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本編
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しおりを挟む「ステューに会ったわ」
ベッドの上でどこか楽しそうに絵葉書を眺めていたアレクにそう言えば、彼は少しだけ視線を上げて、それからまた絵葉書を見つめ直した。
「そうか」
「…何も聞かないのね」
ステューはアレクのことを心底嫌っていた。私はステューを心底嫌っていた。では、アレクは?
彼がステューを悪く言うことがあっただろうか。ステューからのどんな嫌味も受け止めて、それは兄としての矜持なのだと勝手に思い込んでいたけれど。
「聞いて欲しいことが、話したいことがあるならお前は何も言わずとも話すだろう。言わないというのはそういうことじゃないのか」
「…貴方は私に聞きたいことはないの?」
それは逃げだった。自分から話すにはとても酷いことを、出来るならばアレクから聞いて欲しい。けれど彼はそこまで優しい人間ではなくて、きっとそれに気付いたとしても踏み込んではこない。それがお互いのためになるからだ。
「ステューのことがまだ嫌いか?」
その問いかけに目を伏せる。大嫌い、だった。それでも今日、彼と久しぶりに会って、私が感情のままに言った言葉を何年も律儀に守っていることを知って。
「…分からないわ。けれど、…酷いことをしたと、反省しているの」
嫌いな人になら何を言ったって良いと思っていた。それがステュー相手なら尚更。まさかこんなに時が経ってから罪悪感を持つなんて。
「アイツはお前のことが好きだからな、ずっと前から。俺のことが憎くて堪らないだろうよ」
「──ずっと前から?」
「お前、鈍くて気付いてなかっただろうけどな。普通は嫌いな奴に近付こうとしないだろ、お前がステューを避けてたみたいに。ステューもお前がいる時以外、俺に突っかかってくることはなかったからな」
本当にわかりやすい子供だったとしみじみと語るアレクに瞬きをする。そんなこと全く気付かなかった。
「教えてくれたら」
「教えてどうなる?あの頃のカレンならきっとその足でステューのところに行って、今後悔しているよりももっと酷い言葉で振ったんじゃないのか?」
ぐうの音も出なかった。確かにあの頃、ステューを心から嫌っていたときにそんな好意を知ったら、きっと酷いなんて言葉じゃ足りないほどのことを言った可能性もある。
「まぁなるようになるだろう。…もうお互い良い大人なんだから、良い加減前に進めば良い。アイツも、お前もな」
前には進んでいると思う。シークとたくさんの話をして、彼の気持ちを受け入れて、ここで生きていくのだと自分の居場所を明確にして。
「カレン。もしも少しでもちゃんと話す気があるのなら、和解する気があるのなら、早いうちにしろよ。アイツもお前も従姉弟だからかよく似てる、二人ともぐるぐる考え出したら面倒なことにしか繋がらないことは俺がよく知っているからな」
和解出来るのだろうか。お前なんか大っ嫌いだと言ったステューの顔がいまだに頭に残っている。
けれど彼も馬鹿ではない。私が和解を持ちかけるとしたらそれはアレクの為なのだときっと分かっているはずだ。アレクの居場所を、味方を作るために。
「伯爵家へ行くわ」
ちょうどタイミング良くパーティーの招待状が来ているのだ。自らステューにアポイントを取るよりも確実だし招かれて行く分、幾らか気持ちも楽だ。
それでもやはりカレンの心は今にも潰れてしまいそうなくらい重かった。
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