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第27話 圧倒的なりルドルフ

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「部下は雑魚ばかりだからな、俺自らやってきたぞ!」

 ルドルフはバトルアックスを振りかぶると、ドンッと床を蹴り、一気に間合いを詰めてきた。

「ニハルをいただきに来た!」
「させるかあ!」

 イスカもまた相手に向かって突っ込んでいく。

 攻撃の射程圏に入った瞬間、ルドルフは剛腕でもってバトルアックスを振り回し、イスカを腰から両断しようとした。

 が、イスカは巧みに体をさばいて、ルドルフの一撃をかわす。

 そのまま、流れるように、ルドルフの胴体へと斬りかかった。

 ギン! と鈍い金属音が鳴り響く。

「く……! なんて頑丈な鎧……!」

 一応、鉄板の継ぎ目を狙って斬ったつもりであるが、ルドルフは体勢を変えて、真正面からガードした。刀は鎧を叩くだけに終わり、まったく相手にダメージを与えられなかった。

「ふうんぬ!」

 ルドルフは振り返りざまに、バトルアックスによる薙ぎ払いを放ってきた。

 全体的に、ルドルフの攻撃は、パワーはあるものの鈍重である。イスカの能力なら、容易にかわせる。

 だけど、後が続かない。

 ルドルフの全身を守っている鎧が、イスカの攻撃を全て弾いてしまうのである。

 何度も攻防を繰り広げていくうちに、次第にイスカは追い込まれていった。

 何をやっても斬撃を防がれてしまう。そのため、体には疲れが溜まり、手も痺れを感じるようになってきた。

 その隙を、ルドルフは見逃さなかった。

「おおおらああ!」

 雄叫びとともに、ショルダータックルをかましてきた。バトルアックスの攻撃と違い、このタックルは非常にスピードが速い。それまでの攻撃テンポに慣れていたイスカは、なす術もなく、攻撃を喰らってしまった。

「あぐ!」

 吹っ飛ばされ、壁に激突する。

 意識を失いそうなところ、なんとか持ちこたえた。

 だが、

「ぬぅん!」

 ここでルドルフのバトルアックスによる一撃。

 無惨にも、イスカの顔面に斧が叩きつけられた。壁が砕け散り、その向こう側にイスカの上体は埋もれてしまう。ピクピクと体を痙攣させていたイスカだったが、やがて動かなくなった。

「ふん、手こずらせおって」

 ルドルフは鼻を鳴らすと、ゆっくりと、ニハルのほうへと顔を向けた。

「さあ……行こうか」
「あ……あ……」

 ニハルは涙を浮かべている。

 ルドルフのことが怖いからではない。

 イスカが、目の前で斧に叩き潰されてしまったからだ。

「そんな……! イスカ君! イスカ君!」

 ルドルフを無視して、動かないイスカのほうへと駆け寄ろうとするイスカ。

 その前に、ルドルフは立ちはだかった。

「諦めろ。俺の一撃を喰らって無事でいられるはずがない」

 ドゴ!

 ニハルの腹に、鉄拳を叩きつける。

「あ……かは……!」

 か弱いニハルは、その一発の拳で、あっさり意識を失ってしまった。

 崩れ落ちるニハルの体を、よいしょと持ち上げ、肩に乗せるルドルフ。

 下卑た笑みを浮かべて、顔の横にあるニハルの柔らかな尻を、いやらしい手つきで揉みしだいた。

「いい触り心地だ……今晩から、たっぷり可愛がってやるぞ」

 ははははは!

 大声で笑いながら、ルドルフは邸を後にした。

 ※ ※ ※

 異変に気がついたアイヴィー達が大寝室に駆けつけた時には、もう、ニハルは連れ去られてしまっていた。

「あああ! イスカーーー!」

 クイナは顔面蒼白になり、壁にめり込んでいるイスカのもとへと駆け寄った。

「まさか……」

 最悪の事態を想定したアイヴィーもまた、血の気の引いた顔で、倒れているイスカの体を見つめている。

「イスカ! イスカ! イスカ!」

 何度もその名を呼びながら、クイナはイスカの体を抱き起こした。

 イスカは……奇跡的に無事だった。

 いや、これは奇跡ではない。

 バトルアックスが顔面に叩きつけられる瞬間、咄嗟に刀で防いだのだ。しかし、そのまま上体を壁に押し込まれ、気は失ってしまった、というわけだ。

 斧に血がついているかどうかを見れば、ルドルフもすぐに気がついたことだろう。自分がイスカを仕留められなかった、ということに。

 だが、ルドルフは、ニハルを奪ったことで満足し、イスカの生死まで確認しなかった。

 おかげで、イスカはなんとか生きながらえた。

 しかし……

「ちょっと! おねーさまはどうしたの! おねーさまはどこよ!」

 室内の荒れ具合を観察していたライカが、焦った様子で、イスカのことを詰問してくる。

 イスカは、ふらつく頭を何度も振って、少しばかり気を取り直してから、申し訳なさに満ちた表情で、ライカに頭を下げた。

「ごめん……ルドルフが襲ってきて……さらわれた……」

 アイヴィーも、ライカも、愕然とする。まさか、カジノのオーナー自らここまで乗り込んできて、ニハルを連れ去るとは。

「なにやってんのよーーー! あんた、ボディガードじゃなかったのーーー⁉︎」
「落ち着け、ライカ。こいつだって真剣に戦ったはずだ。それでも負けた、っていうんなら、それはルドルフが異常に強かっただけだ」
「よくそんな悠長にしてられるね! あんただって、おねーさまのこと、好きなんじゃないの⁉︎」
「うるせえ! そんなこと言ってる状況じゃねーだろ! ニハルをどうやって取り返すか、そのことだけ考えてろ!」

 アイヴィーが怒鳴り、ライカは心配のあまりわんわんと泣き始める。

 その有り様を見ていたクイナは、チッ、と舌打ちした。

「気に食わないな……」
「師匠?」
「正直、ニハルがさらわれたことなどどうでもいいが、私の可愛いイスカを殺そうとしたことは、絶対に許せない……!」

 クイナは刀を抜き、ルドルフが出ていった壁の大穴へと切先を向けた。

「報復戦だ! サムライの誇りにかけて、そのルドルフという男に報復をするぞ!」
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