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盲目の聖女9

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 判決が言い渡される前の休憩の時間となり、ユリアナは執事に手を引かれ、貴族院の要人用の控室に向かっていた。

 ——あの発言で、良かったのかな……。

 必要と思ったから発言したけれど、そもそも聖女であることを止めようとしたのは自分だ。だから、全ての罪は自分が負うべきものなのに、それを十分に伝えきれたように思えない。

 この審問会の内容では、レオナルドが悪い人のように聞こえてしまう。どうにかして、そのイメージを払拭したかった。

 ここまでくると判決を待たないといけない。本当はすぐにでも彼に会いたいけれど、証人である自分がレオナルドに近づくことはできない。

 レームがレオナルドだと気がついていたことを言ってしまったけれど、大丈夫だろうか。彼は何度も自分の名前を呼んでいた。それに加えて、ユリアナのことを愛しているとまで言っていた。

 信じられないことの連続で、何をどう考えていいのかわからない。単に、彼が不利にならない証言をしたいと来ただけなのに、思わぬ状況に投げ込まれてしまったようで、ユリアナは落ち着かなかった。

「お嬢さま、段差がございますので、ゆっくりとお進みください」
「ここかしら」

 コツ、コツと杖を使いながら歩いていく。初めての建物は慣れないためただでさえ緊張感が伴う。耳にはレオナルドの「愛している」の言葉がこだましているが、うっかりするとどこかに躓きかねない。

 慎重に歩いていると、大法廷を出て廊下の突き当りを曲がったところでユリアナは声をかけられた。

「先見の聖女様でいらっしゃいましたら、こちらの部屋が控室となります」
「はて、そのようには聞いていないが」
「聖女様のために、お部屋を暖めてあります。どうぞお入りください」

 丁寧な物言いの女官に招かれ、ユリアナ達は確かめる術もなく開けられた扉の中に入っていく。暖炉には赤々と火が灯り、足元も暖をとれるように絨毯がひかれている。そこには意外な人物がユリアナを待っていた。

「そなたが先見の聖女か」
「……そうですが、ご一緒させて頂いてもよろしいですか?」

 執事は息を呑み身体を強張らせていた。目の見えないユリアナには相手が誰なのかわからず、戸惑うしかない。低い声をした女性の話しぶりからすると、かなり年齢の高い人のように思える。

「そこにあるイスにお座りなさい」
「はい、ありがとうございます」

 執事は指示された場所までユリアナを案内すると、「そのものは部屋の外で待つがよい」と言われてしまう。そのまま執事は部屋の外へ行ってしまい、どうやら控え室にはユリアナと女性ひとりしか残らなかった。

「あの、お名前を伺ってもよろしいですか?」
「あぁ、私は神殿長をしているシャレール・ビレオだ」
「……! まぁ、神殿長様でしたか」

 ユリアナは口元に手を当てた。まさか、神殿長と話すことになるとは思ってもいなかった。確かに聖女であれば神殿の管轄になる。女官が間違えて案内したのかと思ったが、どうやらそうではなかった。

「そなたと話したいと思っておったが、なかなか会えずにいた。森の中にいては、さぞかし寂しかったであろう」
「そんなことは、……ありません」

 彼女は何が言いたいのだろう。これまで、父からは神殿には近づいてはいけないと言われて続けて来た。一度でも神殿に入れば、もう二度と外に出ることは叶わないとまで聞いていた。

 それに審問会で、シャレールはレオナルドのことを訴えた張本人だ。主訴ではレオナルドのことを『粗野で横暴な王子』とまで言っていた。そんな人物と、あまり話をしたいとは思えない。

「私を恨んでいるだろう。先ほどの審問会の話では、そなたは第二王子のことをずいぶんと大切に思っているようであったな」
「……」
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