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第一章 First love

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 そのことを太一に伝えるとニコニコっと人好きのする笑顔を蜜に向けた。
「そっか、そう言ってもらえるとなんか嬉しいよな」
 だからつられて笑い返してしまう。
 毎日が楽しくて、この学校に来てよかったと心から思う。

「きゃーん♡ みっつ~がんばって~」
 そんな変な声がかかったのはそのすぐ後だった。

 見るとチアガールの恰好をした小石川だった。
 いいおっさんが自前のポニーテールを揺らしている。
 細身の体にスカート姿は異常でもあり、微妙に似合ってもいた。

「みっつ~ファイトよ~」
 裏声を出して可愛くポンポンを振っている。
 これは無視していいのだろうか。いいよな、うん。

 スルーしようとしたら「ちょっ、無視しないでくれよ」と真顔で言われた。
「こっちだって必死なんだからさ!」
「そうですか……すみません。応援ありがとうございます」
 ペコリと頭を下げる蜜と、腰に手を当てて威嚇する小石川に太一は恐ろしいものを見るような瞳を向けていた。

 通り過ぎてから恐る恐るというように聞く。
「あれ、なに」
「生物教師だって。来年持たれるらしいよ」
「えっ、生物取りたくない……」
「ぼくも」
 
 あの教務室の一件以来、一度だけ謝りに来てその後は今日のように絡まれるようになってしまった。
「みっつ~」と勝手な愛称をつけては呼んでくる。
 無視したいところだけど、教師相手にそれもできない。だからつとめて冷静に対応することにしたのだ。

 事件が起きたのはコースも半分を過ぎたあたりのことだった。

 前の生徒と距離が開いてしまったからだろう。
 遅れた蜜たちが走っていった先に、木陰でいちゃつくカップルがいたのだ。
 クネクネと身を揺すりながら重なる二つの影。
「うわ、見ちゃった」
 熱いキスと抱擁を目撃してしまったのだ。

 足音が近づいて慌てたように離れたのは、挨拶の時のミニスカートの母と叫んでいた父だった。
 まさかこんなところで不倫に及ぶとは。
 見なかったことにしようと無言で通り過ぎると、気まずそうに「がんばって」と声をかけられた。
 頷いたけれどなんともシュールすぎる。

 キスシーンなんてドラマや映画でしか見たことがなかった。あんな長い間くっつけているのか。
 っていうか、なんか、手が動いていたのもいやらしい。

「おっ、蜜くん顔が真っ赤ですなあ」
 太一にからかわれるでもなく顔が熱いのは自覚していた。他人事なのにものすごく恥ずかしい。
 できれば見たくなかった。

「そーゆー太一は平気そうじゃん」
「そりゃおこちゃまじゃないし」
「は?!」

 それって、どーゆーことだ?!

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