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第二章 開業準備をする俺

38、ギルド職員

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 そして俺は今、扉の前で仁王立ちでギルド職員が来るのをひたすら待っていた。
 こうやって威厳がある方が、もしかしたらビビってすぐに帰ってくれるかもしれないからな。
 そう思って、数時間……全然こねぇ。どんなけ来るの遅いんだよ!!
 と、流石に足が痺れてきた頃だった。

「お前ら、ようやく着いたぞ!! よっし、コレで後は帰るだけだ!!!」
「いやいや、班長。ちゃんとこの館が急に現れた原因を探さないとだめですって!」
「それよりも見てくださいまし。館の前に誰か人が立っていませんこと?」

 話し声からして、向こうから来ているのは男二人、女一人といったところだろう。
 そう思っていたら、奴らは物騒な事を言いはじめた。

「こんな場所に人? モンスターの可能性がある、念のために戦闘準備……」
「ま、まて! 俺はモンスターじゃない、人だ!」

 このままではいきなり攻撃されかねないと、俺は慌てて声をかけてしまう。
 そんな俺の声を聞いて、三人は顔を見合わせるとゆっくりと近づいつてきた。まだ警戒心は解かれていないようだ。
 仕方がない、これは俺から近づいた方が早いな。

「ほら、もっと近くに来ればちゃんと人だってわかるだろ?」
「ち、近づくな!?」
「待って下さいませ、この方狼のお面を被ってるではありませんこと?」
「と言うことは、この人……もしかしてー?」

 今度はお面姿の俺を見たせいで、三人は小声で話し合いを始めてしまった。
 一体なんなんだと、俺は三人をよく観察する。
 まず若い男はその黒い前髪で左目を隠していて、見えている右目は緑色だ。少し根暗な印象を受ける。
 そして次に金髪の縦ロールが腰まで来ている、紫色の瞳を持った嬢ちゃんはまだ新人らしく、右肩に盾のマークがついている。格好はギルド職員用の服なのに、なんだか何処かのお嬢様にしか見えない。
 そして最後に班長と呼ばれているとにかくデカイ男をよく見た。

「……んん?」

 何処かで見た事がある気がした俺は首を傾げる。
 俺よりも頭一個分デカイ身長に、逆立っている赤茶色の髪と橙色の瞳。なにより頭に鉢巻をしている姿は暑苦しい……。
 いや、ちょっと待てよ、あの見慣れた鉢巻……アイツはまさかサバン!?
 声が出そうなのを我慢して、俺はザバンについて思い出す。
 サバンという男は俺が冒険者現役時代に仲良くしてもらったギルド所員さんだ。少しバカをやりすぎた仲なのでお酒とかも飲みに行った程仲がよかった。
 俺が死んだと聞いて唯一悲しんだ可能性がある存在だけど、あいつが悲しむのは想像がつかない。

「おっほん、待たせたな。ってお前……」
「ど、どうしたんだ? 話し合いなら中で……」

 じっとお面越しに見つめられて俺は一瞬バレたのかと、ドキドキしてしまう。

「いや、なんでもない。お前ら作戦変更だ、俺一人でこの館に入ることにする」
「ええ!?」
「班長、本当にお一人で大丈夫なんですの??」
「ああ、大丈夫だから少し待ってろ」

 そう言うとサバンは改めてこちらを向いて、頭を下げた。

「俺はザバン。東エリアの冒険者ギルドから、このダンジョンに突如として現れたこの館の調査を任されてここまで来た。よければ中で話を聞かせてもらえるかな?」
「ああ、大丈夫だ。詳しい話は中で話すが、本当に一人でいいのか?」
「ああ、構わない」

 サバンの態度になんだか嫌な予感を感じながら、俺は扉を開ける。
 そして俺は玄関ホールに最初から設置されていた椅子に腰掛けるようサバンに促した。

「まだ色々と準備中で……話し合いをするのにこんな場所ですまないな」
「いやいいんだ。それよりバンは座らないのか?」
「ああ、俺もすぐに座る……って、え?」

 今、コイツ俺の事バンって呼ばなかったか?

「じゃあ座ったら、詳しく話を聞かせて貰おうか……バン・ダインよ」

 何故かサバンに俺のことがバレている事に、俺は血の気が引いて行く。
 そして俺は恐る恐るサバンに話しかける。

「サバンのことだから当てずっぽうじゃないよな。どうして俺の事わかったんだ……?」
「もう忘れたのかよ、俺のスキル『クレアボヤンス』の存在をな!!」

 サバンのスキル『クレアボヤンス』は、遠くを見る事のできる千里眼のようなスキルだったが、サバンはあまり上手く使いこなせていなくて、ただの凄く目がいい人としか認識されてなかったはずだ。

「でもそれは遠くを見るのがメインで、透視はなんとなくわかるレベルじゃなかったか?」
「あれからもう8年も経つんだ、透視能力で一枚先の物なら見えるようになったんだよ!」

 俺が8年の間にスキルを磨いたように、コイツもスキルが成長していたようだ。
 それなら、もうコイツの前でお面をする必要はないかと、お面を取ろうとした。

「待て、お面はそのままにしておけ」
「でもサバンの前じゃ意味ないだろ?」
「外にいるアイツらはあれでも俺の部下たちだ。俺の知らない能力を隠し持っている可能性は充分ある。それにその感じだと、お前は生きてる事がバレたら困るんだろ?」
「ああ、そうだが……って、やっぱり俺は死んでる事になってるんだ?」

 そう言うと、サバンは気まずそうに目を逸らしながら頷いた。
 なんだろう、何か当時の事でも思い出したのかもしれない。

「書類の上では死んだ事になっているが、あの後調査しても遺体が見つからなかった事から俺は生きていると信じていたぞ! 本当に本当に、生ぎででよがっだ!!!!」

 そう言いながら、今度は漢泣きし始めるこの暑苦しい男に俺は苦笑いしてしまう。

「心配かけて悪かったな……でもお前は暑苦しいが口は固い、それにお前に嘘ついても仕方がないからな。だからお前には話してやるよ、この8年間の事とそしてこれからの話をな……」
「ああ。外に待ってるアイツらには悪いが、じっくり聞かせてもらおうじゃないか!」

 コイツが二人を外に待たせた理由は、俺の事を二人に気づかせないようにする為だったようだ。
 そして俺はこの8年間の話をかいつまんでサバンにしたのだった。
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