【壱】バケモノの供物

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一ノ巻

頁3

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「……貴方は」


心地良い低音が耳に響く。
視線だけ動かし、恐る恐る声のする方を見る。其処に立っていたのは、濃い青の着物を見に纏い、真っ直ぐな白の長髪を靡かせた大きな男だった。自分より背の高い男は目だけで僕を見下ろすと、冷たい眼差しで見つめたまま続ける。


「ーー…!お前、今回の『供物』か」


金色の瞳を見て全てを察したのだろう。
ピクッと眉を動かしたかと思いきや「そういえば今日がその日だったな」と僕の頬にそっと触れ、目を大きく見開かせる。自分の視界いっぱいに目の前の男の整った顔が映る。生きてきて今迄こんなに綺麗な人は見た事が無い。


(あ…人間じゃないんだった)


彼が神である事を今更ながら思い出す。
スッと離れた彼に「貴方が龍神様ですか」と聞いてみる。見下ろしたままの彼は、次の瞬間訝しげな表情で「見れば分かるだろう」と告げる。綺麗な顔をした得体の知れない者の存在に内心怖気付きながら「あの」と胸元で繋いだ手に力を込める。次の瞬間バッと顔を上げ、彼の瞳を真っ直ぐ見た。ほんの僅かだったが、龍神様がたじろいだ気がした。


「改めまして、青葉叶と申します。龍神様の供物として、貴方様を満足出来る様頑張ります。どうぞお召し上がりをーー…っ?!」


話している最中なのにも関わらず、次の瞬間宙に浮いた僕はそのまま彼の腕の中にすっぽりと抱かれた。世間ではお姫様抱っこと言われているものをされていると自覚した瞬間、「龍神様」と声を上げる。しかし、彼は僕を抱えたまま真っ直ぐ前を向き、屋敷の扉を開ける。勝手に開けられた扉から玄関に足を踏み入れる。ガチャンッと施錠される音を背後に、僕はそのまま何処かに連れて行かれる。

  



「此処は…」


連れて来られた場所は寝室だった。大きなベッドと中央に池が掘られている。ジッと見ていると「それは普通の水ではない」と心を読んだかの様に告げる。振り返ると、彼は着物の上に着ていた羽織を脱ぎながら扉を閉めていた。


「この池の水は聖水だ。穢れを祓う為に此処で水浴びをしている。心配しなくてもお前用の風呂はある。もう何年も掃除していないがな」

「……?はい」
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