魔狼王(着ぐるみ)が往く!~勇者パーティーから暑苦しいと追放された着ぐるみ士の俺、世界最強のステータスに目覚めたので神獣と一緒に見返します~

八百十三

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第3章 邂逅と恐怖

第42話 着ぐるみ士、引き受ける

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「本当に……ありがとうございました」

 俺たちが地上に戻り、峡谷の上まで戻った後。ホーデリフェは既に体を自分で起こせるくらいまで回復しており、戻ってきた俺たちに大きく頭を下げた。
 丁寧な態度に少し気恥ずかしさを感じて、頬をかきながら俺は彼女に声をかける。

「体調の方は、もう大丈夫そうですか、ホーデリフェさん」
「ええ、だいぶ楽になりました。そろそろ自力で飛べそうです」

 俺の言葉にそう返しながら、彼女は翼をばさりと広げた。こうしてみると、本当に大きな姿をしている。
 リーアがホーデリフェを下から見上げながら、小さく首をかしげた。

「ホーデリフェさんの巣、また下に降ろしたほうがいい?」
「いや、大丈夫だろう。私が雷化転身すれば一人で運べる。背から下ろすのはホーデリフェにやってもらえばいい」

 彼女の言葉にアンブロースが頭を振る。どうやら自力で、ヒナたちの入った巣を降ろすつもりでいるらしい。これも友人であるゆえにか。
 アンブロースとホーデリフェが手順を話し合う中、ノーラがぐっと両手を組んで身体を伸ばした。

「とりあえず、これで仕事はおしまいってところかしらね?」
「そうですね、不死鳥とお子さんたちの命も、無事に守ることが出来ましたし」

 彼女の言葉に、アニータも嬉しそうに微笑んだ。
 そう、この依頼の目的はすべて達成できた。フェニックスの命を救い、ザンドナーイ峡谷の魔力枯渇の原因も取り除いた。それに付随してエフメンドの討伐も完遂だ。
 トーマスが手の指をもみながら、にこやかに笑う。

「これで俺たちも、後虎院直属の配下を殺したって実績を持てたわけか」
「実際は『双子の狼ルーポジェメリ』の実績のようなものですけどね……僕たちはおこぼれにあずかったようなものです」

 それに対してアルフィオが、俺たちに視線を向けながら言葉を返す。
 その言葉に目を見張る俺だ。確かに俺とリーア、アンブロースが中心となって動いたが、彼ら六人の力がなかったら、もっと手間取っていたに違いない。

「いや、そんなことはないですよ。皆の働きがなかったら、あんなにすんなり倒せなかったです。洞窟の中を進むのだって、あんなにすいすい行かなかっただろうし」

 素直に所感を述べる俺に、ノーラが深くため息をついた。

「よく言うわ」
「でも、そう言ってもらえると嬉しいですねー」

 皮肉っぽく言うが、しかしそう言われることはまんざらでも無いようで。ミルカがにこにこ笑いながら、俺の肩を叩く。
 さて、アンブロースがフェニックスの巣を峡谷の下に降ろし終え、人心地付いたところでアニータが動き出した。

「さあ、ポデスタ村に戻りましょう。結果を報告しなくちゃ」
「そうね、あんたたちも来るんでしょ?」

 アニータの言葉にうなずいて、ノーラがこちらを見てくる。ポデスタ村はこの峡谷から一番近い、北フローリオ郡に属する村だ。当然冒険者ギルドの出張所もあるため、依頼の達成報告ならそちらが早い。

「あ、ああ……そのつもりでいるけれど」
「あれ、王都に戻るんじゃないんだ?」
「王都?」

 同意する俺の言葉に、きょとんとしながらリーアが言う。それを聞きつけたロセーラが首を傾げると、目を大きく見開きながらノーラが口を開いた。

「え、なにあんたたち、まさかジャンピエロから直接峡谷まで来たわけ?」
「そうだが? 概ね四時間ほど走ったか」

 彼女の言葉にアンブロースがそっけなく返すと、彼女はひゅっと息を呑みこんだ。
 まあ、信じられないだろう。ギルドの北フローリオ支部のあるフッチの町に行くにも、ポデスタ村から馬車で一日かかるのだ。王都ジャンピエロには馬車でなら、二日が標準。その道程を俺たちはたった四時間で駆け抜けてしまったわけで。
 ノーラが深くため息を付きながら俺の胸を叩く。

「はー……ほんとにバケモノだわ」
「いっそのこと、峡谷の下に降りる時そうしたように、ジュリオさん達に乗せてもらってフッチまで行っちゃいます?」
「おいよせよ、俺たちは乗合馬車じゃないんだから」

 ミルカがいたずらっぽく話して、俺がツッコミを入れる中。俺達の後方から、おずおずとホーデリフェが声をかけてきた。

「あ、あのー……フェンリルの冒険者の方」
「ん?」

 振り返ると、そこには自分のヒナを連れて上まで上がってきたホーデリフェがいた。巣を下に降ろしたのに、わざわざまた戻ってきたのか。
 何故、と思いながら俺は彼女に問いかける。

「どうしましたか、ホーデリフェさん」
「その、貴方様に、一つお願いがありまして」

 恐る恐るといった様子で、再び頭を下げてくるホーデリフェ。そして彼女は、にわかには信じられないようなことを言い出した。

「私のこどもの一羽を……連れて行っていただきたいのです」
「えっ?」

 その言葉に目を見開く俺だ。俺の後ろでノーラとアニータも、信じられないと言わんばかりの声を上げている。

「うわすっごい、魔物の側から従魔契約結んで、なんて言ってくるなんて」
「さすが、X級の調教士テイマーですね……」

 彼女たちの発言に俺は内心で苦笑する。二重職業ダブルクラスといっても本職は着ぐるみ士キグルミストの方で、調教士テイマーはおまけのようなもののはずなんだけれど。
 ともあれ、申し出てもらったのは有り難い。問題はそれが、ホーデリフェ自身でなくヒナの方である点だ。

「いいんですか?」
「はい、今回みたいなことが、また起こらないとも限らないですし……フェニックスの血を絶やさないためにも、この子たちにはいろんな世界を見てもらいたくて」

 俺の確認の言葉に、ホーデリフェがうなずく。なるほど、そういうつもりなら俺みたいな実力も確かな冒険者についていってもらった方がいい。
 彼女の申し出に、俺はこくりとうなずいた。

「分かりました、お引き受けします」
「ありがとうございます……さああなたたち、あのお兄さんのそばまで飛んで」

 明るい表情になった彼女が足元に視線を向けると、彼女の子ども達が合計五羽、俺の足元までぱたぱたと飛んできた。かわいい。
 かがみ込んで一羽一羽を見つめながら、俺は考える。

「んー……」

 俺を間近に見て、ヒナ達は少し怯えているようだった。それはそうだ、俺は着ぐるみを身にまとって、無機質な表情をしているのだから。
 と、じっくり一羽一羽見ていると、ふと足元に違和感を感じて。視線を落とすとそこには一羽、歩み寄ってきているヒナがいた。

「チィ!」
「おっと」

 元気にさえずるヒナを、俺は優しく両手ですくい上げる。俺の柔らかな手の上で、ヒナがご機嫌そうに身体をこすりつけて鳴いた。

「チィチィ!」
「はは、気に入られたようではないか」

 その姿にアンブロースがにやりと笑いつつ声をかけてくる。これは間違いなく、俺は気に入られているやつだ。ホーデリフェが俺の手の中のヒナへと、優しく声をかける。

「ティルザ、ついて行きたいのね?」
「チィ!」
「それが、この子の名前ですか?」

 ティルザ。響きから察するにメスだろうか。確認すると、ホーデリフェはこくりとうなずいた。

「はい、そうです。どうかよろしくお願いいたします」

 選ばれなかった四羽のヒナを自分の傍に戻しながら、もう一度彼女が頭を下げる。
 これは、責任重大だ。しかし同時に楽しみでもある。こういう小さなマスコット的な生き物を連れ歩くのも、悪くない。
 俺は片手の上にティルザを乗せて、その喉元にそっと触れた。

しゅたるわれなんじ永久とこしえの契約をここに結ぶ――」

 結ばれる従魔契約。ザンドナーイ峡谷に小さな光が広がった。
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