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第一章 First love

一緒に帰ろう

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 授業が終わると蜜は周防に呼ばれた。ざわつく教室の中で周防の声はよく響いて耳へと届いた。
「ごめん、蜜、これ運ぶの手伝ってくれないかな」
「いいですけど」

 教壇の上に積まれたノートはずっしりと重そうだ。裕二とか力自慢の方が役に立つのでは、と思ったけれど頼られて嫌な気はしない。
「せっかくの休み時間に悪いね」
「いえ、大丈夫です」

 並んで廊下を歩いて教務室へと向かった。
 どう見ても周防の方が蜜の倍以上は持っていて、ちっとも役に立てているとは思えないけどそれなりにノートは重たい。

「筋肉痛は治ったの?」
 背の高い周防は頭いっこぶんくらい高い場所に顔がある。だから声はいつでも上から降ってくる。
「まあそれなりに。でもあの日はお風呂に入ろうと思ったら足が上がらなくてびっくりしました」
「はははっ、マジで? そんなに筋肉痛になるってやばいね。今度一緒に走ってやろうか?」
「や、結構です」

 あれ以上走るつもりはない。
 きっぱりと断ると周防はおかしそうに笑っている。
「でも来年もあるんだよ」
「棄権したいです」
「そりゃ無理だ。絶対参加だからな~」
「最悪だ」

 なんでこんな変なイベントがあるんだとぶつぶつと文句を言う蜜を周防は楽しそうに眺めている。
 ふと見た廊下の窓に映るその顔がひどく優しげで、蜜はうつむいた。

 まただ。
 マラソンの時から動悸がするようになってしまった。
 やっぱりあんなに走って無理がたたったのかもしれない。変な病気になっていたらどうしよう。

「重たい?」
 黙り込んだ蜜を気遣うように周防は顔を覗きこんだ。近い距離感にビクリと体をすくませる。
「平気、ですっ」
 答えた声が裏返ってしまった。
 周防はひょいっと眉を上げてから、ふ、と笑みをこぼした。

「ほんとにコロコロと変わるよなあ」
 車で送ってもらった時と同じことを言う。
「見てて飽きない」
「見世物じゃありません」
「ははっ」
 
 コの字型の校舎の向こう側の廊下が見えた。クラスメイト達がたむろし笑っている顔が見える。賑やかな笑い声がここにまで聞こえてきそうだった。
 それに比べてこちらは人気がなく静かだ。
 二人きりなんだということが急激に意識されて、やっぱりまた心臓がバクリと音を立てた。

 教務室の鍵を開けると前と同じように雑多な部屋が現れた。どこに荷物を置けばいいのか迷うくらい散らかっている。
「ここまでありがとね。机の上にノートを乗せておいて」
「はい」
 かろうじて開いていたスペースにノートを置いた。少しは片づけたほうがいいんじゃないかと思ったが、周防は慣れたように部屋の中を移動している。
 なんとなく周防らしい部屋だと思ったら、ちょっとだけ微笑ましかった。
「じゃあ、ぼくは戻りますね」
 部屋を出ようとした蜜を周防は呼び止めた。
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