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本編~4ヶ月目~
第77話~面談~
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~飯田橋・新小川町~
~株式会社リンクス・社長室~
所変わって飯田橋、株式会社リンクスの本社にて。僕は最上階の社長室で、原田社長と向かい合って話していた。
「お疲れ様、マウロ君。話とは」
「はい、その……」
社長の言葉に、僕は一瞬言葉に詰まる。
変なことを、と言われないだろうか。突拍子もない事を話して、と一蹴されないだろうか。それでも、僕は社長に真実を話す。
「故郷の世界に行く算段が、付きまして」
「ほう」
僕の言葉に社長が小さく目を見開く。その表情に僕はなおさら身を縮こまらせた。
この局面で、元の世界に帰るという話し。それを聞いて社長がいい顔をするはずがない。
しかし社長は薄っすらと笑みを浮かべながら、僕に声をかけてきた。
「つまり、帰れる見込みが?」
その嬉しそうな、しかし寂しそうな言葉に僕はきゅっと身をこわばらせる。
「陽羽南」はリンクスにとって、もはや小さな業態ではない。もう十分に稼げる業態になっているのだ。それを、ここで手放すような話をするのも申し訳がないが。
しかし、僕は自分の心に素直になった。そのままこくりと頷く。
「ええと……はい」
僕が頷くのを見て、社長は革張りの椅子の背もたれにもたれかかった。そのままぼんやりと、社長室の天井を見上げている。
「そうか、そうか」
そううっすらと呟いたまま、社長は静かに天井を見上げていた。何も言わない。何も咎めない。
それが何とも居心地が悪くて、僕はおずおずと社長に問いかけた。
「あの……社長」
なにか言ってほしい。なにか答えてほしい。そう思いながら声をかけると、椅子の背もたれから身を起こしながら社長は言った。
「いいよ、言わなくても」
その一言に僕は改めて背を伸ばす。
何を言うまでもない。そういうことなのだ。
僕の言わんとする事は社長には伝わっているし、社長は僕の言わんとする事を理解している。そういうことなのだ。
僕の顔を真正面から見ながら、社長は手を組み肘を机につきながら言う。
「君はリンクスに籍を置いてくれることを決めてくれた。その上で僕に話しをしに来てくれた。ということはつまり、そういうことなんだろう?」
「え、ええと……」
社長の見透かしたような目と、僕の言葉を引き出すかのような言葉に、僕は正直言葉に詰まった。
実際のところ、僕も悩んでいたのだ。「異世界にお店を出す手助けをしてほしい」なんて申し出、どうしたって出来るものではない。僕の世界転移術がなければ、どうあがいても出来ないものだ。
しかし、今はその術が手にある。ならばやらないわけにはいかないのだ。
そう言いたい僕の目を真っ直ぐ見返しながら、原田社長は口元に笑みを浮かべる。
「いいよ、気にすることはない……ただ、ね」
そこで一つ言葉を区切り、社長の執務机から身を乗り出すようにしながら社長は言った。
「現地の視察は、僕にもさせてくれるんだろう?」
「えっ」
その言葉に僕は目を見開いた。
現地の視察。なるほど確かに、支店を開くにあたっては必要なことだろう。
しかし、異世界である。地球とは全く状況の異なる世界である。
そう言いたい僕の言葉を遮るようにして社長は話を続ける。
「支店を出すんだ。社長として現地の視察と見聞を怠るわけにはいかない。手段があるなら、講じないわけにはいかないだろう?」
「……社長」
自分の思う通りの話をしながら両手を広げる社長。
なるほど、確かに道理は通っている。新天地に店を開くなら現地の視察は必要だ。
だが、それでも。開く先は異世界なのだ。地球の常識が通用しない場所なのだ。
そのことを懇切丁寧に話したい気持ちにかられながら、僕は口を開く。
「あの……それにあたって、一つ制約がありまして」
「うん、なんだい?」
僕が口を開くのを見て、社長はニコリと笑った。
ああ、この表情だ。これを見てどうやって自分の言葉をまとめようか。
視線をそっと逸らしながら、僕は社長に真実を告げる。
「その……僕の故郷の世界のお料理を、一つ何かしら召し上がっていただく形になりますが……いいですか?」
僕の言葉を聞いた社長は大きく目を見開いた。
その瞳は期待に満ちているようで、楽しそうな色をしていて。
なるほど、興味関心が恐怖より先にあると言わんばかりの表情をして、社長は言った。
「勿論だとも。マウロ君の故郷の料理を、その故郷の味付けと調理法で食べられる? またとない機会じゃないか! 瀧君と福永君も連れて行っていいかい? 社員にもいい刺激になる!」
「え……あ、あの」
あまりにも抵抗なく話す様子に、逆におののく僕だった。
ここまで抵抗感をなく言われると、僕としても若干困る。もっと困ってくれたほうが僕としても緊張感が高まるのに。
とはいえ、本人が乗り気なのだ。異世界に向けて出向くとあっても乗り気なのだ。
「い……いいんですか? 異世界ですよ?」
「勿論」
念を押すように僕が言っても、社長は表情を緩めたまま。笑顔を見せながら僕に言った。
これはもう、本気だ。間違いなく僕の世界にも進出するつもりだ。
それを裏付けるかのように、社長は僕に話して聞かせる。
「僕のリンクスは地球と異世界をつなぐ、その架け橋になればいいと思って作った会社だ。地球と異世界を繋ぐにあたって、絶対に必要になるのは食だ。食文化で共通認識を持てれば、間違いなく共感を得られる」
その言葉に目を見開いて何も言えなくなる僕だ。
異世界であろうとも、現実世界であろうとも、食は重要な要素だ。それをないがしろにして共通認識などどうして持てようか。
社長の認識は間違ってはいない。そしてその認識はきっと、アースとチェルパを繋ぐ架け橋にもなるだろうと思うことで。
僕が何も言えないでいる所に、社長はますます畳み掛けてくる。
「ならば、現地の食文化を味わうことに何の躊躇があるだろう! 行くとも、是非とも連れて行ってくれたまえ、君の故郷に! なんなら店の場所も探そう!」
「社長……」
その言葉に感極まる僕だ。
ああ、この人が組織の長で良かった。僕の上司で良かった。そう思わざるにはいられない。
僕は深く、深く頭を下げた。この感謝は今述べるより他にない。
「ありがとう、ございます」
「うんうん。さて、それはそれとしてその穴はすぐに開けるのかい? 瀧君と福永君にも話をつけないとならないからね!」
頭を下げる僕に、社長はにこやかに話してくる。
社長だけではない、瀧さんや福永さんも連れてとなれば、かなり本腰を入れて店を開く場所を探さなければならないだろう。
僕はこの先の苦労を思いながらも、この先のことが楽しみで今からしょうがなかった。
~第78話へ~
~株式会社リンクス・社長室~
所変わって飯田橋、株式会社リンクスの本社にて。僕は最上階の社長室で、原田社長と向かい合って話していた。
「お疲れ様、マウロ君。話とは」
「はい、その……」
社長の言葉に、僕は一瞬言葉に詰まる。
変なことを、と言われないだろうか。突拍子もない事を話して、と一蹴されないだろうか。それでも、僕は社長に真実を話す。
「故郷の世界に行く算段が、付きまして」
「ほう」
僕の言葉に社長が小さく目を見開く。その表情に僕はなおさら身を縮こまらせた。
この局面で、元の世界に帰るという話し。それを聞いて社長がいい顔をするはずがない。
しかし社長は薄っすらと笑みを浮かべながら、僕に声をかけてきた。
「つまり、帰れる見込みが?」
その嬉しそうな、しかし寂しそうな言葉に僕はきゅっと身をこわばらせる。
「陽羽南」はリンクスにとって、もはや小さな業態ではない。もう十分に稼げる業態になっているのだ。それを、ここで手放すような話をするのも申し訳がないが。
しかし、僕は自分の心に素直になった。そのままこくりと頷く。
「ええと……はい」
僕が頷くのを見て、社長は革張りの椅子の背もたれにもたれかかった。そのままぼんやりと、社長室の天井を見上げている。
「そうか、そうか」
そううっすらと呟いたまま、社長は静かに天井を見上げていた。何も言わない。何も咎めない。
それが何とも居心地が悪くて、僕はおずおずと社長に問いかけた。
「あの……社長」
なにか言ってほしい。なにか答えてほしい。そう思いながら声をかけると、椅子の背もたれから身を起こしながら社長は言った。
「いいよ、言わなくても」
その一言に僕は改めて背を伸ばす。
何を言うまでもない。そういうことなのだ。
僕の言わんとする事は社長には伝わっているし、社長は僕の言わんとする事を理解している。そういうことなのだ。
僕の顔を真正面から見ながら、社長は手を組み肘を机につきながら言う。
「君はリンクスに籍を置いてくれることを決めてくれた。その上で僕に話しをしに来てくれた。ということはつまり、そういうことなんだろう?」
「え、ええと……」
社長の見透かしたような目と、僕の言葉を引き出すかのような言葉に、僕は正直言葉に詰まった。
実際のところ、僕も悩んでいたのだ。「異世界にお店を出す手助けをしてほしい」なんて申し出、どうしたって出来るものではない。僕の世界転移術がなければ、どうあがいても出来ないものだ。
しかし、今はその術が手にある。ならばやらないわけにはいかないのだ。
そう言いたい僕の目を真っ直ぐ見返しながら、原田社長は口元に笑みを浮かべる。
「いいよ、気にすることはない……ただ、ね」
そこで一つ言葉を区切り、社長の執務机から身を乗り出すようにしながら社長は言った。
「現地の視察は、僕にもさせてくれるんだろう?」
「えっ」
その言葉に僕は目を見開いた。
現地の視察。なるほど確かに、支店を開くにあたっては必要なことだろう。
しかし、異世界である。地球とは全く状況の異なる世界である。
そう言いたい僕の言葉を遮るようにして社長は話を続ける。
「支店を出すんだ。社長として現地の視察と見聞を怠るわけにはいかない。手段があるなら、講じないわけにはいかないだろう?」
「……社長」
自分の思う通りの話をしながら両手を広げる社長。
なるほど、確かに道理は通っている。新天地に店を開くなら現地の視察は必要だ。
だが、それでも。開く先は異世界なのだ。地球の常識が通用しない場所なのだ。
そのことを懇切丁寧に話したい気持ちにかられながら、僕は口を開く。
「あの……それにあたって、一つ制約がありまして」
「うん、なんだい?」
僕が口を開くのを見て、社長はニコリと笑った。
ああ、この表情だ。これを見てどうやって自分の言葉をまとめようか。
視線をそっと逸らしながら、僕は社長に真実を告げる。
「その……僕の故郷の世界のお料理を、一つ何かしら召し上がっていただく形になりますが……いいですか?」
僕の言葉を聞いた社長は大きく目を見開いた。
その瞳は期待に満ちているようで、楽しそうな色をしていて。
なるほど、興味関心が恐怖より先にあると言わんばかりの表情をして、社長は言った。
「勿論だとも。マウロ君の故郷の料理を、その故郷の味付けと調理法で食べられる? またとない機会じゃないか! 瀧君と福永君も連れて行っていいかい? 社員にもいい刺激になる!」
「え……あ、あの」
あまりにも抵抗なく話す様子に、逆におののく僕だった。
ここまで抵抗感をなく言われると、僕としても若干困る。もっと困ってくれたほうが僕としても緊張感が高まるのに。
とはいえ、本人が乗り気なのだ。異世界に向けて出向くとあっても乗り気なのだ。
「い……いいんですか? 異世界ですよ?」
「勿論」
念を押すように僕が言っても、社長は表情を緩めたまま。笑顔を見せながら僕に言った。
これはもう、本気だ。間違いなく僕の世界にも進出するつもりだ。
それを裏付けるかのように、社長は僕に話して聞かせる。
「僕のリンクスは地球と異世界をつなぐ、その架け橋になればいいと思って作った会社だ。地球と異世界を繋ぐにあたって、絶対に必要になるのは食だ。食文化で共通認識を持てれば、間違いなく共感を得られる」
その言葉に目を見開いて何も言えなくなる僕だ。
異世界であろうとも、現実世界であろうとも、食は重要な要素だ。それをないがしろにして共通認識などどうして持てようか。
社長の認識は間違ってはいない。そしてその認識はきっと、アースとチェルパを繋ぐ架け橋にもなるだろうと思うことで。
僕が何も言えないでいる所に、社長はますます畳み掛けてくる。
「ならば、現地の食文化を味わうことに何の躊躇があるだろう! 行くとも、是非とも連れて行ってくれたまえ、君の故郷に! なんなら店の場所も探そう!」
「社長……」
その言葉に感極まる僕だ。
ああ、この人が組織の長で良かった。僕の上司で良かった。そう思わざるにはいられない。
僕は深く、深く頭を下げた。この感謝は今述べるより他にない。
「ありがとう、ございます」
「うんうん。さて、それはそれとしてその穴はすぐに開けるのかい? 瀧君と福永君にも話をつけないとならないからね!」
頭を下げる僕に、社長はにこやかに話してくる。
社長だけではない、瀧さんや福永さんも連れてとなれば、かなり本腰を入れて店を開く場所を探さなければならないだろう。
僕はこの先の苦労を思いながらも、この先のことが楽しみで今からしょうがなかった。
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