3 / 19
2 不穏な道中
しおりを挟む
訪問先へ向かう途中、公園を抜けて近道をしていた。その途中で、思わず足を止める光景に出くわした。小学生くらいの男の子が中年男性に叱られている。男性は小太りで眼鏡をかけ、手には酒の缶を持っていた。荒い口調で男の子を問い詰める様子から、アルコールの影響もあるのかと感じた。
少し距離があり、詳細は分からなかったが、男の子の怯えた様子が遠目にも分かった。
(何があったのだろう……)
美咲が立ち止まって様子をうかがっていると、突然女の子が走り寄ってきて、男の前に立ちはだかった。彼女は、代わりに一生懸命に謝っているようだった。
男性は満足げにうなずきながら女の子の話を聞いているように見えた。しかし、その視線がどこか不自然で、しまいには、女の子の肩や髪を触っていく。ぎこちなく立ち尽くしている様子に違和感を覚えた。胸には、じわじわと不安が募っていった。
(怖いけど……このまま見過ごすわけにも……)
覚悟を決め、わざと足音を立てて現場に近づいた。毅然と注意するべきだと分かっていながらも、どんな反応をされるか分からず、緊張が走る。男がこちらに気づき、目が合う。その瞬間、彼女は全身に居心地の悪さを感じた。
中年男性の視線が、じっとりと彼女に向けられているのを感じる。顔を見つめた後、その目線が上下に動いているように思えてならなかった。だが、毅然とした態度を保ち、状況を静かに見守る。
やがて男は視線をそらし、缶を持ちながらベンチから立ち上がると、何事もなかったかのように歩き去っていった。その姿が見えなくなるのを確認してから、子どもたちのほうへ歩み寄る。
「大丈夫?」
泣きそうな男の子に、できるだけ優しい声で問いかけた。美咲の声に気づいた男の子は小さくうなずくが、怯えた表情はまだ消えていない。隣の女の子が男の子をそっと抱きしめながら、彼に何かを囁いている。その仕草は幼いながらも力強く、心に一抹の安堵をもたらした。
その光景を見つめながら、胸元をそっとなでおろす。だが、先ほどの男性の行動が頭をよぎり、不安が完全に消えることはなかった。
「怖かったよね……本当に大丈夫?」
女の子に声をかけた。女の子は顔を上げ、しっかりとした目で美咲を見つめながら答えた。
「大丈夫だけど、ちょっと怖かった」
彼女たちの小さな体が怯えにこわばる様子が思い出されるたび、心にじわりと熱が広がった。
(ただのボール遊びをしていただけなのに……それだけであそこまで怒られるなんて。それに、あの男の態度はどう考えても異常だった。)
少し視線を遠くに移しながら、心の中で考えを巡らせた。
(巡回パトロールを手配している部署の人に相談してみるべきかな……)
だが、次の瞬間、腕時計の文字盤が目に入り、予定していた時間が迫っていることに気づく。訪問先への約束を遅らせるわけにはいかない。焦りと後ろ髪を引かれる思いが交錯する中、子どもたちに向き直った。
「気をつけて遊んでね」
優しく声をかけ、子どもたちが少しでも安心できるように微笑んだ。それを見た女の子が静かにうなずくと、男の子の手を握りながら小さな声で「ありがとう」と言った。その声が胸の奥に響き、美咲はふっと息を吐いた。
振り返り、訪問先へと急ぐ足を踏み出す。だが、背中に残る子どもたちの視線を感じながら、心にはまだざわつくものが残っていた。柔らかい風がスカートの裾を揺らし、足元に絡みつくような感触に気づいたとき、自分が無意識のうちに小さな緊張を解こうとしていることに気づいた。
少し距離があり、詳細は分からなかったが、男の子の怯えた様子が遠目にも分かった。
(何があったのだろう……)
美咲が立ち止まって様子をうかがっていると、突然女の子が走り寄ってきて、男の前に立ちはだかった。彼女は、代わりに一生懸命に謝っているようだった。
男性は満足げにうなずきながら女の子の話を聞いているように見えた。しかし、その視線がどこか不自然で、しまいには、女の子の肩や髪を触っていく。ぎこちなく立ち尽くしている様子に違和感を覚えた。胸には、じわじわと不安が募っていった。
(怖いけど……このまま見過ごすわけにも……)
覚悟を決め、わざと足音を立てて現場に近づいた。毅然と注意するべきだと分かっていながらも、どんな反応をされるか分からず、緊張が走る。男がこちらに気づき、目が合う。その瞬間、彼女は全身に居心地の悪さを感じた。
中年男性の視線が、じっとりと彼女に向けられているのを感じる。顔を見つめた後、その目線が上下に動いているように思えてならなかった。だが、毅然とした態度を保ち、状況を静かに見守る。
やがて男は視線をそらし、缶を持ちながらベンチから立ち上がると、何事もなかったかのように歩き去っていった。その姿が見えなくなるのを確認してから、子どもたちのほうへ歩み寄る。
「大丈夫?」
泣きそうな男の子に、できるだけ優しい声で問いかけた。美咲の声に気づいた男の子は小さくうなずくが、怯えた表情はまだ消えていない。隣の女の子が男の子をそっと抱きしめながら、彼に何かを囁いている。その仕草は幼いながらも力強く、心に一抹の安堵をもたらした。
その光景を見つめながら、胸元をそっとなでおろす。だが、先ほどの男性の行動が頭をよぎり、不安が完全に消えることはなかった。
「怖かったよね……本当に大丈夫?」
女の子に声をかけた。女の子は顔を上げ、しっかりとした目で美咲を見つめながら答えた。
「大丈夫だけど、ちょっと怖かった」
彼女たちの小さな体が怯えにこわばる様子が思い出されるたび、心にじわりと熱が広がった。
(ただのボール遊びをしていただけなのに……それだけであそこまで怒られるなんて。それに、あの男の態度はどう考えても異常だった。)
少し視線を遠くに移しながら、心の中で考えを巡らせた。
(巡回パトロールを手配している部署の人に相談してみるべきかな……)
だが、次の瞬間、腕時計の文字盤が目に入り、予定していた時間が迫っていることに気づく。訪問先への約束を遅らせるわけにはいかない。焦りと後ろ髪を引かれる思いが交錯する中、子どもたちに向き直った。
「気をつけて遊んでね」
優しく声をかけ、子どもたちが少しでも安心できるように微笑んだ。それを見た女の子が静かにうなずくと、男の子の手を握りながら小さな声で「ありがとう」と言った。その声が胸の奥に響き、美咲はふっと息を吐いた。
振り返り、訪問先へと急ぐ足を踏み出す。だが、背中に残る子どもたちの視線を感じながら、心にはまだざわつくものが残っていた。柔らかい風がスカートの裾を揺らし、足元に絡みつくような感触に気づいたとき、自分が無意識のうちに小さな緊張を解こうとしていることに気づいた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる