魔狼王(着ぐるみ)が往く!~勇者パーティーから暑苦しいと追放された着ぐるみ士の俺、世界最強のステータスに目覚めたので神獣と一緒に見返します~

八百十三

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第3章 邂逅と恐怖

第43話 着ぐるみ士、質問攻めに遭う

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 その夜、ポデスタ村の酒場にて。

「「かんぱーい!!」」

 依頼の達成報告と素材の売却を行った俺たちは、その報酬と売却額を元手に酒場で祝杯を上げていた。アンブロースは外の獣舎で待機中だ。
 魔王軍の幹部集団である後虎院の直属の部下。その討伐を全員生存の上で終え、さらにザンドナーイ峡谷に住む不死鳥フェニックスの命も救った。合計した報酬額はかなりのものだ。酒場で一番のエールを頼んでも懐は痛まない。
 木製のジョッキを一息で干したノーラが破顔した。

「っはー、やっぱり仕事を終えた後の酒は最高だわー!」
「ふふ、ノーラさん、飲み過ぎたら駄目ですよー。こないだみたいに叩き出されちゃいます」

 喜びをあらわにする彼女に、ミルカがくすくす笑いながら釘を差した。ロセーラもジョッキを手にしながら、片眉を持ち上げつつ口元を緩めている。

「そうだな、あの時は随分と酷かった。ノーラの拳が店のテーブルを粉々にぶち壊して……」
「ちょっ」

 仲間二人から過去の失態を暴露されたノーラが、途端に頬を紅潮させてわたわたと慌てだした。拳の一発でテーブルを粉々にするとは、さすが『虎牙』ノーラ、他に類を見ない腕力だ。
 俺も着ぐるみを収納して、人化した姿を晒しつつエールを飲んでくすくすと笑う。

「なんだよノーラ、お前そんなことしてたら、ナタリアをどの口で悪く言うかってなるだろう?」
「あ、あんたがそれを言うんじゃないわよ!!」

 俺の軽口に、ノーラがバシンと大テーブルを叩いた。酒場の中央に設置された丸木づくりの大テーブルは頑丈な作りだ。ノーラが何かしようにも、壊れることはないだろう。
 俺はその言葉にのどを鳴らしながら、手元に降りて小皿に盛られた麦の粒をついばむティルザの頭をなでた。

「俺はナタリアやノーラと違って、品行方正ひんこうほうせいに冒険者やってるからな。なー、ティルザ?」
「チィ!」

 俺が呼びかければ、ティルザが元気に返事を返した。すっかり慣れたものである。人間のたくさんいる環境なんて、生まれて初めてだろうに。
 と、俺とティルザのやり取りを真正面から見ていたリーアが、北フローリオ郡特産のサクランボのジュースを飲みながら首を傾げた。

「それこそジュリオ、どの口が言うんだ、ってやつじゃないの?」
「ですよね。冒険者ではありますけれど、カテゴリとしてはリーアさん同様、魔物ですから」

 耳をぴこんと揺らすリーアの隣に座っていたアルフィオも、苦笑しながら指をこちらに振ってきた。
 まぁ、それを言われたら返す言葉がない。いくら冒険者として真面目に仕事をしていて、類稀なる実績を上げていたとしても、俺もリーアも区分としては魔物になってしまうわけで。別に魔物だから冒険者としてどうだってわけでもないけれど、やはり複雑に思う人とか、やっかんでくる人とか、いるのだ。
 この集団の中にいる人は、そういう感情を持ってくる人は……いない、はずだ。ノーラもそうではないと信じたい。
 と、アニータがワインを飲みながら俺に笑顔を向けてきた。

「それにしても……勇者パーティーの『白き天剣ビアンカスパーダ』を解雇され、そこから流れるように『西の魔狼王』様に見初められて血族に迎え入れられて。凄いですね、ジュリオさんの経歴」
「しかも、ヤコビニを離れたらギュードリン自治区に向かう予定なんだって? 恐ろしい話だよな」

 その隣ではトーマスが、同じくワインを飲みつつ苦笑とともに言葉を投げてきた。
 俺の想定している旅路は、ここにいる面々にも既に話してある。ヤコビニ王国からマジョラーニ公国を経由してブラマーニ王国、ホッジ公国とカルミナティ王国を通って、そしてギュードリン自治区。普通に考えたら三ヶ月はかかる旅路じゃないだろうかと思うが、それを一月程度で行こうとしていると話したら全員が酒を吹き出してむせた。そうもなるか。

「そうよ、ほんとあんた、なんでそんなことになったわけ? ちぎりの話とか……そりゃあ、ルングマールは人間と仲良くしている魔物だけれど」

 ノーラが新しく運ばれてきたジョッキに口をつけながら問うてくる。やはり、そこは全員が気になっている部分らしい。視線が俺へと集まってくる。
 そこまで聞かれたら答えるしか無いだろう。深くため息を付きながら、俺はテーブルに肘をついて話し始める。

「いや、それがな? 『白き天剣ビアンカスパーダ』はオルニの町を経由して、オルネラ山を越えてグラツィアーノ帝国に入る所だったんだが、その山中で解雇を言い渡されてさ」
「あー……」

 俺が話し始めると、全員がため息交じりの声を吐き出した。そうなるだろう、そうなるだろう。俺だって何度、この話をしてこの声を聞いてきたか。
 アニータが呆れた様子で頭を振る。

「支部のある町を発ってその翌日、国境付近でですか。ナタリアさんも町にいる間に、解雇を言い渡せばいいものを」
「それ、南クザーロ郡支部のギルドの人にも言われたよ」

 彼女の言葉に、首を傾けながら俺は答える。確かに同じことを、オルニの町のギルドに勤めるスタッフさんに言われている。色んな人に「なんでそんなタイミングで」って言われてきた。

「で、山を降りてオルニの町に戻る途中でリーアに声をかけられて。リーアの力を貰って着ぐるみ作ったらこのザマだ。さらにギルドの酒場でルングマールさんと契を結んで、いよいよ魔物になった」

 俺がルングマールさんとの契を結んだ所で話を区切れば、全員がまたもため息を吐き出す。というか、周囲のテーブルに座っている冒険者からもため息が聞こえたぞ。そんなにか、この話。

「はー……」
「なんて言うか……ほんとアレね、あんた」

 アルフィオが額を掻いて言葉を吐き出し、ノーラがテーブルに突っ伏しそうになってこちらを向き。そして下から見上げるようにしながら、ノーラが呆れ顔で声をかけてくる。

「何? その、魔物に好かれる素質っていうかさ。だってあんた、『白き天剣ビアンカスパーダ』時代から保有する着ぐるみの数は世界有数だったじゃない」
「そうですよねー、アイシクルキティ、ブルーシャーク、フレイムドッグにレッドドラゴン。それだけでも十分、着ぐるみ士キグルミストとしては一流なのに」

 彼女に同意をしながら、ミルカも言葉をかけてきた。
 確かに、俺は結構な数の着ぐるみを保有している。現在お世話になっているフェンリル以外に、猫の魔物のアイシクルキティ、水中活動用のブルーシャーク、一番最初に入手した犬のフレイムドッグに、竜のレッドドラゴン。一般的な着ぐるみ士キグルミストが二種か三種であることを考えても、俺は前々から優れた着ぐるみ士キグルミストであった、はずだ。
 ミルカの言葉を聞いて、さっと手を上げたのはリーアだった。

「だってー。なんかすごく可哀想だったんだもん。あたし朝からずっと見てたけど、あんなに率先して色々と動いているのに、勇者さまはちっともいい顔しないで。あたしだってパパから、『他人に助けてもらったらありがとうを言いましょう』って、言われているのに」

 リーアの率直で素直な発言に、その場にいる全員が小さく吹き出した。ここまでメタメタに言われるなんて、勇者としては型無しだろう。

「ぷっ……はははっ」
「『西の魔狼王』殿の娘の方が、国家認定勇者よりも人間ができているとは、皮肉なものだ」

 ロセーラもくすくすと笑いながら、リーアの言葉に反応を返してくる。本当に、魔物である彼女にここまで言われるというのも、勇者としていろいろよろしくなかろう。ノーラが力強く、拳をテーブルに叩きつける。

「ほんとそういうところなのよあのクソ勇者は! 仲間に対して『ありがとう』の一つも言えないで! バカじゃないのほんとに、ブラマーニ王国の大臣共!」
「ま、まあまあ、ノーラさん」
「その、安易に他人に頭を下げない図太さを買われて、勇者に選ばれたようなものだからな、彼女は……それを勘違いして増長しているきらいはあるが」

 怒りを叩きつける彼女へ、ミルカとトーマスがなだめるように言葉をかけた。彼の言葉にうなずきながら、俺はエールのジョッキに口をつける。

「俺やイバンが、なんとか矯正しようとはしたんだよ、実際。それでもあいつは全然聞き入れなくて……だから子供たちもあいつを嫌うんだ」

 俺の言葉を聞いて、うんうんとうなずく冒険者たち。ナタリアがそれだけ子供たちに嫌われているのが周知の事実になっているというのもあれだが、ナタリア自身が子どもを嫌いだからしょうがない。
 小さく頭を振る俺に、ノーラがおもむろにジョッキを掲げて近づけてきた。

「そうよねー……ま、いいんじゃない、辛い役目負わなくて済むようになったんだから」
「『着ぐるみの魔狼王』として名前も知られるようになりましたものね」

 アニータも呼応するようにワイングラスを持ち上げて笑う。
 二人の言葉に笑みを返しながら、俺は手にしたジョッキを持ち上げ、軽く彼女たちのそれらと合わせた。
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