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盲目の聖女10
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ユリアナは何と答えていいのか、わからなかった。神殿のことについて、知らないことが多すぎる。秘匿の聖女のスカラは彼女のことを嫌っていたが、今自分に静かに語り掛けている人物について、ユリアナが知っていることは少ない。
人伝えに聞いたことだけで判断することは避けたかった。自分に話しかけてくる人を、むやみに嫌うことのできるユリアナではなかった。
「先見をしたようであったな。それも王子の未来を」
「……はい」
「これで三度目であろう。そなたは余程、王子のことが好きなようだな」
「神殿長様。なぜ、そう思われるのですか? 先見と感情と何か関係があるのでしょうか」
言葉の端々に、彼女が先見の力について何かを知っていることが伺われた。聖女の力は自分でもわからないことが多い。教えて欲しいと、ユリアナは静かに問いかけた。
すると目の前に座っているシャレールは、まるで懐かしい思い出を語るような口調で話し始めた。
「私の恩人がそうだった。そなたも話には聞いておろう、先代の先見の聖女だ。そなたの父親の、祖叔母になるか。彼女も好いた相手のことはよく先見しておった」
「その方を知ってらっしゃるのですか?」
「あぁ。私にとって姉のような存在であった。本当に優しくて、美しかった」
シャレードはうっとりとしたような声で、聖女の話をユリアナに聞かせ始めた。まだシャレードが幼い頃の話だった。家族と引き離され、泣いてばかりいた彼女を慰め、支えてくれたのが先代の先見の聖女であったという。
「それを……、王家が利用して彼女を殺したのだ。あれほど、心の美しい人を」
「あの、それはどういうことですか?」
ユリアナは身を乗り出すようにして話を聞こうとしたところで、ドアを叩く音がする。どうやら、判決が決まったため、大法廷に集まるようにとの連絡だった。
「そなたは無理をせず、ここで待つがよい。副議長の声は聞こえるようになっておる。人々の前に立つのも、慣れてなければ辛かろう」
「ええ、そうして貰えると助かります」
「神殿の女官をひとりつけておくから、安心せよ」
「はい、ありがとうございます」
ユリアナはその場で、判決が言い渡されるのを待っていた。握りしめる手に汗をかいてしまう。
すると再開を告げる木槌の音が会場に響きわたる。ユリアナは再び緊張すると、鈴をきゅっと握りしめた。
——どうか、悪いことになりませんように……!
図らずしも二人が互いに想いあっていたことを表明した。決してレオナルドの一方的な暴力ではないことを証言した。心象は良くなったはずだからと、祈る気持ちで手を組み合わせる。
だが、副議長の口から言い渡された内容は予想を裏切るものだった。
『レオナルド第二王子は神殿に所属する先見の聖女の力をはく奪する行為を行った。そのため王位継承権の放棄と王籍からの除籍を命じる。神殿へ百億コルの賠償金の支払い、また三年間の謹慎を申し渡す』
王子という地位を失くした上に多大な賠償金の支払い、更に謹慎という判決に会場全体が騒然としている。ユリアナも心をかき乱され、唇を噛みしめた。
——どうして? レオナルド殿下が王籍をはく奪されるなんて、どうして?
予想していた以上に悪い判決内容に、ユリアナは身体を震わせた。聖女の力を失った責任を、彼ひとりに背負わせるなどおかしい。自分が頼んだのだから、罰を受けるのは自分であるべきだ。
今から副議長のところへ行って、抗議をすればいいのだろうか。でも、審問会で結論の出たことを覆せるのだろうか。できるとしたら、彼を訴えた神殿ではないだろうか。
必死になって考えているうちに、シャレールが控え室に戻って来る。部屋に入るなり、ユリアナはシャレールに必死になって訴えた。
人伝えに聞いたことだけで判断することは避けたかった。自分に話しかけてくる人を、むやみに嫌うことのできるユリアナではなかった。
「先見をしたようであったな。それも王子の未来を」
「……はい」
「これで三度目であろう。そなたは余程、王子のことが好きなようだな」
「神殿長様。なぜ、そう思われるのですか? 先見と感情と何か関係があるのでしょうか」
言葉の端々に、彼女が先見の力について何かを知っていることが伺われた。聖女の力は自分でもわからないことが多い。教えて欲しいと、ユリアナは静かに問いかけた。
すると目の前に座っているシャレールは、まるで懐かしい思い出を語るような口調で話し始めた。
「私の恩人がそうだった。そなたも話には聞いておろう、先代の先見の聖女だ。そなたの父親の、祖叔母になるか。彼女も好いた相手のことはよく先見しておった」
「その方を知ってらっしゃるのですか?」
「あぁ。私にとって姉のような存在であった。本当に優しくて、美しかった」
シャレードはうっとりとしたような声で、聖女の話をユリアナに聞かせ始めた。まだシャレードが幼い頃の話だった。家族と引き離され、泣いてばかりいた彼女を慰め、支えてくれたのが先代の先見の聖女であったという。
「それを……、王家が利用して彼女を殺したのだ。あれほど、心の美しい人を」
「あの、それはどういうことですか?」
ユリアナは身を乗り出すようにして話を聞こうとしたところで、ドアを叩く音がする。どうやら、判決が決まったため、大法廷に集まるようにとの連絡だった。
「そなたは無理をせず、ここで待つがよい。副議長の声は聞こえるようになっておる。人々の前に立つのも、慣れてなければ辛かろう」
「ええ、そうして貰えると助かります」
「神殿の女官をひとりつけておくから、安心せよ」
「はい、ありがとうございます」
ユリアナはその場で、判決が言い渡されるのを待っていた。握りしめる手に汗をかいてしまう。
すると再開を告げる木槌の音が会場に響きわたる。ユリアナは再び緊張すると、鈴をきゅっと握りしめた。
——どうか、悪いことになりませんように……!
図らずしも二人が互いに想いあっていたことを表明した。決してレオナルドの一方的な暴力ではないことを証言した。心象は良くなったはずだからと、祈る気持ちで手を組み合わせる。
だが、副議長の口から言い渡された内容は予想を裏切るものだった。
『レオナルド第二王子は神殿に所属する先見の聖女の力をはく奪する行為を行った。そのため王位継承権の放棄と王籍からの除籍を命じる。神殿へ百億コルの賠償金の支払い、また三年間の謹慎を申し渡す』
王子という地位を失くした上に多大な賠償金の支払い、更に謹慎という判決に会場全体が騒然としている。ユリアナも心をかき乱され、唇を噛みしめた。
——どうして? レオナルド殿下が王籍をはく奪されるなんて、どうして?
予想していた以上に悪い判決内容に、ユリアナは身体を震わせた。聖女の力を失った責任を、彼ひとりに背負わせるなどおかしい。自分が頼んだのだから、罰を受けるのは自分であるべきだ。
今から副議長のところへ行って、抗議をすればいいのだろうか。でも、審問会で結論の出たことを覆せるのだろうか。できるとしたら、彼を訴えた神殿ではないだろうか。
必死になって考えているうちに、シャレールが控え室に戻って来る。部屋に入るなり、ユリアナはシャレールに必死になって訴えた。
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