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第54話:アタクシはこんなところで死ぬの?(Side:シホルガ⑤)

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「……ひっ」

 アタクシは王宮の一室に隠れていた。
 闇魔法に追いかけられているうちに、こんなところまで来てしまったのだ。
 ここがどこかもわからなかった。
 部屋の外は闇魔法が充満している。
 一歩でも出たら襲われるだろう。
 とてもじゃないけど逃げられるわけもなかった。

「お、お願い……誰か助けて……」

 震える声で助けを呼ぶ。
 だけど、誰かが助けに来ることなどありえなかった。
 もしかしたら、みんな死んでしまったかもしれない。
 そう思った瞬間、アタクシの心は恐怖でいっぱいになってきた。
 ア、アタクシはこんなところで死んでしまうの?
 恐怖で体がガチガチと震える。
 必死に気持ちを落ち着かせようとするも、まったく効果がなかった。
 ど、どうしよう。
 誰か助けに来なさいよ。
 と、そのとき、外の方で誰かが戦っている声がしてきた。

「「おい! いっせいに攻撃するぞ! 全員の力を合わせるんだ!」」

 男性の力強い声が響く。
 衛兵たちだ。
 やった、助かった。
 きっと、アタクシを助けに来たのよ。
 王宮の衛兵たちは手練れ揃いと聞いている。
 闇魔法なんかあっという間に倒してくれるわ。

「「行くぞ!」」

 しばらく、剣を振るうような音がする。
 よくわからないけど優勢だ。
 これなら大丈夫そうね。
 さっさと闇魔法を倒してアタクシを助けに来なさい。
 そう思った直度、衛兵の悲鳴が聞こえてきた。

「な、なんて力だ! こんなに強い闇魔法があるのか!?」
「ぐあああ! 足をやられた! 頼む、助けてくれ!」
「わかった! 待ってろ! 今すぐ……!」
 
 直後、声は聞こえなくなってしまった。
 シーン……としたまま何も聞こえない。
 不気味な静寂が重くのしかかる。
 いや、一つだけ音が聞こえていた。
 闇魔法が蠢く気持ち悪い音だけだ。
 ど、どうしたのよ。 
 状況を確認するため、アタクシはそっとドアを開ける。
 空いた隙間から外の様子が見えた。
 衛兵たちは地面に倒れている。
 胸が動いているから生きてはいるようだ。
 え?
 ちょ、ちょっと、あんたたちは手練れの衛兵じゃないの?
 早くアタクシを助けなさい!
 弱くて情けない衛兵たちを睨んでいたら、黒いもやが振り向いた。
 ジッ……とアタクシを見ている。

「あ……」

 し、しまった……闇魔法に見つかった。
 直後、黒いもやが勢い良く襲い掛かってきた。
 
「ぎゃあああ!」

 机にぶつかり椅子を蹴飛ばし、一目散に窓へと向かう。
 こんなところで死んでたまるもんですか!
 しかし、窓から外を見たとき絶望のどん底に突き落とされた。

「ウ、ウソ……」

 た、高い……。
 地面がずっと遠くにあった。
 最低でも3階の高さはある。
 知らないうちに王宮の上の方まで来てしまったようだ。
 こんな高いところから飛び降りたら絶対に死んでしまう。 
 後ろを見ると、黒いもやはじりじりと近づいていた。
 どことなく嬉しそうに見えた。
 表情や顔なんてあるはずないのに。

「い、いや、やめなさい! こっちに来るんじゃありません!」

 ブンブンと手を振って追い払うも、闇魔法が逃げていくはずもなかった。
 窓ガラスが背中に当たる。
 ひんやりとした冷たさが途方もなく気持ち悪かった。
 このまま飛び降りるか、黒いもやに襲われるしかない。

――も、もうダメだ。

 死の恐怖から逃げるように目をつぶる。
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