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第三章 魔王様の専属シェフとお猫様の日常
魔王様の専属シェフは、大衆食堂で食事をする
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「おいおい、どうしたんだ。なんか怖い顔をして」
こちらに戻ってきた店主さんは冷蔵庫らしい小さな箱を開けると、そこから何やら取り出した。
「これから料理しますんで、まずはこれでも食べて待っててくだせえ」
店主さんは言うと、いわゆる小鉢に相当するものを私たちの前に並べる。器の中身には緑が鮮やかな葉物野菜とアンチョビのようなものを和えてある冷菜が入っていた。
……なるほど、これはいわゆる『お通し』というものだろう。
前世ではマロンが家で待っていたから飲み会というものにほとんど参加したことがなかったので、居酒屋というものに縁がなかった。だけど、お通しという文化があることはさすがに知っている。
このお通しらしき小鉢と先ほどのジャル様たちの態度を考えると、この店主さんはやはり……私と同じ異世界から、それも日本から来た人なのかもしれない。いや、それはさすがに早計だろうか。
そんなことを考えている間にも、店主さんは次々と料理を作っていく。
大粒の黄色い豆を塩で炒めたものはホクホクしていてとても美味しい。これはお酒が欲しくなる味だ。立ち位置としては枝豆というよりは空豆といったところか。
ぶつ切りにした白身魚に塩胡椒とクガリンで下味を付けて、エルブ粉を軽くまぶして油で揚げたものも、素材がいいのかプリプリとしていてこれもとても美味しい。生前よく食べた唐揚げのようなものと言えば分かりやすいだろうか。
庶民の間では一般的な固い黒パンも、薄めに切って表面にレマバターと塩を振り両面をカリカリに焼き上げれば、これも立派なおつまみになる。逆に、砂糖をまぶしたらラスクのようなおやつになるだろう。
深いお皿で出てきたのは、見慣れないがおそらく海老のような甲殻類と二枚貝をママトと一緒に煮込んでいるスープだった。甲殻類と貝のいいお出汁がよく出ていて、毎日でもいただきたい一品だ。
そして……酢で締めてある魚の切り身と野菜を取り合わせたサラダ。ドレッシングは新鮮なオイルが使われているようで、全然くどくなくてさっぱりしていた。
「カーッ、やっぱり酒が欲しくなるな! 店主、いつものをくれ!」
ダニーさんは豆を食べながら店主さんにお酒を所望する。そんな彼を見てジャル様はまったく、とため息をついた。
「酒代は自分で出してくださいよ」
「分かってるって。なんなら酒だけは俺が奢ってやろうか?」
ダニーさんのその提案に、ジャル様の食べる手が一瞬止まる。それからしばらく考え込んで、小さく咳払いをした。
「……たまには、日中の飲酒もいいですかね」
「そうこなくっちゃな! お嬢ちゃんはどうする?」
「え? 私ですか?」
突然振られて、私は少しばかり困惑してしまった。そういえば今世ではお酒は全然飲んだことがない。前世でもほとんど飲んでいなかったけれども。
私ももう十八歳。お酒だって飲んでもいいはずだ。
「私もいただいていいですか? お料理に合わせる参考になりそうですし」
本当は飲んでみたいだけだという本音を隠しそれっぽい理由を添える。この理由を聞いて、ダニーさんだけでなくジャル様も納得してくれたようだった。
「よっし、全員飲むな! そういうことだから、この料理に合う酒をくれ!」
「へいへい」
店主さんはダニーさんの様子に呆れたように返事をしてからお酒を用意してくれた。木製のコップに並々と注がれているそれは、香りからしてワインだろうか。
私は魚の唐揚げを食べてから、お酒を一口飲んでみた。あっさりとした飲み口で、ぐいぐいといけそうなお酒だ。鼻から抜けていくフルーティーな香りが魚料理とバッチリ合う。
「大衆酒としてはなかなかにいい品だ。ここの料理にもピッタリでな」
「確かに、魚料理と相性がいいですね」
「だろう?」
ダニーさんはなぜか自慢げに笑うと、豆の塩焼きに手を伸ばした。
最後に出てきた料理は、ダニーさんが美味しいと言っていた季節の野菜と魚介類のフリッター……天ぷらだった。
やっぱり、間違いない。
店主さんは、少なくとも日本から来ている人だ。彼が転生なのか転移なのかは分からないところだけれど。
私の浮かべている表情に気がついたのだろう。ジャル様とダニーさんが私の顔を覗き込んで、次に店主さんを見た。
私たちに穴が空くほど見つめられている店主さんは、困惑したように目をキョロキョロとさせる。
「お、おい、どうしたんだよ、俺の顔になんか付いてるか?」
そんなふうに尋ねてきた店主さんに、私たちは三人とも考えているだろうことを彼に伝えることにした。代表して言葉にするのはジャル様だ。
「店主、つかぬことをお聞きしますが、あなたはもしかして前世の記憶を持っているか……あるいは、この世界ではない世界で生きていたのではないですか?」
予想だにしない質問だったのか店主さんはポカンと口を開け目を丸くする。その後ううむ、と唸った彼は、小さく頷いてからジャル様の質問に答えた。
こちらに戻ってきた店主さんは冷蔵庫らしい小さな箱を開けると、そこから何やら取り出した。
「これから料理しますんで、まずはこれでも食べて待っててくだせえ」
店主さんは言うと、いわゆる小鉢に相当するものを私たちの前に並べる。器の中身には緑が鮮やかな葉物野菜とアンチョビのようなものを和えてある冷菜が入っていた。
……なるほど、これはいわゆる『お通し』というものだろう。
前世ではマロンが家で待っていたから飲み会というものにほとんど参加したことがなかったので、居酒屋というものに縁がなかった。だけど、お通しという文化があることはさすがに知っている。
このお通しらしき小鉢と先ほどのジャル様たちの態度を考えると、この店主さんはやはり……私と同じ異世界から、それも日本から来た人なのかもしれない。いや、それはさすがに早計だろうか。
そんなことを考えている間にも、店主さんは次々と料理を作っていく。
大粒の黄色い豆を塩で炒めたものはホクホクしていてとても美味しい。これはお酒が欲しくなる味だ。立ち位置としては枝豆というよりは空豆といったところか。
ぶつ切りにした白身魚に塩胡椒とクガリンで下味を付けて、エルブ粉を軽くまぶして油で揚げたものも、素材がいいのかプリプリとしていてこれもとても美味しい。生前よく食べた唐揚げのようなものと言えば分かりやすいだろうか。
庶民の間では一般的な固い黒パンも、薄めに切って表面にレマバターと塩を振り両面をカリカリに焼き上げれば、これも立派なおつまみになる。逆に、砂糖をまぶしたらラスクのようなおやつになるだろう。
深いお皿で出てきたのは、見慣れないがおそらく海老のような甲殻類と二枚貝をママトと一緒に煮込んでいるスープだった。甲殻類と貝のいいお出汁がよく出ていて、毎日でもいただきたい一品だ。
そして……酢で締めてある魚の切り身と野菜を取り合わせたサラダ。ドレッシングは新鮮なオイルが使われているようで、全然くどくなくてさっぱりしていた。
「カーッ、やっぱり酒が欲しくなるな! 店主、いつものをくれ!」
ダニーさんは豆を食べながら店主さんにお酒を所望する。そんな彼を見てジャル様はまったく、とため息をついた。
「酒代は自分で出してくださいよ」
「分かってるって。なんなら酒だけは俺が奢ってやろうか?」
ダニーさんのその提案に、ジャル様の食べる手が一瞬止まる。それからしばらく考え込んで、小さく咳払いをした。
「……たまには、日中の飲酒もいいですかね」
「そうこなくっちゃな! お嬢ちゃんはどうする?」
「え? 私ですか?」
突然振られて、私は少しばかり困惑してしまった。そういえば今世ではお酒は全然飲んだことがない。前世でもほとんど飲んでいなかったけれども。
私ももう十八歳。お酒だって飲んでもいいはずだ。
「私もいただいていいですか? お料理に合わせる参考になりそうですし」
本当は飲んでみたいだけだという本音を隠しそれっぽい理由を添える。この理由を聞いて、ダニーさんだけでなくジャル様も納得してくれたようだった。
「よっし、全員飲むな! そういうことだから、この料理に合う酒をくれ!」
「へいへい」
店主さんはダニーさんの様子に呆れたように返事をしてからお酒を用意してくれた。木製のコップに並々と注がれているそれは、香りからしてワインだろうか。
私は魚の唐揚げを食べてから、お酒を一口飲んでみた。あっさりとした飲み口で、ぐいぐいといけそうなお酒だ。鼻から抜けていくフルーティーな香りが魚料理とバッチリ合う。
「大衆酒としてはなかなかにいい品だ。ここの料理にもピッタリでな」
「確かに、魚料理と相性がいいですね」
「だろう?」
ダニーさんはなぜか自慢げに笑うと、豆の塩焼きに手を伸ばした。
最後に出てきた料理は、ダニーさんが美味しいと言っていた季節の野菜と魚介類のフリッター……天ぷらだった。
やっぱり、間違いない。
店主さんは、少なくとも日本から来ている人だ。彼が転生なのか転移なのかは分からないところだけれど。
私の浮かべている表情に気がついたのだろう。ジャル様とダニーさんが私の顔を覗き込んで、次に店主さんを見た。
私たちに穴が空くほど見つめられている店主さんは、困惑したように目をキョロキョロとさせる。
「お、おい、どうしたんだよ、俺の顔になんか付いてるか?」
そんなふうに尋ねてきた店主さんに、私たちは三人とも考えているだろうことを彼に伝えることにした。代表して言葉にするのはジャル様だ。
「店主、つかぬことをお聞きしますが、あなたはもしかして前世の記憶を持っているか……あるいは、この世界ではない世界で生きていたのではないですか?」
予想だにしない質問だったのか店主さんはポカンと口を開け目を丸くする。その後ううむ、と唸った彼は、小さく頷いてからジャル様の質問に答えた。
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