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第三章 温泉を作る俺

73、あの後の話

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 確かにエノウさんの言う通り、俺には気になる事が沢山あった。
 でも以前、アンナがファミリーをやめている事を聞いていた俺は、先にその事実を確かめておきたかった。

「あの……俺はあの後アンナがすぐにギルドを抜けたと聞きましたけど?」
「それは、アンナのためを思ってキングがそういう話に変えただけだ。実際にアンナはあの日、ファミリーを追放されたのだからな」
「……アンナがファミリーを追放された?」

 確かに『暁の宴』では仲間を置き去りにする事はとても重い罪とされていた。
 だから追放されてもおかしくないとは思っていたが、実際こうして聞くと不思議な気持ちになってしまう。

「そして追放した後、私たちはすぐにバンの捜索を行っていた」
「え!?」

 それに驚いたのは俺だ。
 だってあの10日間、ずっと仲間が来るのを待っていたのに誰も来なかったのだから……。

「私たちはバンが行方不明になった辺りへ向かったのだが、そこには強力なモンスターが溢れていたために、捜索自体を諦めるしかなかったんだ」

 確かに俺の結界周りにはモンスターが沢山いるなとは思っていたけど……そんなにも溢れていたとは知らなかった。

「そうだったんですね、俺はてっきり見限られたんだと思ってました」
「キングはそこまで簡単に人を見捨てたりはしないさ」
「確かにあの人は……そうかもしれません」

 記憶の中のキングは、熱い男というイメージしかないからな……。

「しかしあの群れの奥で、まさか生存しているとは思わなかったな……ただ一人キングだけはバンの結界を過大評価していたから、絶対に生きていると言い張っていたんだが、流石に一週間過ぎた頃には諦めてしまったんだ」
「それは、すみませんでした……」
「だけど生きていてくれたのなら、それでいい。ほら、イアも何か言いたいことがあったんだろ?」

 そう言ってエノウさんは、イアさんの背中を優しく撫でる。
 そして目を真っ赤にしていたイアさんはこちらを見ると頭を下げたのだ。

「バン、私があのときもっとしっかりしていたら、貴方を置き去りにする事もなかったはずですのに……本当に申し訳ありませんでしたわ!」
「そんな、謝らないで下さい! 悪いのは俺を蹴飛ばしたアンナですし、それに生きていたのにずっとダンジョンで隠れていた俺も悪かったですから……」
「でも、それは理由があっての事ですわよね……」
「そうだとしても、イアさんが気にする事じゃありませんよ。しかも俺はこうして生きていたのですから、もう罪に囚われる必要もないわけです。だから顔を上げてください」
「うぅ……バンが生きていて本当に良かったわ……本当に……」

 ゆっくり顔を上げたイアさんの瞳からはまた涙があふれて、抑えきれなくなってしまったのかすぐエノウさんの胸元へと顔を押し付けていた。

「……イアさん」
「バンが生きていた事が夢みたいで嬉しいのだと思う、だからイアが聞けない分俺が代わりにお前の話を聞いてもいいだろうか?」
「はい、もちろんですけど……? あのその前にこっちから聞いてもいいですか?」
「ああ、構わない」

 俺はあのときトロッコに乗ってたメンバーについて一つ気になる事があったのだ。
 それはアンナ、イアさん……そして最後の一人の事だった。

「ホージュって、まだこのファミリーにいるのですか?」

 俺は『暁の宴』のメンバーを宿屋でチラホラ見ていたけど、ホージュの姿は見つけられなかった。

「ホージュ、ホージュ……ああ、バンやイアとあのとき一緒にここへ行っていたあの子か」
「そうなんですけど、その言い方からしてこのファミリーからはもういないのですね?」
「ああ、彼女はアンナが追放された次の日にこのファミリーから去っているよ」
「え!? アンナが追放された次の日って、凄く昔じゃないですか?」

 そんな昔にやめているのなら、エノウさんが覚えてないのも無理はない。

「確か、他のファミリーに誘われての脱退だったはずだ。それも移った先は『ユグドラシルの丘』と言っていた気がするな。当時はうちよりも弱かったのに今や最強のギルドなんだから、ホージュはいいときにファミリーを抜けたのかもしれないな」
「そ、そうなんですか……」

 ホージュもファミリーを抜けていた事に、それすらも俺の事が関係しているのではないかと、つい勘繰ってしまう。
 たまたまタイミング良かっただけだよな?

「では、次はこちらから質問してもいいだろうか?」
「あ、はい」
「バンはどうしてこのダンジョンで温泉宿なんてしているんだ?」
「えっと、それは……アンナを誘き寄せるためです」

 エノウさんに言うのを躊躇ってしまったけど、多分俺はこの人たちへ嘘をついてもすぐに見破られてしまう自信があった。
 それなら、ここは素直に言うしかないのだ。

「もしかして、バンはアンナに復讐しようと思っているのか?」
「そ、そうですけど……」
「バンは知らないかもしれないが、彼女はあれでもだいぶ報復を受けている方だと思うよ?」
「え? それはどういう……」

 アンナが既に報復を受けてる?
 それじゃあ俺がしようとしている事は……。

「アンナはファミリーを追放されてから、既に二つのファミリーを追放されいる。そしてこのエリアに居場所がなくなったアンナは、他のエリアへと移ったようなのだが、最近そのファミリーをまた追い出されたらしい」
「アンナはエースだったのに何故?」
「どうやら、冒険者としては致命的なトラウマが出来てしまったようでな。あの後すぐにエースからも外されてしまったんだ」

 エース落ちと言う事は、もう強者になる事は出来ないと言われたようなものだ。
 それはとてつもなく屈辱的な筈だ。きっとあのアンナの事だから喚き散らしたに違いない。

「それと、アンナを待っている君には朗報かもしれないが、最近ここの冒険者ギルドでアンナを見かけたという噂がチラホラある」
「それって……」
「ここに来るかはわからないが、アンナに出会う可能性は増えるだろうね。まあ私としては復讐よりも話し合いをして欲しいところなんだがな」

 どうやらエノウさんは、俺の復讐には反対のようだ。
 だけどここまで8年待ちに待ったんだ。今からやっぱり引き返す事なんて出来るわけがない。

「それと話はだいぶ変わるが、この温泉宿はとてもいいところだね。先ほど温泉にもいってきたが、その効果はとても良いと噂になっているよ」
「そう言って貰えたなら本望ですよ」
「それで思ったんだ。もし私とイアが冒険者をやめたときは、ここで雇って貰えないだろうか?」
「はい?」

 唐突な申し出に気になるところが多すぎて、俺は何も言い返せなかった。

「それに私たちもいい歳だからね、そろそろ冒険者をやめて結婚しようかと思っているところなんだ」
「いや、疑問に思ったのはそこじゃないですけど……」
「でも、少し考えておいてくれないか。私たちがいたら何かと役には立つと思うよ?」
「確かに人では足りてないですし……でも少し考えさせてください」
「ああ、この話についてはバンがアンナに復讐した後でも構わないからね……」

 そしてその後イアさんを交えて世間話をした俺は、その部屋を後にした。
 だけど俺はずっとエノウさんから聞いたアンナの話が頭をぐるぐるしてしまい、その後の仕事が全く捗らなかったのだ。
 その夜、ダイニングでぼーっとしていた俺はこのままじゃいけないと、セシノに話を聞いてもらう為に席を立ったのだった。
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