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第52話:教室にて①

「……では、本日の講義はこれにて終了です。帰ったらすぐ復習するように」

 教室にマルグリット先生の声が響くと、生徒たちはわいわいと席を立ち上がる。
 一日の授業が終わったのだ。
 いくら国内最高峰の魔法学園といっても、この辺りは日本の中高生と変わらないな。
 なんだか親近感が湧いた。
 隣のカレンとネリーは、授業が終わってもノートに書き込みをしていた。

「今日の魔法史は覚えることがたくさんあったわね。急いで復習しないと間に合わないわ」
「明日もテストだなんて気が滅入っちゃいますよ~」
「まぁ、さすがは国内最高峰の魔法学園だな。勉強会を開いてみんなで復習しよう」

 彼女らの声を聞きながら、俺も一緒に荷物を整理する。
 “ルトハイム魔法学園”では頻繁に実地試験や小テストがあるので、毎日修行や勉強に手を抜けない。
 授業終わりはみんなと勉強し、夜は局部を鍛え、ある意味健康的な生活を送っている。
 断罪フラグはやはり心配だが、充実した日々だ。
 ただ、問題が一つ……。
 懸念点を考えたとき、ドカッと何かが背中にのしかかった。
 ほのかな甘い香りが鼻をくすぐる。

「ギル師匠、ボクも勉強に連れていってください!」
「だ、だから、いきなり飛びつくなって言っているだろっ」

 そう、ルカだ。
 “キタルの森”での試験以来、ギル師匠と呼ばれるほどすっかり懐かれてしまった。
 仲良くしてくれるのはありがたいものの、正直なところ原作主人公と接すると、それだけで断罪フラグを呼び込んでいるようで落ち着かない。
 だが、無下にするとそれはそれで断罪フラグが発生しそうなので、様子見という名の傍観をするばかりだった。

「相変わらず、ギルベルトとルカは仲がいいわね」
「あまりくっつきすぎると迷惑ですよ」

 ルカにベタベタされても、カレンとネリーはそれほど怒らない。
 女の子じゃないからだろう。
 ルカはいいけど、女子と隠れて密会でもしようものなら俺はたぶん死ぬな。
 断罪フラグとはまた別の要因で。
 とにかく真面目に誠実に過ごしたいものだ。
 思いのほか抱きつきの勢いが強く、前かがみになっていたらルカは慌てた様子で俺から離れた。

「ご、ごめんなさい、ギル師匠っ。大丈夫ですかっ」
「ああ、別に平気だよ。ただ、ルカも怪我すると危ないからな」
「その優しさが……ボクをダメにする」
「え?」
「あ、いやっ、何でもないです」

 ルカは俺から離れると、外を見て物思いにふける。
 やけに哀愁漂う顔なんだよな。
 何かこう……内に秘めた自分の意志との葛藤みたいな思いを感じさせた。
 ほぼ毎回行うこの謎の挙動も俺を不安にさせる。
 頼むから断罪フラグは呼びこまないでくれよ。
 さあ帰ろうかと四人で席を立ったとき、ガラッ! と教室の扉が乱暴に開かれた。
 クレマンよりさらにガタイのいい男が姿を現す。
 黄色が強めの金髪はオールバックにまとめ、濃い緑の瞳は猛禽類のように鋭い。
 前世のヤンキーとか不良を思わせる雰囲気だ。
 男は教室を見渡すと、威圧するように言った。

「おい、一年生ども。動くんじゃねえ」

 粗雑なガラガラとした声が教室に響き、一年生はみな帰り支度を止めた。
 男の後ろには、取り巻きと思われる三人の女生徒が控える。
 一年生たちを睨む四人組を見て、教室の雰囲気が変わった。
 隣にいるネリーが心配そうに呟く。

「ギルベルト様、あの人たちはもしかして……」
「ああ、面倒なことになりそうだ」

 先頭の男が誰なのか、前世でゲームをプレイした俺にはわかっていた。
 いや、一年生たちも知っているだろう。
 とある方面で有名だから。
 あいつは……。

 ――ミハエル・エスターライヒ。

 三大公爵家の一角、エスターライヒ家の跡取り息子で、この学園の二年生。
 原作でもギルベルトほどではないものの、高圧的で暴力的なムカつく先輩だった。
 ミハエルに目をつけられると退学するまでいじめられる……という設定があり、”悪童”と呼ばれるほどだ。
 ただ悪いだけでなく、雷魔法の強力な使い手でもある。
 もちろん、ちゃんとざまぁ展開もあり、【メシア・メサイア】の人気に拍車をかけたわけだが……。
 ここに来た理由はわからないが、こういう輩は刺激しないに限る。
 ミハエルは静まり返った様子を見ると、取り巻きを引き連れ満足気に教室の中を歩く。
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