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第二章 田舎娘とお猫様の初めての都会
田舎娘は、魔王城で過ごす【ΦωΦ】
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マロンがオルカリムを持っているということが発覚してからというもの、私はジャル様が言っていた通り魔王様のお城……通称というかそのまんま『魔王城』で、客人としてもてなされている。ここに来てもう十日目だ。
「お部屋が豪華すぎて落ち着かない」
「ニャン?」
私に宛がわれたのは、使用人が寝泊まりするような部屋ではなく客室だった。私の家よりも広い部屋には、毛足の長いふかふかの絨毯が敷かれ、豪華だけれど品の良い艶々の家具が置かれている。
他にも、私が今腰掛けている椅子は、座面がほどよい弾力性を持っているからお尻に優しい。テーブルも綺麗な円形で、珍しい紫色の木材を使用していた。
私のために用意された紅茶は香り高く、甘味の他にも軽食の乗った可愛らしいスタンドもある。マロンには職人技で柔らかく茹でた肉が提供されていて、本当に至れり尽くせりだ。
「こんなに美味しい料理が出てくるのに、私なんかが本当にジャル様の専属シェフになんてなれるの? 自信……はそもそもなかったけど、さすがに気が引けるよ」
「ゥニャア」
「マロンは嬉しそうだね。うん、そうだよね、ご飯が美味しいもんね……」
このお城の美味しいお肉に慣らされてしまったら、マロンはもう我が家のパサパサ肉なんて食べてくれないだろう。それならせめて、家に帰る前に肉を柔らかく茹でるコツを教えてもらいたいところだ。マロンのための技術なら、盗めるものはなんでも盗む所存である。
そのマロンだが、オルカリム持ちであるということは城の者たちに周知徹底されている。不用意にマロンのことを刺激しないように、という意味合いがあったはずなのだが、好奇心旺盛な城勤めの魔族はことあるごとに私たちの元にやって来る。そしてマロンにちょっかいを出し、ネコパンチでKOされるということを繰り返していた。
遠慮のない魔族の人たちにも問題はあるけど、それが気に食わないからって毎回ボコボコにするマロンの態度はどうかと思う。史上稀に見る甘えん坊な奇跡のニャンコはどこにいった。
今のところは魔族の方々の度量の広さのおかげで特にお咎めはないんだけれど、いつの日か手打ちになるんじゃないかと、ヒヤヒヤを通り越して生きた心地がしない。
二時間ほど前にも一人吹っ飛ばしたことを思い出して、私は身震いした。その人はマロンの可愛さにメロメロになっていたんだけど、動物との触れ合いが下手くそだったせいで一発パンチをされていたのだ。一応「大丈夫、平気平気。むしろこれはこれでいい」と赦してもらっている。
「もう、マロン、手当たり次第に人を攻撃しちゃだめだよ」
「……ナォ」
マロンは私の言葉に、ほんの少しだけ不満げに鳴いて返事をした。
お茶の時間も終了して一息ついていた時、コンコンという扉をノックする音が聞こえてきた。私は慌てて身形を整えてから、扉の向こうに立つ人物に声を掛ける。
「どちら様ですか?」
「ボクだよー。今日もマロンの観察をしてもいいかい?」
この声はサディさんだ。また知らない魔族が来たのかと身構えていたので、少しだけホッとした。
「開いていますので、どうぞお入りください」
「はーい、お邪魔しまーす」
なんとも軽い口調で挨拶をしながら、サディさんがこの部屋に入って来た。
彼はここ数日、毎日私たちの元にやって来ている。これもマロンの体調管理や生態調査のためなんだけど、たぶんそれだけが目的ではないと私は思っている。
というのも、マロンはサディさんに対してはかなりの塩対応なのだ。彼もその姿しか知らなければ特に思うことはなかったんだろうけど、私やガルさんに対してはマロンは甘えるところを見ている。だから、自分にも甘えて欲しいと躍起になっているのだ。
ただ、猫は構おうとすればするほどツンツンする生き物なので、サディさんの日々の努力は逆効果になっているような気がする。あと、たぶん白衣がよくない。マロンは白衣を着ている人間を全部医者だと思っている節があるから。
そういったことはもちろんサディさんには伝えているんだけど、彼はマロンを前にしたらそのことを忘れて突撃しちゃうから、未だにネコパンチの餌食になり続けていた。
「はぁーい、マロン! 今日こそはボクにもスリスリを……」
今日も今日とてサディさんは、両手を広げて一目散にマロンの元へと向かっていく。猫の目線から見るその姿は、威嚇している熊に等しいだろう。なので、やはりというか。
「ミッ!」
「ヴッ」
ものの見事にネコパンチを食らっていた。
今日のマロンはサディさんに飛び掛かりながらパンチを繰り出していたので、どうやらみぞおちに凶悪なお手々が突き刺さったようだ。サディさんはみぞおちを押さえながらその場に蹲ってしまった。
「き、今日のは一段と激しい歓迎だね……」
「あの、大丈夫ですか?」
いつものように声を掛ければ、サディさんはうう、と小さな呻き声を漏らしながらも気丈に笑顔を見せてくれる。
「ふ、ふふ、大丈夫さ」
そうは言うけれど、彼の額に脂汗が滲んでいるのが見えたので、今回はさすがに苦しかったようだ。
私はサディさんに駆け寄り彼の体を支える。おや、サディさんは私が思っていた以上に体が薄くて華奢みたいだ。着ている服も体型が分かりにくいものだったから気付かなかった。
この新たな発見に内心でホクホクしていると、私の傍にマロンがやって来ていた。
「ニャーア」
「マロン、ちょっと待っててね」
構って欲しいと要求するマロンに一声掛けてから、私はサディさんをゆっくりと立ち上がらせる。彼も痛みは若干引いてきたようで、どうにか動けるくらいには回復していた。
「いつもごめんね、アイラ」
「こちらこそ、いつもマロンがすみません」
私がサディさんに頭を下げているのが面白くなかったのか、それとも自分の要求が後回しにされたからか。
マロンはつまらなそうにフンス、と短い息を吐いた。
ΦωΦ
アタシは今、おっきなおうちの中にいる。もちろんご主人さまも一緒よ。
このおうちは一日じゃ全部探検できないくらいに広いから、今のところは楽しいわ。あと、出てくるご飯がとっても美味しいの! 毎日たくさんのオヤツをもらっている気分だわ。
でも、イヤなこともあるのよ。それは毎日、いろんなヤツがアタシをベタベタ触りに来ること!
ご主人さまや、ご主人さまをここまで連れて来た『ガル』とか『ジャル』とかいうオスみたいに上手に撫でてくれればいいんだけど、だいたいのヤツは下手に触るのよ。もう、気持ち悪いったらないわ。
だからアタシは「やめてちょうだい」って言ってネコパンチをお見舞いしてやるの。そうしたら相手も触るのをやめてくれるし、私の気分も清々するわ。
だけど、ご主人さまからはあんまり攻撃しちゃだめって言われてるの。うーん、ご主人さまが言うならしょうがないわね。今度からはアタシが特に嫌いなヤツにだけネコパンチすることにするわ。
そうそう、嫌いなヤツといえば、『サディ』とかいう白い服を着たアイツが一番苦手なのよね。初対面の時に突然手を伸ばしてきたから反射的にパンチしちゃったし。アイツ、とにかく無遠慮なのよ。
どうもサディはお医者さまみたいなことをしているらしいわ。でも、アイツは昔通っていた病院のお医者さまみたいに注射もしなければ体温も測ってこないから、ちょっとはマシかもしれないわね。
でも、アイツのアタシのカラダを舐め回すように見つめる目は気持ち悪いわ。きっとああいうヤツのことをヘンタイっていうのよ。アタシ知ってるわ、ヘンタイは危険なヤツだって。だから、ご主人さまに近付けないようにしなくちゃ!
……むむっ、この足音は、間違いない、サディだわ!
アイツ、性懲りもなく今日も来たのね。見てらっしゃい、この部屋に入ってきた瞬間にネコパンチをしてやるんだから。
「お部屋が豪華すぎて落ち着かない」
「ニャン?」
私に宛がわれたのは、使用人が寝泊まりするような部屋ではなく客室だった。私の家よりも広い部屋には、毛足の長いふかふかの絨毯が敷かれ、豪華だけれど品の良い艶々の家具が置かれている。
他にも、私が今腰掛けている椅子は、座面がほどよい弾力性を持っているからお尻に優しい。テーブルも綺麗な円形で、珍しい紫色の木材を使用していた。
私のために用意された紅茶は香り高く、甘味の他にも軽食の乗った可愛らしいスタンドもある。マロンには職人技で柔らかく茹でた肉が提供されていて、本当に至れり尽くせりだ。
「こんなに美味しい料理が出てくるのに、私なんかが本当にジャル様の専属シェフになんてなれるの? 自信……はそもそもなかったけど、さすがに気が引けるよ」
「ゥニャア」
「マロンは嬉しそうだね。うん、そうだよね、ご飯が美味しいもんね……」
このお城の美味しいお肉に慣らされてしまったら、マロンはもう我が家のパサパサ肉なんて食べてくれないだろう。それならせめて、家に帰る前に肉を柔らかく茹でるコツを教えてもらいたいところだ。マロンのための技術なら、盗めるものはなんでも盗む所存である。
そのマロンだが、オルカリム持ちであるということは城の者たちに周知徹底されている。不用意にマロンのことを刺激しないように、という意味合いがあったはずなのだが、好奇心旺盛な城勤めの魔族はことあるごとに私たちの元にやって来る。そしてマロンにちょっかいを出し、ネコパンチでKOされるということを繰り返していた。
遠慮のない魔族の人たちにも問題はあるけど、それが気に食わないからって毎回ボコボコにするマロンの態度はどうかと思う。史上稀に見る甘えん坊な奇跡のニャンコはどこにいった。
今のところは魔族の方々の度量の広さのおかげで特にお咎めはないんだけれど、いつの日か手打ちになるんじゃないかと、ヒヤヒヤを通り越して生きた心地がしない。
二時間ほど前にも一人吹っ飛ばしたことを思い出して、私は身震いした。その人はマロンの可愛さにメロメロになっていたんだけど、動物との触れ合いが下手くそだったせいで一発パンチをされていたのだ。一応「大丈夫、平気平気。むしろこれはこれでいい」と赦してもらっている。
「もう、マロン、手当たり次第に人を攻撃しちゃだめだよ」
「……ナォ」
マロンは私の言葉に、ほんの少しだけ不満げに鳴いて返事をした。
お茶の時間も終了して一息ついていた時、コンコンという扉をノックする音が聞こえてきた。私は慌てて身形を整えてから、扉の向こうに立つ人物に声を掛ける。
「どちら様ですか?」
「ボクだよー。今日もマロンの観察をしてもいいかい?」
この声はサディさんだ。また知らない魔族が来たのかと身構えていたので、少しだけホッとした。
「開いていますので、どうぞお入りください」
「はーい、お邪魔しまーす」
なんとも軽い口調で挨拶をしながら、サディさんがこの部屋に入って来た。
彼はここ数日、毎日私たちの元にやって来ている。これもマロンの体調管理や生態調査のためなんだけど、たぶんそれだけが目的ではないと私は思っている。
というのも、マロンはサディさんに対してはかなりの塩対応なのだ。彼もその姿しか知らなければ特に思うことはなかったんだろうけど、私やガルさんに対してはマロンは甘えるところを見ている。だから、自分にも甘えて欲しいと躍起になっているのだ。
ただ、猫は構おうとすればするほどツンツンする生き物なので、サディさんの日々の努力は逆効果になっているような気がする。あと、たぶん白衣がよくない。マロンは白衣を着ている人間を全部医者だと思っている節があるから。
そういったことはもちろんサディさんには伝えているんだけど、彼はマロンを前にしたらそのことを忘れて突撃しちゃうから、未だにネコパンチの餌食になり続けていた。
「はぁーい、マロン! 今日こそはボクにもスリスリを……」
今日も今日とてサディさんは、両手を広げて一目散にマロンの元へと向かっていく。猫の目線から見るその姿は、威嚇している熊に等しいだろう。なので、やはりというか。
「ミッ!」
「ヴッ」
ものの見事にネコパンチを食らっていた。
今日のマロンはサディさんに飛び掛かりながらパンチを繰り出していたので、どうやらみぞおちに凶悪なお手々が突き刺さったようだ。サディさんはみぞおちを押さえながらその場に蹲ってしまった。
「き、今日のは一段と激しい歓迎だね……」
「あの、大丈夫ですか?」
いつものように声を掛ければ、サディさんはうう、と小さな呻き声を漏らしながらも気丈に笑顔を見せてくれる。
「ふ、ふふ、大丈夫さ」
そうは言うけれど、彼の額に脂汗が滲んでいるのが見えたので、今回はさすがに苦しかったようだ。
私はサディさんに駆け寄り彼の体を支える。おや、サディさんは私が思っていた以上に体が薄くて華奢みたいだ。着ている服も体型が分かりにくいものだったから気付かなかった。
この新たな発見に内心でホクホクしていると、私の傍にマロンがやって来ていた。
「ニャーア」
「マロン、ちょっと待っててね」
構って欲しいと要求するマロンに一声掛けてから、私はサディさんをゆっくりと立ち上がらせる。彼も痛みは若干引いてきたようで、どうにか動けるくらいには回復していた。
「いつもごめんね、アイラ」
「こちらこそ、いつもマロンがすみません」
私がサディさんに頭を下げているのが面白くなかったのか、それとも自分の要求が後回しにされたからか。
マロンはつまらなそうにフンス、と短い息を吐いた。
ΦωΦ
アタシは今、おっきなおうちの中にいる。もちろんご主人さまも一緒よ。
このおうちは一日じゃ全部探検できないくらいに広いから、今のところは楽しいわ。あと、出てくるご飯がとっても美味しいの! 毎日たくさんのオヤツをもらっている気分だわ。
でも、イヤなこともあるのよ。それは毎日、いろんなヤツがアタシをベタベタ触りに来ること!
ご主人さまや、ご主人さまをここまで連れて来た『ガル』とか『ジャル』とかいうオスみたいに上手に撫でてくれればいいんだけど、だいたいのヤツは下手に触るのよ。もう、気持ち悪いったらないわ。
だからアタシは「やめてちょうだい」って言ってネコパンチをお見舞いしてやるの。そうしたら相手も触るのをやめてくれるし、私の気分も清々するわ。
だけど、ご主人さまからはあんまり攻撃しちゃだめって言われてるの。うーん、ご主人さまが言うならしょうがないわね。今度からはアタシが特に嫌いなヤツにだけネコパンチすることにするわ。
そうそう、嫌いなヤツといえば、『サディ』とかいう白い服を着たアイツが一番苦手なのよね。初対面の時に突然手を伸ばしてきたから反射的にパンチしちゃったし。アイツ、とにかく無遠慮なのよ。
どうもサディはお医者さまみたいなことをしているらしいわ。でも、アイツは昔通っていた病院のお医者さまみたいに注射もしなければ体温も測ってこないから、ちょっとはマシかもしれないわね。
でも、アイツのアタシのカラダを舐め回すように見つめる目は気持ち悪いわ。きっとああいうヤツのことをヘンタイっていうのよ。アタシ知ってるわ、ヘンタイは危険なヤツだって。だから、ご主人さまに近付けないようにしなくちゃ!
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