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番外編(ルクレツィオ視点)

我が子に続く道

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 私たちは、その後エトルリアの王宮へと戻り、早速皆に報告する事にした。


「まったく……何時だと思っているのだ? 我はルチェッタと寝ていたのだぞ!」



 大きな声を出して、ルチェッタが起きたらどうするのだと機嫌が悪いペガゾを宥めながら、私とベレニーチェは神殿であった事を報告しようと思った。




「ベレニーチェ、ルクレツィオ。明日では駄目なのか?」
「ですが、ベレニーチェが懐妊したのです! どうしても早く知らせたくて……」
「「「は?」」」



 私の言葉に、おじ様もおば様もペガゾも、同様に意味が分からないという反応をした。
 当たり前だ。先程、会った時は懐妊していなかったのに、今は懐妊しましたなどと言われて信じられる訳がない。




「まさか……2人共、神聖な神殿内で交わったりしていませんよね?」
「実は……、御子みこの前ですれば帰ってきてくれやすいのかと思い、試してみたのです」
「そうなのです、お母様。そしたら、あの子が光ったと思ったら、私のお腹に入ったのです!」
「へぇ、そうですか……」



 おば様の声が底冷えするように冷たかった。怒っているのですかと聞かなくとも分かるほどに、纏っている雰囲気が冷たく恐ろしいものだった。
 威圧を使われていないのに、威圧されているようなピリピリとした空気に、私とベレニーチェは息をのんだ。



「其方らは愚かだ。神殿はプロヴェンツァが大切にしている領域だぞ。その場で、そのような事をしたら、ベアトリーチェが怒るに決まっているぞ」



 ペガゾの言葉に、私たちは素直に謝った。謝ったが、おば様の纏う雰囲気が変わらない。まるで、そこだけ雪山のようだ。凍死しそうな程に底冷えする空気に耐えきれず、私はおじ様に助けを求めるように、ジッと見た。



「まあ、良くやったと褒めてやろう。神殿内で行なった事に関しては、褒められた事ではないが、懐妊したというなら話は別だ。良くやった」


 そして、おじ様は溜息を吐いた後、怒っているおば様の肩を叩き、許してやれと仰ってくれた。すると、おば様の雰囲気が一気に軟化していった事に、私とベレニーチェはとても驚いた。



「さすがです! お父様、凄い!」
「ありがとうございます、おじ様」



 すると、ペガゾがベレニーチェをジッと見た。
 私がどうしたのかと思いながら、ペガゾを見ると、ペガゾがベレニーチェの顔に己の顔を近づけたので、私は驚き、ペガゾを掴もうとした瞬間、ペガゾが怪訝そうに顔を離した。




「ペガゾ、何を!?」
「ベレニーチェ、其方……ポーションを飲んだだろう? 懐妊しているなら、ポーションなんて飲むな。己を酷使する人間ばかりで、我は嘆かわしいぞ」
「ち、違うのです。これは怪我をしたから飲んだだけで、疲労回復させてブラックに働こうとか、そんなつもりじゃないんです! それに飲んだのは妊娠する前です」



 ポーションを飲んだかまで分かるのか……流石だな。……だが、そういえば母上も分かると言っていたな。己で作っているからだと言っていたが、実際は動物と変わらぬ嗅覚があるという事か。やはり野生的なのだな、母上は。



「ベレニーチェ、怪我とはどういう事だ?」
「そうだ。何処を怪我したのだ? 我に見せてみろ」



 怪我という言葉に反応したおじ様とペガゾが、ベレニーチェに詰め寄り始めたので、私はこれ以上はボロが出ると思い、イストリアへ戻る事にした。



「えっ? えっと……」
「既にポーションで治っています。もう、このような時間なので、私たちはイストリアに戻ります。早く父上たちにも報告したいと思っておりますので」



 何かを言おうとしたベレニーチェを背に隠し、私がそう言うと、ペガゾは引いてくれたが、おじ様は引いてくれなかった。いぶかしげな目で私を見ている。




「今後、寝所でベレニーチェに傷一つ付けてみろ。その時は蹴られるだけですまぬと覚悟しておけ」
「は……はい。畏まりました」



 おじ様は身を屈め、私の耳元で私にしか聞こえない声で、そう言った。
 その有無を言わさぬ声音に、私は全てバレているのかとさえ思った。





 その後はイストリアへと戻り、父上たちへの報告は明日にし、私たちはベッドに入ったあと、すぐ眠ってしまった。


 今日は色々あって疲れた……。
 これからはもっとベレニーチェと腹の子を大切にしよう。もう一人で逝かせるような真似だけはせぬ。












「懐妊したですって?」
「それはまことか?」
「はい、父上。間違いありません。突然、頭上で御子が光り、ベレニーチェの腹に入ったのですから」



 私たちが、そう報告すると、父上の顔色が変わった。私がどうしたのかと思うと、父上が私を手招きしてので、私は首を傾げながら、父上の下に歩みでた。


 後ろでは、母上がベレニーチェに祝いの言葉を述べ、嬉しい楽しみだと浮き足立っている。




「父上? どうかされましたか?」
「其方、頭上で光ったと言ったな? まさか、神聖な場でそのような行為には及んでいないだろうな?」
「え?」



 何故、あの報告でバレるのだ……。会いに行った時に起きた現象かもしれぬのに。それに、母上はそう思っているようだ。まったく気にも留めていなさそうに見える。




「何故、バレたかと顔に書いてあるぞ」
「え? そ、それは……」
「まったく其方は……理性や自制心というものがないのか? 時と場所くらいは選ぶのだ、分かったな?」



 優しい口調だが、呆れているのがよく分かる。
 まあ、父上は理性を失うような事はないのだろうな……。だから、ベレニーチェの前で理性を容易く無くしてしまう私の気持ちなんて分からないのだ。



 私が申し訳ありませんと謝罪すると、父上は私の頭を撫でて下さった。それに驚き、弾かれたように顔をあげると、良くやったと褒めてくれた。



「ルクレツィオ、ベレニーチェ。良くやった。その腹の子は、全属性となり、いずれイストリアを正しい形へと導く者だ。その功績は大きい。後ほど、祝いの席を設け、皆に広めよう」



 父上の言葉に、私とベレニーチェは礼を言い、お互いの手を握り合った。すると、母上が私を抱き締めてくれたので、私はとても驚いてしまった。




「本当によくやってくれました。今まで、本当に頑張りましたね。ありがとう、ルクレツィオ。以前にも言いましたが、貴方は私たちの自慢の息子ですよ」
「母上……」




 私が母上の胸で涙ぐんでいると、母上が良い子良い子と言って頭を撫でてくれたから、不覚にも私には泣いてしまった。



「ふふふ、良かったですね。ルクレツィオ」
「あ、ああ……」



 ベレニーチェがニヤニヤしている。揶揄からかう気満々だ。


 後で覚えていろよ……。




「ああ! 楽しみですね。名を考えないと」
「は? 母上?」
「ビアンカやステファノの時、お義母様が付けてくださったのです。なので、次は私やベアトリーチェ様で名付けたいなと……駄目ですか?」



 浮き足立っている母上に私が首を傾げると、母上がそう言った。



「ですが、1人目の子ですし……私たちに任せて欲しいのですが……」
「……そうですね。……分かりました。確かに、私もルクレツィオの時は好きにさせて貰いましたから、そうします」



 母上はシュンとしたかと思うと、2人目は名付けさせて下さいねと笑った。


 そうか……私の名は母上が付けてくれたのだったな……そう思うと何やら嬉しいな……。



◆後書き◇
 
 懐妊したから不問にされているけど、実際罰当たりも良いところですよ。

 ルクレツィオは元々ああいう性癖持ちなので、受け入れられて加速的に目覚めただけで暴走している訳ではありません。ベレニーチェは元々お馬鹿さんです。


 賛否が分かれやすい作品である事は認めます。
 此処まで読んで下さり、ありがとうございました。
 まだもう少し続くので、お付き合い下さると嬉しいです。
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