの部屋で着たいと言ったのに、ルキウスが面倒だと言って嫌がった事。無理矢理、着たら気分を害したルキウスにドレスを破られ、犯された事まで話した。



「え? でもドレスは……」
「それは、わたくしの魔法で元通りにしておきました」
「そうなのですね……」
「うーん。それは単に拗ねているだけでは?」



 は? 拗ねている?
 私が怪訝な顔で、女官を見ると、女官は慌てて言葉を続けた。



「おそらくですよ? 殿下は、ドレスにばかり気を取られているのが嫌だったのだと思います」
「は?」
「こんなドレス凄い! 嬉しい! と言って、感謝して労い、甘えて欲しかったのだと思います」
「ねぎらう? だけれど、あのドレスは……わたくしの家が……」


 女官たちは、此処だけの話ですよと言って、あのドレスはルキウスが、私に似合うものを選び、用意させたものだと教えてくれた。



「嘘……だけれど、そんな事で怒りますか?」
「男なんて子供ですから。それに目覚めたばかりで、ルイーザ様欠乏症の殿下からしたら、ドレスにばかり気を取られているのが嫌だっんでしょね」



 何だ? ルイーザ様欠乏症って?
 変な診断を下すな……。




「はぁ。つまりはこういう事ですか? わたくしが殿下をそっちのけで、ドレスに気を取られ、ドキドキワクワクしていたのが気に入らなかったと?」
「そうです。そうです」



 …………子供かっ!
 随分と幼稚な感情だな……。まあ、愛情に飢えている故なのか……。



 はぁ、私より女官たちの方が、ルキウスの扱い方を心得ていそうだ。
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